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Todos los capítulos de 艶撫亮~embryo~: Capítulo 51 - Capítulo 60

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シトラス香る、馥郁たる死を

   ♠ 亮間に合わなかった。宮田が仁王立ちし、唯織を隠された瞬間にやられた。宮田がどいた時には唯織が背後から金属バットで殴られてグッタリしていた。その後数人やって来て唯織を担いで連れ去られようとしていた。このままではまずいと思い、焦って木陰から出て彼女の方に向かった。「艶撫亮さん、何をしているのですか」強い力で肩を掴まれて尻餅を着いて倒れた。濃紺のスーツ姿の包帯男、夢人葵が立っていた。「最近まで何をしていたのですか。連絡しても一向に繋がらないですから、三浦さんと一緒に心配していたのですよ」この者たちは一体何が目的なのか。「もう『日本ルネッサンス会』とは関係を持ちたくないんです」尻餅を着いたまま喚く俺はさぞ滑稽に見えるだろう。「そういうこと言っちゃいますか。良いのですか、我々ではないと今のあなたを売り出すなんて不可能なのですよ」脅しのつもりだろう。だが彼らに対する不信の方が圧倒的なウェイトを占めるので迷わない。「良いです、もう二度とあんなライブをしたくないので」「なるほど。艶撫亮さんは我々にとって不要物になった感じですね」夜闇の中で砂利を踏むザクザクした音が四方八方で響く。周囲にはいつの間に多くの男女が集まり、こちらに黒い眼差しを放っている。「私は今から本間さんの方に行かないと駄目なので、後はこの男一人どうにかしちゃってください」集団に呼びかけてから、夢人は俺に背を向けて去ろうとする。「待て。どうせ今から殺されるのだろうから最後に一つ聞かせてくれ」「一つだけですよ。急いでいるんだ」「唯織を狙い始めたきっかけは何なんだ」「きっかけは山本さんの恋情ですよ。彼女が学生時代の唯織さんをボクシングの試合で見て恋に落ちたんですよ。我々は現実で恋愛物語を商品にしていますから、山本さんに本間さんとの恋愛を売っただけです」夢人は去った。ようやく唯織が狙われた背景が分かった。山本が全ての元凶だった。集団の影がこちらに接近する。だが、まだ諦めきれない。このまま唯織を危険に晒したまま死ぬ訳にはいかない。どうやって集団の包囲を抜け出すべきか、必死になって考える。
last updateÚltima actualización : 2026-02-21
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シトラス香る、馥郁たる夢の国へ

   ♢ 唯織一体ここはどこだろうか。目を開いているはずなのに視界は真っ黒だ。外灯もないので公園ではない。全身に振動を感じる。揺れから、恐らく車に乗せられていると分かる。記者を名乗った男に攻撃され意識を失ったところまで記憶している。宮田さんが行こうと言っていた「優美カフェ」に向かうために車に乗せられているのか。もしそうであれば大船までそこまで遠くないので、長い時間気を失ってはいないだろう。しばらくすると振動が止まりエンジン音も聞こえなくなった。どうやら目的地に到着したみたいだ。「本間さん、気付いていたんですね。着きましたよ、降りましょうか」視界が明るくなり、宮田さんの顔が現れた。黒いゴミ袋で頭を覆われていたようだ。亮が以前連れ去られた時の話と同じだ。ラゲッジスペースから降ろされて周囲を見ると、案の定「優美カフェ」の前に停車していた。「このカフェなら艶撫亮も知らないでしょうしね。でも彼は今頃殺されていると思うから関係ないか」「どういう意味ですか」「さっき奴も公園の中にいたでしょ。全部気付いているんだよ」宮田さんは看護師の仕事で優秀なのと同様に、全てにおいて抜かりがない。「本間さんの大好きな夢人葵が亮さんを土に還してくれるように上手く立ち回ってくれるのよ」気を失った際に両手首を縛られており、そのままカフェの中に連れられた。中にはマスターとグレースーツの男がカウンターを挟んで向かい合っていた。グレースーツの男はさっき亮に見せてもらった資料によれば清水淳と呼ぶようだ。「看護師さん久しぶり、随分と不機嫌そうな顔しているじゃん。恋人の山本優香が自殺したからかな」清水のヤニで汚れた前歯が、乾いてヒビの入った唇の隙間から覗く。「本間さん、こちらに座って下さい。今からコーヒーをお出ししますね」マスターの手にはコーヒー豆を砕く道具の取っ手が握られ、にこやかな笑顔を作っていた。宮田さんに押されて清水の隣のカウンター席に座らされた。独特な棘の中に甘味を感じるコーヒーの香りが漂う。「マスターは亮のプロデュースもしていたのですか」「気づかれましたか、いつかは知られるだろうと思ってはいたのですが」「宮田さん、楽しそうですね」清水はマスターに向かって宮田さんと言っていた。どういう意味か。亮
last updateÚltima actualización : 2026-02-21
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最期の瞬間は突如として。

