All Chapters of 艶撫亮~embryo~: Chapter 41 - Chapter 50

62 Chapters

第十章 亮、復讐の心を固める

   ♠ 亮「調査の結果を報告します。今からお話する内容は落ち着いて聞いていただきたいため、心の準備をしておいてください」夢人のパフォーマンスのあった日から一か月近く経過し、探偵が途中経過を報告しに自宅へ来た。探偵の男もなぜか緊張しているようで震えている。「まずはこの写真の男についてです」PCの画面に二枚の写真が表示されている。一枚は俺が撮影したグレースーツを着た男。もう一枚は、筋骨隆々で体の大きい男が眉間から血を垂らしながら、リングの上に立っている様だ。「彼の名前は清水淳。現在、四十五歳。十七年前まで地下格闘家として活動されていた経歴のある男です」「今は格闘家ではないんですね」「彼は地下格闘技界からも追放された身なのです。十七年前、彼は人を殺しています」初っ端からとんでもない話が飛び出た。彼はファンの女子高生を家に連れ込み飲酒を強い、酒の中に多量の薬物を仕込んだようだ。その子がオーバードーズを引き起こして死亡したという顛末だった。「彼は執行猶予なしで懲役五年を言い渡され、その後刑期を終えると『小中学生立ちんぼ倶楽部』というものにハマるのです」思わず手を固く握りながら話を聞いていた。「清水はそこで小野美里という先日自殺した女性と親しくなります。恐らく立ちんぼ倶楽部という名前から、やっている内容は大体想像がつきましょう。小野は当時十歳で小学五年生でした。だが、その後何年後かに立ちんぼ倶楽部は解体します。その後の清水の足取りはまだ調査途中です」集団のリーダーである丸顔の女性が言っていた内容と合致する。小野の担任の先生によって立ちんぼ倶楽部は発見されて解体に追い込まれる。「次はこの男になります」PCの画面は切り替わり、今度は全身包帯で包まれた夢人の写真が現れた。彼の写真はホームページに載っていたものだ。「表向きはケーキ職人ですが、仰っていただいた通り過去に訳アリの人間でございました」探偵はPCを操作して画像にもう一枚別の写真を表示した。一人の男の顔写真だ。外人みたいに濃い二重瞼で目と眉の距離も近く、鼻も高くて顎もしっかりしている。いわゆる堀の深いイケメンだ。「この男の本名は新木葵。『小中学生立ちんぼ俱楽部』の統括という立場だった人間です」名前を聞いて遠い記憶がよみがえった。
last updateLast Updated : 2026-02-11
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幻想と暴力にまみれた、美しくも無残なライブ①

  ♢ 唯織「今度、特別なライブがあるんだ」渋谷の街を一望できる高層マンションの十七階の部屋で、夢人と二人きりでいた。今日、彼の住居に初めて来た。ケーキ職人として相当儲かっているのか。特に金があるから惹かれるわけではないが、今まで売れない歌手の亮と同棲していたため感心を覚える。「特別なライブって何をするの」「私の所属している芸術家集団『日本ルネッサンス会』で合同ライブを行うんだ。ケーキだけではない、多くの要素から刺激を得られて面白いと思う」「何それ面白そう。どんなメンバーでやるの」「来て見てからのお楽しみ。サプライズもあるかもしれないし」夢人が椅子に座り体を微かに上下させていた。笑っているようだ。そんなに面白いライブになるのか、自然と期待が高まり当日が楽しみで仕方なくなる。ライブ当日、川崎駅から少し離れた風俗店のある通りを歩く。目的の建物に着くと階段を降り、重たい扉を開けた。仄暗い空間に色とりどりの電飾と真っ赤なカーペットが眩しい。黒いステージの上に人が立ち、その者は既視感のある顔を持つ。火傷した頭皮。右は潰れて左は瘤に覆われた目元。穴だけになった鼻。口周りに蜘蛛の巣状にできた傷。艶撫亮が円柱型の漆黒のステージの上にギターを担いで立っている。呆然としていると、亮も私に気が付いたようで、瘤の下の左目が見開いた。   ♠ 亮円形の漆黒なステージに立ち、紅色のカーペットが客席に敷かれている様子を確認する。カーペットの上にこちらを向いている者も、別の方向を向いている者もおり、バラバラな印象を受ける。ある者は夢人が作った装飾過多なケーキを食べていた。ある者は香炉を鼻に近づけて聞香を楽しんでいる。ある者は空間で繰り広げられる幻影の人々の演じるショーを観覧している。これが三浦主宰のライブだ。ルネッサンス会のメンバー、俺含めて四人がそれぞれの分野で魅惑的なパフォーマンスを行っている。夢人葵は会場の壁際に調理台を用意し、大胆なパフォーマンスでケーキを作る。腕を振り舞い、続々とケーキを誕生させる。顔をゴッホの肖像画に似せて整形して耳まで削ぎ落した男は、人が必要としている香りを読み取り、調合して練ったお香を香炉に入れて渡している。大巫女と自称する一生老けない体へと整形した女子中
last updateLast Updated : 2026-02-12
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幻想と暴力にまみれた、美しくも無残なライブ②

