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第7話

Auteur: よつば日和
冷たい針が肌を突き刺し、得体のしれない薬が体の中へと流し込まれていく。

夏美はカビ臭い部屋に乱暴に放り込まれ、後ろで鉄の扉がガチャン、と音を立てて固く閉ざされた。

ここは、まさにこの世の地獄だ。

「治療」と称して行われるのは、体じゅうが痙攣するほどの電気ショックだった。

電気ショックの後には、さらに数え切れないほどの薬が待っていた。夏美が抵抗しようものなら、大勢の人に取り押さえられ、無理やり薬を飲まされるのだ。

それどころか、看護師の誰かしらが、なんの理由もなく彼女を殴ったり蹴ったりすることもあった。

夏美は冷たいコンクリートの床で体を丸めていた。逃れようともがき続けたせいで爪は剥がれ、滲んだ血が床のほこりと混じって、どす黒くこびりついている。

彼女に唯一許された自由時間は、談話室での30分だけだった。そこには、壁に掛けられた古いテレビが一台ある。

その日、テレビ画面に映し出されたのは、杏奈の健気で、それでいて芯の強さを感じさせる顔だった。

映っていたのは、世間の注目を集めるIT技術の授賞式だった。

杏奈は優雅なドレスを身にまとい、スポットライトを浴びていた。そして、プレゼンターから「年間最優秀新人技術者賞」のトロフィーを受け取っているところだった。

司会者が大げさな口調で彼女を紹介する。

「松田さんは、女優として活躍する一方で、実は天才的な技術者でもあります!学生時代には国の重要な研究にも参加し、特待生として学んでいました。そして今、自閉症の子供をサポートするAI開発で、画期的な進歩を遂げたのです……」

その瞬間、夏美の全身の血が凍りつくようだった。

画面には、杏奈の功績をまとめた映像が流れ始めた。

そこに映し出されたコード、アルゴリズムの設計……それらはすべて、かつて夏美が克哉と幾夜も徹夜して乗り越えてきた難題そのものだった。

そのすべてが、杏奈の手柄にすり替えられていたのだ。

それだけではない。夏美が誇りにしていた大学の卒業制作までもが……あの、彼女と克哉がそろって高い評価を得たAIシステム。その開発者名が、なんと杏奈に変わっていたのだ。

カメラが会場の客席を映し出す。

来賓席に座る克哉の姿があった。彼は、ステージ上の杏奈をうっとりと見つめ、口元には満足そうな笑みを浮かべている。

続いて、記者たちが大学時代の同級生数名にインタビューをしていた。彼らは、杏奈が当時いかに勤勉で聡明だったか、そしてIT分野でいかに素晴らしい才能を発揮していたかを、自信満々に語っていた。

まるで、かつて本物の天才だった夏美など、最初から存在しなかったかのように。

夏美は全身が震え、胃の中のものがこみ上げてくるようだった。

克哉は、関係者全員を買収したのだ。そして、自分の人生を無理やり杏奈の人生に押し込んだのだ。

努力も、才能も、過去の栄光も、すべてがいとも簡単に書き換えられ、臆面もなく別の女のものにされていた。

自分のすべてが、実績から家族まで、杏奈に乗っ取られてしまったのだ。

夏美が震えていると、テレビの画面が突然切り替わり、速報が流れ始めた。

「本日、S国にある高級療養施設で、重大な医療過誤が発生したことが分かりました。交通事故で長期入院していた移民の女性患者が、薬剤の誤投与により死亡したということです」

画面に映し出された名前は、まさしく夏美の母親、陽子だった。

雷に打たれたような衝撃を受け、夏美はその場で完全に凍り付いてしまった。

彼女の脳裏に、克哉の顔が浮かんだ。

あの男だ。

きっと、彼と杏奈の仕業だ。

自分を完全に支配するためか、あるいは、ただ邪魔になったからか……あの二人が手を組んで、母を死に追いやったのだ。

夏美はテレビに映る陽子の名前をただ見つめていた。その瞳から光が少しずつ消えていき、最後には静かな灰だけが残ったようだった。

彼女は冷たい床にへなへなと座り込んだ。まるで、命を抜き取られ、壊れた人形のように。

どれくらいの時間が経っただろうか。鉄の扉の向こうから足音が聞こえ、鍵が回る音がした。

逆光の中に、白衣とマスクをつけた長身の男が立っていた。その声は低く、どこか焦りの色を滲ませていた。

「夏美!遅くなってすまない……」

逆光で、その輪郭ははっきりとしない。

夏美は顔を上げたが、その虚ろな瞳には何の輝きもなかった。

ただ、感情のこもらない目で彼を見つめるだけだった。まるで、自分とは何の関係もない他人を見るかのように。

……

克哉は会議室で、杏奈のために練り上げた「天才女優」育成計画をチームに説明していた。

パワーポイントには、彼女をトップスターへと押し上げるための具体的なステップが詳細に描かれていた。

しかし、彼のスマホが立て続けに震えた。

執事からの電話だった。翔が朝から泣きわめいて暴れており、手が届くものをすべて壊しているという。誰かが近づくと、さらに激しく取り乱すとのことだった。

「夏美を呼べ!あいつに何とかさせろ!」

克哉は苛立たしげに命じた。

続いて実家の親戚から電話があり、屋敷のセキュリティシステムが完全にダウンして、街じゅうにけたたましい警報音が鳴り響いていると告げられた。

彼はイライラしながらこめかみを押さえた。

「以前はいつも夏美が対応していた。あいつを探せ!」

そこへ、チーフエンジニアが血相を変えて会議室に駆け込んできた。

「社長!新しいプロジェクトのシステムが、何者かに不正にアクセスされています!中の仕組みが完全にロックされていて、こちらでは手の打ちようがありません。これは……まるで、奥さんが初期の段階で設定した、特別に強いセキュリティが作動したみたいです……」

技術チーム全員がお手上げ状態だった。

「だったら、さっさと彼女を探して対応させろ!」

克哉の声には、自分でも気づかないうちに焦りが混じっていた。

しかし、その瞬間、彼はようやく何かがおかしいと気づいた。

夏美は自分の手で療養院に送られ、外界から隔離されている。自分自身でさえ、もうずいぶん連絡を取っていなかったのだ。

克哉は人払いをすると、初めて自ら、意図的に無視し続けてきた電話番号に発信した。

だが、返ってきたのは「おかけになった電話は、電源が入っていないか……」という、冷たい機械音声の繰り返しだけだった。

わけのわからない緊張感が、突然彼を襲った。

続いて、スマホの画面にシステム通知のメッセージが割り込んできた――

【通知:ご契約のドメイン『loveforever.com』は、料金未払いにより正式に失効しました。全てのデータは完全に消去されます】

克哉は愕然とした。

そのドメインは、大学時代に二人で一緒に登録したものだった。

そこには、二人が出会ってから恋に落ちるまでの、全ての思い出が詰まっていた。

初めて交わしたメッセージのスクリーンショット、二人で協力して書き上げたコード、夏美に送った最初のラブレター、翔が生まれた時に彼が夢中で撮った写真……

その後、自分は仕事に追われ、そのサイトにアクセスすることはなくなった。ずっと夏美が一人で、静かに更新を続けていたのだ。

それが今、料金未払いで……失効した?

克哉はそのメッセージを睨みつけた。心臓を見えない手に鷲掴みにされ、鼓動が止まったかのような衝撃だった。
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