   ♠ 亮男女の手には角材や鉄パイプ、スタンガンなど人を攻撃する道具が握られていた。この状況をどう対処すべきなのか。「どうして俺を痛めつけるのですか。俺を殴って何になるって言うのですか。大体あなたたちにとって俺は何なのですか。教えてください」焦りから早口で今聞きたい質問が、口からボダボダ泥みたいにこぼれ出る。誰も質問に回答する気はないようだ。そのまま歩を止めずに砂利を踏む足音を立てる。このままでは殺されるだろう。警察に電話すべきか。いや、こんな囲まれたタイミングで電話など不可能だ。電話が無理なら、一つ賭けが思い浮かんだ。スマホを急いで取り出してラインを起動する。〈助けてください。今、立ちんぼ倶楽部だった連中に戸塚の品濃中央公園で襲われてます〉沙耶のアカウントに一吹き出しで一気にメッセージを送った。まさか頼んだその日の内に小野にSOSを送るとは予想外だった。何とかメッセージを送りスマホを閉じたタイミングで脳天に打撃を食らった。一発目を合図に、間を置かずに連続で攻撃が加えられる。殴打に加え通電までまとめて全身に襲いかかる。頭を抱え背中を丸めて外部からの攻撃に耐え続ける。探偵の死ぬ光景を忘れていない。ガラガラと死神が笑む様子が脳裏に浮かぶ。「やめてくれ。なぜお前たちはこんな意味もなく人に危害を加えられるのか」丸めた腹の底から酷くどんよりした声色の叫び声が出る。顎を掴まれ、無理矢理上半身を起こされた。「決まっているだろ。目的は死だよ。死のエッセンスを含んだ恋物語を、うちは提供しているんだから当然だろ」見たことのある顔。この男は俺が「居酒屋 生きとし生けるもの」に行った際に、電柱の陰で詰め寄って来た男の一人だ。「死のエッセンスを含んだ恋物語って何だ」「お前、こんなに俺たちのこと追っかけているのに、まだそこまで来ていないのか。どうせ死ぬんだから教えてやるよ」いつの間にか暴行が止み、男の足元で正座する。少しでも気に入らない行動に出たらまた殴られそうだ。男は金属バットで振り回しながら説明し始めた。今暴行をしている集団は、三浦と名乗って近づいて来た宮田老人が代表を務める「生きとし生けるもの合同会社」の顧客兼キャストという立場の人たちらしい。小野美里、山本、夢人葵、清水
last updateÚltima actualización : 2026-02-24
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グッドバイ