傍にいた探偵がおもむろに膝から倒れた。うつ伏せになった探偵の鼻にゴッホ男が香炉を添える。探偵の脇腹にパレットナイフが突き刺さっていた。「艶撫亮さん、何をしているのですか」夢人葵がこちらに近寄り、ステージにあるマイクを取る。「今から俗の世界からの侵入者に対して裁きを下します。この者が何者かは不明ですが、聖の世界に土足で踏み込む招かれざる客以外には考えられません。穢れはこの空間に最も似つかわしくございません」幻想に憑かれているような観客たちは急に騒ぎ出す。夢人の言葉に感化され、嬉々とした表情が黄金色に燦燦とする。「艶撫亮さん、この俗からの侵入者に対して追悼の意を込め、歌を送ってあげて下さい。胎児である亮さんが死を迎える人間に引導を渡す瞬間です。死と生が交差する、最も神聖な儀式を行うのです」夢人はマイクスタンドにマイクを戻し、包帯の中から鋭い視線を飛ばして俺の体を刺す。普段物腰の柔らかい男の、芯の通った意志の力は途轍もない。夢人の無形の力に引っ張られ、ステージ上に立たされる。反抗するのは得策ではない。ギターを奏で、輪廻転生の喜びと涅槃に向かう悲哀をテーマにした曲を披露する。歌いながら横目で倒れた探偵を確認する。ゴッホ男は別の香炉を鼻に近付ける。香を嗅ぎ続ける探偵の体は徐々に萎れていくように見える。サビに入る頃には、ボロ布みたいに体は骨の芯からぐったりしていた。頃合になったのか、ゴッホの男は去り、今度は大巫女の操る幻影集団が彼を囲った。無抵抗の探偵を幻の男女が歓声を上げながら足蹴にして集団リンチを始める。実体を持たないので痛みはないだろうが、精神的にはどうなのか。人間ではない人型の者たちに攻撃される恐怖は経験がないため免疫などなく、純度の高い恐怖を与える気がする。まだ意識はあるのか、幻影の足か振り下ろされるたびに探偵の体はビクついている。暴力が延々と続く中、曲が二番に入ると観客の一部からハモる声が聞こえる。お経みたく抑揚がなく、少し気味の悪いハモリだ。ハモろうとしてハモっているのではなく、俺の声に無意識に釣られて口ずさんでいるようだ。人々はトランス状態に入り、自我さえも失っているのか。大きな窯からお香の青紫色の煙が燻る。俺の鼻は破壊されており、微かにしか香りは分からな
last updateLast Updated : 2026-02-12
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幸せのために生きること

