All Chapters of 艶撫亮~embryo~: Chapter 41 - Chapter 43

43 Chapters

第十章 亮、復讐の心を固める

   ♠ 亮「調査の結果を報告します。今からお話する内容は落ち着いて聞いていただきたいため、心の準備をしておいてください」夢人のパフォーマンスのあった日から一か月近く経過し、探偵が途中経過を報告しに自宅へ来た。探偵の男もなぜか緊張しているようで震えている。「まずはこの写真の男についてです」PCの画面に二枚の写真が表示されている。一枚は俺が撮影したグレースーツを着た男。もう一枚は、筋骨隆々で体の大きい男が眉間から血を垂らしながら、リングの上に立っている様だ。「彼の名前は清水淳。現在、四十五歳。十七年前まで地下格闘家として活動されていた経歴のある男です」「今は格闘家ではないんですね」「彼は地下格闘技界からも追放された身なのです。十七年前、彼は人を殺しています」初っ端からとんでもない話が飛び出た。彼はファンの女子高生を家に連れ込み飲酒を強い、酒の中に多量の薬物を仕込んだようだ。その子がオーバードーズを引き起こして死亡したという顛末だった。「彼は執行猶予なしで懲役五年を言い渡され、その後刑期を終えると『小中学生立ちんぼ倶楽部』というものにハマるのです」思わず手を固く握りながら話を聞いていた。「清水はそこで小野美里という先日自殺した女性と親しくなります。恐らく立ちんぼ倶楽部という名前から、やっている内容は大体想像がつきましょう。小野は当時十歳で小学五年生でした。だが、その後何年後かに立ちんぼ倶楽部は解体します。その後の清水の足取りはまだ調査途中です」集団のリーダーである丸顔の女性が言っていた内容と合致する。小野の担任の先生によって立ちんぼ倶楽部は発見されて解体に追い込まれる。「次はこの男になります」PCの画面は切り替わり、今度は全身包帯で包まれた夢人の写真が現れた。彼の写真はホームページに載っていたものだ。「表向きはケーキ職人ですが、仰っていただいた通り過去に訳アリの人間でございました」探偵はPCを操作して画像にもう一枚別の写真を表示した。一人の男の顔写真だ。外人みたいに濃い二重瞼で目と眉の距離も近く、鼻も高くて顎もしっかりしている。いわゆる堀の深いイケメンだ。「この男の本名は新木葵。『小中学生立ちんぼ俱楽部』の統括という立場だった人間です」名前を聞いて遠い記憶がよみがえった。
last updateLast Updated : 2026-02-11
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幻想と暴力にまみれた、美しくも無残なライブ①