   ♢ 唯織「こちらに今の本間さんに必要な空間がございます」マスターの宮田老人はカウンターの中にある消火器ボックスを動かし、ボックスで開かないように押さえていた扉を開けた。重々しくゆったりとした動きでドアノブを握る。扉は緩々と開いて内部を見せる。壁も床も天井も、全て白一色の空間が奥へと伸びていた。外からは先がどうなっているのか分からない。前回少しだけ見えた時と様子は全く同じだ。山肌にめり込むように店舗を構えていたので、山の中に空間が伸びているはずだ。「本間さんは夢人さんと一緒に中へと。とても蠱惑的で神秘的な空間へと辿り着きますよ」宮田老人の指先が洞窟と同じくらい白く、神々しく光って見えた。動画で端に見えた手で間違いない。だが私は今、ちょっとのぼせているような気分だ。コーヒーや夢人の香りに飲み込まれ、前後不覚となる。「私が案内しますよ」宮田さんが先導するように先へと行く。「俺も行く」「清水、お前は良い。ここで変な輩が来ないか見張っておいてくれ」清水は宮田さんに逆らえないようで不貞腐れ、椅子に再び腰を下ろした。「本間さん、行きましょ」宮田さんに手を引かれ、夢人に肩を抱かれそのまま白の洞窟へ足を踏み入れた。背後で扉が閉まる音がする。三人の靴音の反響が何重にも聞こえる。「これは何ですか」洞窟をしばらく進むと漬物石みたいな物体が幾つも落ちていた。「何でしょう。私にもよく分からないわ」本当だろうか。強烈な不安を抱えているものの、なぜだか抵抗する気が起きない。脳と体が分離している気分だ。洞窟は遂に行き止まりになった。「ようこそ、本間さん。こちらが我々『生きとし生けるもの合同会社』にとっての桃源郷でございます、〈本当の〉白衣観音像の胎内でございます」行き止まりの壁を押すと動き出し、何とも言えない強烈な馥郁たる芳香が突風のように私の顔を殴った。「ようこそ、『生きとし生けるもの合同会社』へ。今の本間さんに必要な香りを焚かせていただきました」石の壁を開いてすぐに、片耳のないゴッホに酷似した男が立っていた。ルネッサンス会のライブで見た男だ。「百合の花畑に怜悧な月光が降り注ぎ、白銀の空間に蜜蜂が尻から毒と蜜を垂らして飛び交い、畑の中で味噌に二週間ほど漬けた肉厚で汗を纏った男
last updateÚltima actualización : 2026-02-26
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第十二章 生きながらえた者の使命

   ♠ 亮真っ暗闇。無音。今まで眠りに就いていたみたいだ。どうして眠っていたのか。唯織の無事を知り、安心して死を迎え入れたはず。だが、どうしてそんな記憶が残っているのか。俺は死の暗闇にいるのではないのか。ずっと暗闇にいると視覚が慣れ始め、どこかに寝転んで何かに覆い被されている状態だと気が付いた。段々聴覚も冴えて来ると、無音ではなくザラザラした謎の音が断続的に聞こえると気づいた。死ねていないのか。この暗闇の正体は何か。ずっと考えていると、急に光が闇を穿ち俺の眼球を襲った。「大丈夫か。しっかりしろ」聞き覚えのない男の声が聞こえる。混乱していると無意識に口で息を吸った、何かが口の中に入って噎せた。土のようだ。「しっかりしろ。艶撫亮、何すんなり死のうとしているんだ」何とか咳を落ち着かせ、声のした方を見る。脂ぎった中年のスウェット姿の男が立っていた。男はバットで唯織の背後を襲った奴に違いない。男の手には大きなスコップがあり、先端が土で汚れている。どうやら気を失っている間に埋められたみたいだ。だが、運悪く生き延び男の足元で這いつくばっている。「何で、助けたんですか。俺は、唯織が無事であれば、もう、死にたかったんですよ」一言発するたびに口から土が飛び出る。「何言っているんだ。無事なわけないだろ」俺の言葉を一蹴し、背中を思い切り叩いて口の中に溜まった泥土を全て吐かせた。「無事なわけがないってどういう意味ですか」「『生きとし生けるもの合同会社』に入ったらな、死ぬまで代表の宮田の人生の装飾品みたいに扱われるだけだ。山本も小野もみんなそうじゃないか」彼女たちのように公にならず、誰にも見つからずに命を失くした者もいると言う。昔、立ちんぼ倶楽部で金を失った男たちは皆合同会社の顧客兼キャストにされ、散々雑に扱われた上で殺されたそうだ。男曰く、彼らは集団が秘密にしている楽園へ続く白い洞窟と言われる空間の下に埋められ、死んだ事実すらも隠蔽されるみたいだ。「どうせ俺も長くはない。どんどんキャストとして扱いが悪くなって来たから、そろそろ死に役を課せられる証拠だ」彼は唯織を殴打する役の前は、彼女を苛立たせて夢人のお膳立てをする役だと言う。多分彼の話は本当だろう。切迫したよ
last updateÚltima actualización : 2026-02-28
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白い桃源郷から生まれる命と、消える命

