萌花と時雄の周りには、次々と人が集まってきた。誰もがグラスを掲げ、祝いの言葉を口にしている。来希は小さく鼻で笑った。あの様子だけ見れば、まるで和樹が二人の実の息子であるかのようだ。向こうは和やかな祝賀ムードに包まれている。その一方で、来希は人目につかない場所に身を潜めるしかなかった。しばらく待っていると、ようやく機会が訪れた。最上階の宴会場は、吹き抜けの二層構造になっている。両側の螺旋階段を上がると、上階には休憩用のラウンジと個室が並んでいる。萌花がその上階へ向かうのを見て、来希は静かにそのあとを追った。上へ上がると、会場の喧騒は遠のき、空気が一気に静かになった。来希は廊下を進み、萌花が入っていった個室の前で足を止めた。ノックはしなく、そのままレバーハンドルを下げ、中へ入った。萌花は中で休んでいる。ドアの開く音を聞いて、時雄が来たのだと思って、入口のほうへ目を向けた。しかし、そこに立っているのが来希だとわかった瞬間、その目から温度が消えた。「来希……どうしてここにいるの」声もひどく冷たい。来希は中へ入ると、背中でドアを閉めて、内側から鍵までかけた。その動きを見て、萌花も表情がさらに冷えた。彼女はソファから立ち上がった。「来希、何のつもり?」来希はようやく部屋の奥へ歩みを進めた。今日はたしかに、かなり酒を飲んでいて、足取りにはわずかな乱れがある。それでも頭の中だけは、妙にはっきりしている。彼は一歩ずつ萌花の前へ近づき、その目を見据えた。「幸林テクノロジーが上場した。見ただろう?」萌花の唇に、冷ややかな笑みが浮かんだ。「そう。おめでとうございます、幸田社長」声は丁寧だった。けれど、そこに温度はまるでなかった。来希は、そのそっけなさがどうしても気に食わない。萌花が幸林テクノロジーにまったく関心がないはずがない。あの会社には、彼女だって少なからず力を注いできたのだから。「幸林テクノロジーは、この三年で最も勢いのあるテック企業になった。俺の資産も、もう百億円を超えている」萌花の表情は少しも変わらなかった。「それを言うために、わざわざここまで来たの?自慢なら、ほかのところでやってくれる?」来希は、ふいに問い返した。「おまえは時雄と結婚して、小林グループの株
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