この5年で、工藤夏美(くどう なつみ)に対する周りの評価は、「優秀な人」から「運のいい人」へとすっかり変わってしまった。かつての輝かしい功績も、今や「工藤グループの社長夫人」という肩書きにすっかりかき消されてしまった。彼女の聡明さや努力を褒める人はもういない。みんなただ羨ましそうに、「玉の輿でいいね」と言うだけ。夫の工藤克哉(くどう かつや)は、一代で会社を築き上げた男だ。わずか数年でIT業界の寵児となり、資産は数兆円とも言われている。まばゆいばかりの成功を収めた人物だった。そんなすごい人なのに、彼は今でも夏美を宝物のように大切にしていた。夏美のつわりが酷かったときは、夜通し予定していた会議を全部キャンセルして、彼女の検診に付き添ってくれた。夏美が食べるものにこだわれば、克哉は農場を丸ごと一つ買い取った。そして、自ら野菜を一つ一つ育て、手料理を振る舞ってくれるほどだった。息子の工藤翔(くどう しょう)が自閉症だと診断された夜もそうだった。克哉は目を赤くしながら彼女の手を強く握り、決して責めることはなく、「大変だったね。二人で乗り越えよう」と言ってくれたのだ。彼は全財産を夏美に預け、何事も彼女を優先した。これまで、少しでも嫌な思いをさせたことなんて、一度もなかった。そう、あの日、夏美が地下室で偶然にも隠し扉を見つけてしまう、その日までは…………扉を開けた瞬間、背筋が凍るような寒気がした。狭い部屋の壁一面に、同じ女の人の写真がびっしりと貼られていた。少女時代から、今の落ちぶれた姿まで。パソコンのディスプレイまでもが、彼女の寝顔だった。それは、松田杏奈(まつだ あんな)だった。大学時代はミスキャンパスに選ばれたほどの美女。でも今は、悪い噂が絶えない落ちぶれた女優だ。克哉が作ったこの地下室に、こんな狂気じみた想いが隠されていたなんて。夏美は、必死に平静を装って、奥歯をぐっと噛みしめた。心臓が自分の意思とは関係なく激しく脈打ち、恐怖が蔦のように体を締め付けてくる。突然スマホが震えた。セレブ妻のグループラインで、友人の今井静香(いまい しずか)から立て続けに動画が送られてきた。「夏美、あなたのご主人が岩崎さんの結婚式で……とにかく、これを見て」岩崎雄太(いわさき ゆうた)、あの有名な芸能プロダク
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