   ♢ 唯織「本間さん、目を覚ましましたか」ここはどこか。辺りを見渡すと壁も床も天井も白一色の石に覆われていた。宮田さんが倒れる私の顔を心配そうに覗き込んでいる。「今、私はどうなっているのか」最後に見た光景がイマイチ思い出せない。何とも形容しにくい良い香りと、夢人の濃紺のスーツと包帯に包まれながら気持ち良くなっていた気がする。「大丈夫。全部私たちに任せてくれたら平気だから」何が大丈夫なのかが分からない。私は今どんな状況にいるのか。「夢人さんは」周囲にいるのは宮田さんのみだ。夢人の姿が見当たらない。「ちょっと緊急事態が発生していてね」「夢人さんの身に何かあったのですか」「それはないから安心して。ただ」「ただ、何ですか」宮田さんは何かに困っている様子だ。いつも冷静なので、こんな彼女の姿を見るのが初めてだ。「亮さんが生きておりました」洞窟の奥から声が響いた。革靴の音を響かせながらマスター宮田老人がこちらにやって来た。余裕綽々といった様子で優雅さすらも湛えていた。宮田さんが心配して何か言いたそうにするも、老人は娘を片手で制し、倒れる私の横にしゃがみ込んだ。老人本人からもコーヒーの香りがする。「亮さんは、あなたのことを攫いに来ます。彼が先程ユーチューブに動画を上げていましてね。これを見てください」老人はスマホを手にして画面を示した。見ると、亮のユーチューブチャンネルに最新の動画がアップされていた。──今、日本の裏側で暗躍する巨悪、生きとし生けるもの合同会社の存在について「頽廃と新生」のミュージックビデオ同様に、読みやすい黒地に白字のサムネだった。老人がサムネをタップして動画を再生すると、全身泥で汚れた亮の姿が映し出された。動画開始すぐに私の名が出て来た。「私の大切な仲間であります、本間唯織という女性が『生きとし生けるもの合同会社』に捕らわれてしまったのです」その後、亮がどういう経緯で艶撫亮になったか。沙耶の存在。小野美里の事件。小野美里の所属していた「小中学生立ちんぼ俱楽部」の話。立ちんぼ倶楽部を動かしていた集団について。その名が「生きとし生けるもの合同会社」と言われること。合同会社の代表が三浦と名乗って亮に近付いた宮田という人物であること。最後に助けを
last updateÚltima actualización : 2026-03-01
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破壊の先へ

   ♠ 亮「僕はずっと艶撫亮さんの裏には何かがあると思っていたんですよ。やっぱりでした。こんなことって本当にあるんですね」動画投稿後、すぐにファンと名乗る四十代くらいの男性が車でやって来た。宮田老人が三浦と自称していた時に唱えていた、ヒール好きが必ず出て来るという説は本当のようだ。事情を話してスウェットの男の案内ですぐに「優美カフェ」に向かうように指示した。唯織の命がすぐに危険に瀕するはずはないと思いつつも、自然と焦りが生まれ落ち着けない。「大丈夫ですかね、その何とか合同会社の仲間みたいな奴が急に襲って来たりしないですかね」ファンの男はジョークのつもりのようだが、現実は冗談を粉砕するほどの冷酷さを持つ。一方通行の道を走る途中、既視感のあるワゴン車が向かい側からやって来て進行を妨害した。「逆走車じゃなか。こんな時に運悪いな」ファンの男は何も気づかずにバックしようとするも、後ろにいた別の車が許さなかった。「艶撫亮さん。先ほど振りですね。生きていたなんて大誤算でしたよ」夢人葵が前方のワゴン車から降りて来た。後方の車からは先程俺を殺め損ねた金属バットの男が出て来た。「何だアイツ。ミイラじゃないか」金属バットで車のバックドアガラスが大破された。今度こそ必ず仕留める気だろう。合同会社の存在について話したうえで、殺し損ねたとなると彼の立場も相当危ういはずだ。「まずいな、こうなると予想できたはずなのに」スウェットの男は歯ぎしりをしながら前後の二人を交互に見る。「艶撫亮、お前はこのファンの方を連れて夢人の方へ行け。夢人は武力では何でもない。俺は後ろの金属バットの男の足止めをする」それで良いのか聞くと、スウェット男はどうせ罪滅ぼしの目的だからと悲しい笑みを作る。車を降り、俺はファンの男を連れて夢人のいるワゴン車の方へ突っ込む。夢人が両腕を広げて通せんぼしていたので、彼の急所に肩の骨を入れて体ごと突き飛ばした。視界の外で鈍い音が聞こえる。打ちどころが悪かったのかもしれない。「行ったぞ、お前たち」道端で悶絶する夢人の籠った声をきっかけに、幻影の人間が辺りに発生し始めた。仕組みは分かっている。女子中学生くらいにしか見えない大巫女の仕業だ。こんなのは無視すれば何でもない。だが、急に
last updateÚltima actualización : 2026-03-02
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破壊の先はより凄惨な破壊へ