   ♢ 唯織川崎から急いで東戸塚の職場へと向かう。夢人たちのライブ中、急に宮田さんから職場に来るように連絡が来た。急なお産や看護師の体調不良などが重なったようだ。私も沙耶の姿を見た後、ショックからしばらく休みを貰っていたので、夢人に断ってから会場を後にした。彼は気にせず行って来るように言ってくれた。だが、一つ心残りなのは夢人と亮が知り合いだった事実を聞きそびれた点だ。確かにステージ上に立っていたのは艶撫亮だった。彼も夢人の言う「日本ルネッサンス会」のメンバーなのか。艶撫亮がなぜ所属する流れになったのか。艶撫亮というアイデアを考えたのは、「生きとし生けるもの合同会社」の可能性が高い。そんな彼を受け入れる「日本ルネッサンス会」も立ちんぼ倶楽部同様に合同会社の事業の一つだろうか。真に受けていなかった、夢人が新木葵だという亮のメッセージが信憑性を帯び始めていた。嫌な予感がどうしても拭えなかった。だが、仮に夢人が新木葵だったとしても、彼自身も合同会社に利用されている被害者の可能性もある。彼は優しい人なのでその可能性も高い。もし夢人が合同会社の毒牙にかかっているならば、私が助けなければならない。この前記者を撃退してくれたお返しがしたい。電車が東戸塚駅に到着した。仕事に集中するために一旦夢人や亮のことは忘れようと意識した。「ごめんなさいね、今日急に出勤になっちゃって」退勤後、宮田さんと焼肉を食べに行った。七輪を挟んで彼女の丸い顔が煙越しに見える。疲れているはずなのに顔色を変えない。尊敬できる先輩だと改めて実感する。「私もこの前長期間休んで迷惑かけましたから、逆に呼んでもらえて良かったです」ホルモンを口の中で嚙みながら夢人や亮の件を考えていた。結局、仕事中もふとした時に合同会社について考えていた。「まだ少し元気なさそうですね。何かあれば気軽に相談してくださいね」宮田さんには相談しても良いと判断し、今まであった話を聞いてもらった。優美カフェのマスターの紹介で夢人葵と知り合ったことから、今日夢人のライブで合同会社の繋がりを感じたことまで。「本間さんに合っているアドバイスなのか分からないけど、もう合同会社について追ったり意識したりするのやめたらどうかな」宮田さんの心配そうな目から温もりを
last updateLast Updated : 2026-02-15
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沙耶を今でも愛しているのか?

   ♠ 亮嫌な記憶が消えない。いつまでも血みどろの肉塊の映像が網膜に焼き付く。目を開けると白い壁に血液の残像が緑色に光る。布団の上で丸くなり、一生懸命楽しかった思い出で上書きしようと試みる。沙耶の顔を思い出そうとしたが、全然中和できない。沙耶の可愛かった顔すらも血の残像が映る。焦りから無意味に大きな声が出る。なぜ助けられなかったのか。どうして肝心な時に何もできないのか。探偵暴行の後、結局ライブハウスから逃走できなかった。近くにいた者たちに取り押さえられて床に押さえ付けられた。「艶撫亮さん、これなんですよ。これが我々の求めていた芸術の一角です」行く手を阻むように夢人が仁王立ちし、床に這いつくばる俺を見下ろしていた。その後の記憶は曖昧模糊としている。探偵の肉体は包丁で関節ごとに切り分けられて鍋で煮込み、柔らかくなった骨肉はケーキミキサーで粉々にしていたような気がする。気が付いた時には川崎の街で、電柱の根元に嘔吐していた。掛け布団に顔を埋めて腹の底から声を出す。探偵に対して罪悪感が消えない。この先どれだけ罪の意識を持ち続ければ良いのか。もう生きること自体が辛かった。探偵ではなく俺をミンチにしてほしかった。今何時だろうか。スマホの電源を入れようとしたら、緑色のラインの受信を知らせるランプが点滅していた。誰からだろうかと思い、電源を入れると驚きで一気に目覚めた。──佐々木沙耶何が起きているのか。彼女は投身自殺をしたのではないのか。死者が俺にメッセージを送ったのか。恐怖や甘美な恋心、彼女への不信、絶望様々な感情がごちゃ混ぜになった心を持て余しつつも通知バーをタップした。〈艶撫亮さんのラインで間違いないでしょうか。私は沙耶と名乗っていた小野美里の母親でございます。少しだけお話させていただきたいことがあるので、返信いただけますと嬉しいです〉彼女の母親からのメッセージだったようだ。布団の上で大の字になって倒れた。残った左目の奥がゾワゾワし始める。何を話したいのか。そもそも母親にとって、俺はどんな存在だと思われているのか。何もかも予想できない。〈初めまして、艶撫亮と申します。ぜひお話できればと思います。よろしくお願いいたします〉過去に沙耶が所属していた立ちんぼ倶楽部の関
last updateLast Updated : 2026-02-16
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小野の罪と夢人葵の作り方