  ♢ 唯織「今度、特別なライブがあるんだ」渋谷の街を一望できる高層マンションの十七階の部屋で、夢人と二人きりでいた。今日、彼の住居に初めて来た。ケーキ職人として相当儲かっているのか。特に金があるから惹かれるわけではないが、今まで売れない歌手の亮と同棲していたため感心を覚える。「特別なライブって何をするの」「私の所属している芸術家集団『日本ルネッサンス会』で合同ライブを行うんだ。ケーキだけではない、多くの要素から刺激を得られて面白いと思う」「何それ面白そう。どんなメンバーでやるの」「来て見てからのお楽しみ。サプライズもあるかもしれないし」夢人が椅子に座り体を微かに上下させていた。笑っているようだ。そんなに面白いライブになるのか、自然と期待が高まり当日が楽しみで仕方なくなる。ライブ当日、川崎駅から少し離れた風俗店のある通りを歩く。目的の建物に着くと階段を降り、重たい扉を開けた。仄暗い空間に色とりどりの電飾と真っ赤なカーペットが眩しい。黒いステージの上に人が立ち、その者は既視感のある顔を持つ。火傷した頭皮。右は潰れて左は瘤に覆われた目元。穴だけになった鼻。口周りに蜘蛛の巣状にできた傷。艶撫亮が円柱型の漆黒のステージの上にギターを担いで立っている。呆然としていると、亮も私に気が付いたようで、瘤の下の左目が見開いた。   ♠ 亮円形の漆黒なステージに立ち、紅色のカーペットが客席に敷かれている様子を確認する。カーペットの上にこちらを向いている者も、別の方向を向いている者もおり、バラバラな印象を受ける。ある者は夢人が作った装飾過多なケーキを食べていた。ある者は香炉を鼻に近づけて聞香を楽しんでいる。ある者は空間で繰り広げられる幻影の人々の演じるショーを観覧している。これが三浦主宰のライブだ。ルネッサンス会のメンバー、俺含めて四人がそれぞれの分野で魅惑的なパフォーマンスを行っている。夢人葵は会場の壁際に調理台を用意し、大胆なパフォーマンスでケーキを作る。腕を振り舞い、続々とケーキを誕生させる。顔をゴッホの肖像画に似せて整形して耳まで削ぎ落した男は、人が必要としている香りを読み取り、調合して練ったお香を香炉に入れて渡している。大巫女と自称する一生老けない体へと整形した女子中
last updateLast Updated : 2026-02-12
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幻想と暴力にまみれた、美しくも無残なライブ②

傍にいた探偵がおもむろに膝から倒れた。うつ伏せになった探偵の鼻にゴッホ男が香炉を添える。探偵の脇腹にパレットナイフが突き刺さっていた。「艶撫亮さん、何をしているのですか」夢人葵がこちらに近寄り、ステージにあるマイクを取る。「今から俗の世界からの侵入者に対して裁きを下します。この者が何者かは不明ですが、聖の世界に土足で踏み込む招かれざる客以外には考えられません。穢れはこの空間に最も似つかわしくございません」幻想に憑かれているような観客たちは急に騒ぎ出す。夢人の言葉に感化され、嬉々とした表情が黄金色に燦燦とする。「艶撫亮さん、この俗からの侵入者に対して追悼の意を込め、歌を送ってあげて下さい。胎児である亮さんが死を迎える人間に引導を渡す瞬間です。死と生が交差する、最も神聖な儀式を行うのです」夢人はマイクスタンドにマイクを戻し、包帯の中から鋭い視線を飛ばして俺の体を刺す。普段物腰の柔らかい男の、芯の通った意志の力は途轍もない。夢人の無形の力に引っ張られ、ステージ上に立たされる。反抗するのは得策ではない。ギターを奏で、輪廻転生の喜びと涅槃に向かう悲哀をテーマにした曲を披露する。歌いながら横目で倒れた探偵を確認する。ゴッホ男は別の香炉を鼻に近付ける。香を嗅ぎ続ける探偵の体は徐々に萎れていくように見える。サビに入る頃には、ボロ布みたいに体は骨の芯からぐったりしていた。頃合になったのか、ゴッホの男は去り、今度は大巫女の操る幻影集団が彼を囲った。無抵抗の探偵を幻の男女が歓声を上げながら足蹴にして集団リンチを始める。実体を持たないので痛みはないだろうが、精神的にはどうなのか。人間ではない人型の者たちに攻撃される恐怖は経験がないため免疫などなく、純度の高い恐怖を与える気がする。まだ意識はあるのか、幻影の足か振り下ろされるたびに探偵の体はビクついている。暴力が延々と続く中、曲が二番に入ると観客の一部からハモる声が聞こえる。お経みたく抑揚がなく、少し気味の悪いハモリだ。ハモろうとしてハモっているのではなく、俺の声に無意識に釣られて口ずさんでいるようだ。人々はトランス状態に入り、自我さえも失っているのか。大きな窯からお香の青紫色の煙が燻る。俺の鼻は破壊されており、微かにしか香りは分からな
last updateLast Updated : 2026-02-12
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