   ♢ 唯織血にまみれた宮田親子がカフェのフローリングの上でロープで縛りあげられている。彼らに一蹴り入れた清水は、こちらを向いて近寄って来る。「唯織ちゃん、どうする。もう君一人だ」ヤニで汚れた清水の上の前歯と、青紫色の下唇との間に涎の糸が引いた。「どうするも何も。私に選択肢はないように見えるけど」どうせ清水たちによってリンチされるだけだ。店に戻って来るや否や、彼はいきなり宮田さんの側頭部に拳を打ち付けた。背後にいた清水の友人を名乗る男たちも加勢して宮田親子をミンチにする勢いで殴り続けた。清水曰く、昔一緒に活動していた地下格闘家の男たちを連れて来たようだ。「もう十年以上もこの団体にいるんだ。そろそろ処分されるなって、雰囲気で分かっちゃうもんなんだよな」革靴の先で宮田老人のこめかみを踏みつけながら、野卑な笑い声を発する。「処分されるのが嫌なら、出て行けば良かったじゃない」「今更どこに行けって言うんだ。こんな人間が生きられる場所がこの地上にあるのか。よく考えてみようぜ」いきなり右ストレートが顔目掛けて飛んで来たので、上体を反らしながらバックステップで避け、無防備になった清水の顔にこちらからも右ストレートを叩き込んだ。「やりやがったな。待て、こいつは俺一人にやらせてくれ。お前らはその親子を引き続きやっちまってくれ」仲間の男たちを制した清水は、片方の鼻孔から血を流しながらニタニタ笑んでいる。血液が黄色い歯を赤く染めている。「シュートボクシングだろうが、要はお利口様の競技用の格闘技でしかないからな。今ここで地下の恐ろしさを教えてやろうじゃねえか」清水は顔を捻じ曲げる。下腹部を狙った金的をしかけて来た。下半身への攻撃は、手で防ぐと上半身に隙が生まれるので、バックステップで躱して相手の隙ができるのを待つ。清水が私の下腹部を狙って前蹴りを仕掛けるも脛ががら空きだ。膝で相手の脛の急所を突く。痛みによって歪む清水の顔が見えたので、顔目掛けて再び拳を入れる。「二度も同じ攻撃を食らってたまるかよ」腕のリーチは当然清水の方が長い。髪の毛を鷲掴みにされて壁に押し当てられ、何度も後頭部を叩きつけられた。「テメエみたいな世間知らずな小娘に、俺に最期を与えられるわけねえんだよ。この世界で十
last updateÚltima actualización : 2026-03-02
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最終章 人間を作品と化すること①