「美里には、可哀想な思いをさせ過ぎたって後悔しているのです。あの子は私のせいで酷い目に遭わされ続けていたので」美里が「小中学生立ちんぼ倶楽部」に所属する契機は、彼女の継父だったと言う。元々小野と結婚する前から継父は立ちんぼ倶楽部を利用しており、小野が継父と結婚する時、美里は小学生だったと言う。当時の美里を見た継父は金になると判断したようだ。彼は日常から立ちんぼ倶楽部で小中学生を買って借金を増やしていくうちに、美里を売る計画を思い付いたようだ。美里は継父の予想以上に売れた。小学生にしてビジュアルは殆ど完成され、幼い精神と大人の肉体を持った人間は立ちんぼ倶楽部に入り浸る男にとって垂涎の的だったと言う。だが、そんな過酷な現場に耐えられる少女たちは殆どおらず、彼女も例に漏れなかった。徐々に精神を崩壊させ、荒んでいった。そんな中で美里の異常さに気が付いたのが、彼女が中学一年生の時の担任の女性教師だった。担任は教師として誇り高い人物で、執念深く探偵も使って調査して美里の懊悩の源を探り出した。それがきっかけで立ちんぼ倶楽部の存在が明るみに出て解体に追い込まれたそうだ。話を聞きながら、集団のリーダーの女が沙耶のせいで立ちんぼ倶楽部が解体された話をしていたと思い出した。彼女は継父がしっかり管理しなかったために担任に見つかったと考え、継父の補填を美里本人にさせようとしていた。卑劣極まりない集団だ。俺は益々「生きとし生けるもの合同会社」に敵意を抱く。「『小中学生立ちんぼ倶楽部』って誰が運営していたのか覚えていますか」小野は一つ頷いて立ち上がり、押し入れを開けた。中から一体の藁人形を取り出す。藁人形の胴体部分に和紙が括りつけられており、炭で名前が書かれていた。──新木葵やはり間違いなく夢人が立ちんぼ倶楽部の主犯だ。「この男、今何しているかとかって分かりますか」新木から夢人へ変わる繋ぎ目の部分の情報が欲しかった。唯織に証拠として提供したかった。「今は全身包帯巻きになってケーキ作っていますよ」小野は夢人の存在を知っていた。スマホで夢人のインスタアカウントを開いて見せてくれた。「この夢人葵の存在は、いつからご存知なのですか」「二年前くらいですかね。何でそんなこと聞きたがるのですか」「立ちんぼ倶楽部
last updateLast Updated : 2026-02-16
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悪魔は正体を現す

探していたものが見つかり、胸が弾んで呼吸も乱れる。「この動画貰って良いですか」小野は換気扇の下で煙草を吸いながら力なく頷く。「警察には提出したんですか」「していませんよ。もう私は一刻も早く忘れたかったんです」動画自体残して置いたのは、消す勇気もなかったのかもしれない。「貰ってどうするんですか」「実は独自に美里さんを追い詰めた集団について追っておりまして、この動画がもしかしたら役に立つかもしれないのです」納得してくれたのか、小野は煙草を灰皿に押し付けて押し入れから何かを取り出した。黄色く変色した一冊のクリアファイルだ。ファイルのページを捲り、真ん中くらいで手を止めた。そこには多くの男女の名前と年齢、備考に色々記載されていた。「これは当時立ちんぼ倶楽部に関係していた人たちの一覧。下の備考欄にどんな風に関わっていたのかも記載あります」「ご自身で調べたのですか」「探偵に依頼して色々調べてもらったんです」小野にとっては忘れたくても忘れられず、辛くて人に調査を依頼したのかもしれない。端から順に顔と名前を眺めた。ある一人の写真と名前で目が止まった。『・山本優香(三十三)……立ちんぼ倶楽部の少女斡旋の一部や管理事務を担当。自身は同性愛者であり、立ちんぼ倶楽部で少女を買っていた過去もあり』どこかで聞いた名前だと見ていると、唯織と同棲していた時に赤ん坊の死体を放置した人の妻だと思い出す。同じページに新木葵の名前もあった。彼は立ちんぼ倶楽部の統括として記載されている。他にいないか探していると一瞬見落としそうになったが、まだ薄っすら筋肉が残っている清水の写真と名前もあった。彼も山本と同じく斡旋と購入を行っていたようだ。「こちらのページ、写真撮って良いですか」同意を貰って写真に収めた。これで唯織は夢人葵の危険性を理解してくれるはずだ。思いもよらなかった大きな収穫に興奮が隠せず手が震える。「そういえば、今日は何をお話したくて呼んでいただいたのでしょうか」今まで俺ばかりが夢人や立ちんぼ倶楽部の話をしていたと気が付いた。小野が話したいと俺に連絡した事実を忘れていた。「もう大丈夫です。ただ美里が最後に好きになったあなたがどんな人間だったか知りたかっただけでした。こんな風に美里の無念を忘れないでいてくれて
last updateLast Updated : 2026-02-17
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第十一章 蛾の集まる光へ、飛び込めば

