息が詰まるような裁判を終えた夏美は、翔を連れて海外に戻り、静かで日当たりの良い新居で暮らし始めた。ここには克哉の影も、杏奈の悪意もない。ただ親子のための、穏やかな空間だけが広がっていた。夏美は翔の療育にほとんどの時間を費やしながらも、自身の研究を続けることも忘れなかった。彼女は最新の脳科学とAIの技術を応用して、翔に合わせた、ゆるやかで継続的な治療プログラムを開発した。一度は壊されたAIロボットも、夏美が念入りに改良を重ねたことで、翔の最高の「相棒」になった。そのロボットは、センサーで翔の細かな感情の波や体のサインを読み取り、彼が好きな心地よい音楽を流したり、優しい光の変化でコミュニケーションをとったりする。簡単な知育トレーニングだってできるのだ。忍耐強い愛情と科学技術が合わさり、奇跡は静かに起こった。翔のこわばっていた体は次第に力が抜け、叫んだり泣きわめいたりする回数も明らかに減っていった。彼は夏美と、前より長く目を合わせられるようになった。たまに、ほんの少しだけ口角が上がることもあった。夏美が思わず涙ぐんだのは、ある晴れた日の午後のこと。翔がロボットをいじっていたかと思うと、不意に顔を上げて彼女を見つめ、はっきりとこう呼んだのだ。「ママ」それはもう意味のない音の羅列ではなかった。はっきりと、甘えるような響きを帯びた呼び声だった。夏美の涙腺は一瞬で崩壊し、彼女は翔を力いっぱい抱きしめた。小さな体から伝わる温もりと信頼を感じ、これまでの苦労も葛藤も、すべてこの瞬間のためにあったのだと心から思った。翔の状態がどんどん良くなるにつれて、簡単なコミュニケーションもとれるようになってきた。ある日、夏美が見せた古い写真を見ていた翔が、不意に小さな眉をひそめた。そして、写真を指さしながら、途切れ途切れにこう言ったのだ。「あめ……いっぱい……あまい……くらくら……」写真に写る杏奈を見て、夏美の心臓がどくんと重く沈んだ。彼女が根気強く何度も問いかけ、翔のつたない言葉と身振りを組み合わせた結果、胸が張り裂け、怒りに震えるような真相が明らかになった。杏奈は母子の仲を引き裂くために、なんと幼い翔にこっそりと大量のお菓子やジュースを何度も与えていたのだ。そのせいで翔の血糖値は不安定になり、感情や行動のコントロー
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