   ♠ 亮「そこです、そこの『優美カフェ』と書いてあるところです」ショーケースの中に目的の文字を発見した。確かに唯織は「優美カフェ」と言っていた。山にめり込むように店を構え、上へ行くと大船観音寺がある。「本当なのですよね。あの動画で言っていたことは」パトカーを運転する警官はまだ半信半疑みたいだ。「さっき見たじゃないですか。あの倒れていた包帯男は夢人葵です。本名は新木葵。昔、『小中学生立ちんぼ倶楽部』の事件で逮捕された男です」「でも、個人を特定できる物が何もなかったからね」俺は美里の母の意思を考慮し、動画はまだ警察に見せていなかった。どうやら小野美里の母は、公園で送ったラインのメッセージを見てくれたみたいだ。彼女は品濃中央公園の位置を調べて、戸塚警察署に連絡入れてくれたようだ。その後、ゴッホによる異臭騒ぎで多数通報があり、小野母の通報の内容と繋がって本格的に警察が動き出した。ファンの男とスウェットの男も助かり、先程救急搬送された。計四人の警官と一緒にパトカーから降りてカフェに入った。「待て、落ち着きなさい」入った途端、一人の警官の鋭い声が響いた。見ると、唯織の先輩ナースの宮田という女性がこちらに銃口を向けている。周囲を見ると、三浦と名乗った宮田老人も銃を右手に持ち、胡坐をかいて座っている。清水は顔中血だらけにしながら、ワイシャツの胸の位置も真っ赤にしていた。その隣には丸まって苦しそうにする一人の女性がいる。彼女の下には血液が流れている。「唯織、大丈夫か」「近寄っちゃ駄目だ」警官の一人に止められて近寄れなかった。唯織は微かに動いてはいるものの、殆ど力は残っていなさそうに見える。警官の一人が救急に連絡を入れている間、銃を持つ宮田親子に呼び掛けている。「何をしているんだ。説明しなさい」「お父さん、どうする。こうなったら大団円も考慮しないとじゃないかな」「そうだね。この後の展開は中々厳しそうなものになりそうだな」老人は苦しそうな声を上げながら立ち上がった。よく見ると彼も全身痣や出血が酷い。老人は力なさそうに、幽玄な様子で警官たちに近寄る。「どうも、私が『生きとし生けるもの合同会社』の代表社員の宮田敏幸でございます。こちらは娘でございます。娘も合同
last updateÚltima actualización : 2026-03-03
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人間を作品と化すること②

「なぜ、恋に死が絡むことを望むのですか」我慢できず、老人に問いかけた。「艶撫亮、あなたはまだ理解できないのでしょうか」老人は顔を上げ、眼を剥き、俺の潰れた顔を瞠目する。老人の白目は充血して赤い蜘蛛の巣が張っているみたいだ。「艶撫亮の意味は小野から聞いていただろう。それに全てが凝縮していると言っても過言ではない」艶撫亮の意味については何度も確認した。死を潜った新しい生である艶撫亮が最も美しいなど記載されていた。宮田老人は言葉を続ける。「なぜ恋物語に死が絡むべきなのか。大前提として、新たな生命を作り人間の種を維持するために備えられた人が人を恋する機能は、そもそも死とは裏表の関係だ。生死という人間にはコントロール不能で神のみが扱える聖の領域があるために、人生はより刺激的になるのだ」「人は必ず最後は死ぬ生き物です。そんな人を死に追い込むようなことをする必要があるのですか」「分からないのかい。人の手による命のコントロールだからこそ魅力を生むのではないか。なぜなら恋物語に神聖な要素を手で装飾して、人生を人の手によって煌びやかな作品にできるからだ」つまりこの老人は最初から他人の人生を自分の作品にしようと考えていたわけだ。「命をコントロールすることに罪悪感とかは沸かないんですか」「なぜそんなもの抱かないといけないのか。人生を作品にすることで、その者の価値も上がるではないか。今まで何も持たなかった人間に、作品としての価値が付与されるのだから」その哲学の下で生まれたのが艶撫亮ということか。宮田老人は、人の手によって生み出された死を孕んだ人生が最も美しいと思っている。そのために沙耶を名乗った小野美里は死に、俺は顔を破壊して死にかけた。艶撫亮はこの老人の作品に過ぎなかった。「いつからそんな考えを持つようになったのですか」「具体的な時期なんて分からないですよ。でも、私が十四歳の時に二歳の弟がいたのですがね。彼は二歳の時に病気で亡くなったんです。その時私の父が、『人が死ぬから、他の人は生きられるのだ』と言っていた。私はその時に初めて人の死を意識し出したかもしれない。死があるからこそ、私含めて生きている人間の命が尊くなるんだと」宮田老人はなぜか弟の死体にハエが集まる汚らわしい様子を見た記憶があ
last updateÚltima actualización : 2026-03-03
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