   ♢ 唯織この日も仕事を終えて二十時過ぎに職場から外に出ると、電柱の陰から忌々しいニット帽とマスク姿が出て来た。「まだ帰っていなかったの」昼間にわざわざ職場までやって来た亮が現れた。彼は夢人葵こそ立ちんぼ倶楽部事件の主犯の新木葵だと言う。ようやく安心して好意を寄せる人に出会えたのに疑いたくない。「ラインに送った動画は観てくれたの」無視して自転車を押して歩いた。亮が並んでついて来る。「まだ観ていないし、観る気もないよ」正直気になっている。だが、せっかく本能から夢人を愛し、私の好きに生きられそうなのに今の心境を手放したくない。「何で観ないのさ。自分の置かれている危険な立場を理解しなよ」隣にいた亮が私の進行方向に立ちふさがった。残った瘤の下の左目から揺るぎない意志を感じる。一瞬、眼前にいるのが私の知っている藤沢亮かどうか疑った。こんなにも自信を持って考えや感情を伝える人ではなかった。彼は艶撫亮となり、様々な感情に直面して一本芯ができて強くなれたのかもしれない。自転車のハンドルを握る力も彼の気持ちにつられてか強くなる。「分かったよ。後で観るよ。だから今日は帰って」「他にも話したいことあるから品濃中央公園に行こう。かなり刺激的な動画だから、観る時は誰か他の人が近くにいた方が良いよ」亮は背を向けて先へ行く。なぜか彼の後について行った。何だか奥底では亮を信じても良い気がしていたのかもしれない。「何か分かったことあるなら、今教えてよ」公園に着くまでの時間が我慢できなかった。亮の様子を見た限り、何か重要な話をするに違いない。「沙耶が暴力を受けた集団の話、覚えているよね」「亮が一緒に捕まった人たちでしょ、覚えているけど」「そのリーダー格の人が背の低くて丸顔で肩幅のある女性だったって話も覚えているかな」亮は背を向けながら静かに言葉を発する。彼が何を言いたいのか予想でき、一人で密かに戦慄していた。「今日の昼間、俺が去ろうとした時に唯織の隣に来たナース、あの女性がそのリーダー格の人だったんだ」心臓がキュルっと音を立てて急に萎んだ気がした。全身の血流が早くなり、動悸も激しくなる。予想が当たった。病室で山本さんと宮田さんと小野美里が何か話していた光景が網膜に焼き付いている。宮田さ
last updateLast Updated : 2026-02-19
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光の下、毒に塗れた舞台が整う

亮が驚きのあまりかベンチから立ち上がった。「多分、『優美カフェ』っていうお店のマスターだよ。そのカフェも宮田さんから勧められた」よく考えたら、夢人との出会いもマスターだった。宮田さんからマスター、夢人葵、全て「生きとし生けるもの合同会社」の管轄範囲内だったのか。どういう会社なのか。ただ恋愛を売るだけではないのか。身の周り全てのものが信じられなくなった。勤めている産院も怪しい。宮田さんたちのいる集団が絡んでおり、妊娠の症状のない山本さんを入院させられたのではないか。何もかも集団の筋書き通りに現実を進めていたのではないか。それなら山本さんに妊娠の兆候が全くなかった説明もできる。「マスターってどんな人なの」いつの間にか亮は立ち上がって私の前に立っていた。「綺麗な白髪のオールバックの髪型で、渋めの茶色のスーツを着ていて」亮は急に吠え出した。何があったのか。マスターの風貌に心当たりがあるのか。「間違いない。そのマスターの老人は恐らく俺に三浦という名で、『日本ルネッサンス会』の会長と自称した老人と同一人物だ」「日本ルネッサンス会」は夢人が所属している集団だ。三浦という老人によって亮が音楽活動を再開したようだ。「この写真に写っている老人じゃないか」スマホに表示された写真は、山本さんの旦那を名乗ったグレースーツの男と優美カフェのマスターが神社の中で向かい合っていた。「間違いない。この老人がマスター」完全に自信を喪失した。亮の言い分が絶対に正しかった。だが、まだ何か抵抗しようとしている私自身がいる気がした。「この写真も見てほしい。これは小野美里さんの母親に見せてもらったファイルの写真なんだけど」別の写真を見せられた。彼曰く、昔「小中学生立ちんぼ倶楽部」に関係した人物の一覧のようだ。「ここに山本優香の名前と、新木葵の名前がある。あとこの清水淳という男は山本の旦那役を演じていたさっきのスーツの男だ」確かに山本さんと新木の名前が記載されている。山本さんの旦那を名乗っていたグレースーツの男も、面影を残して写真に収まっていた。思わず画面から目を離して俯いた。現実が私の心を蹂躙する。もうやめてほしかった。生きている世界の何もかもが辛すぎる。呼吸も上手くできない。「俺は今から、宮田に話を
last updateLast Updated : 2026-02-19
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正直者は地獄を見る

「遠くの木に隠れて見ている。何かあったらすぐに駆け付けるから」とりあえず亮の要求を飲んで宮田さんの到着を待つ。誰もいない夜の公園で車の走行音のみ聞こえる。蛍光灯に集まる蛾が一匹増えていた。走行音の日常性の中に夜闇に蛾の舞う毒々しさが加わり、緊張感を際立たせている。今まで歩んで来た人生で未体験の現実離れした緊張に苦しめられる。亮も離れて行き一人にされたので余計に怖い。こんなにも亮を求めたのは初めてだ。「お待たせ、本間さん。どうしたのですか、急に相談したいだなんて」ベンチに座っていた私の背後から急に声をかけられ、心臓が激しくバウンドした。「らしくないですね。そんなに驚かないでくださいよ」ベンチから立ち上がり後ろを見ると、宮田さんが一人で立っていた。特に集団のメンバーはいなさそうだ。だが、一応警戒はしておいた方が良いだろう。「急に声をかけられたので。驚いてすみません。ちょっとお聞きしたいことがありまして。とりあえず座りませんか」宮田さんと先程の亮と同じように並んで座った。「聞きたいことって何ですか」「正直、たくさんあり過ぎて何から話せば良いのか分からない状態なんです」何から聞き出せば真実を引き出せるのか。宮田さんにとって正直に話をするメリットはない。「私から予想してみますね」宮田さんの手が私の手に重なる。「震え過ぎですよ。別に変なことは考えていませんから」ニッと笑む彼女の前歯の白が夜の暗さの中で輝く。「本間さんが聞きたいこと、それは私が小野美里さんをリンチしたのではないかという話ですよね」まさか宮田さん自身の口からその話をするとは思っていなかった。「本間さんは素直な人だから分かりやすいんですよね。私を疑っているのが丸分かりなんですもの。どうせ艶撫亮から聞いたのでしょう」いつもの仕事中の宮田さんからは想像もつかないような小馬鹿にするような口調だ。「実際にどうなんですか。亮が言っていたように、何かのグループのリーダー格の存在なのでしょうか」ふふふと心の底から溢れ出る笑声を我慢しているようだが、顔に出ている。「ここで嘘言っても仕方ないですね。艶撫亮さんから聞いているでしょう内容に相違はないです」宮田さんは心底楽しそうな様子だ。「あの話も本当なのですか。小野美里さんが昔に
last updateLast Updated : 2026-02-20
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