「……いい加減におし!」二人の言い争いを寸断したのは、雷のような怒号だった。志津がテーブルを強く叩き、震える体で立ち上がっていた。「二人とも、恥を知りなさい!この家をどれだけかき回せば気が済むんだい!」志津の目は怒りと悲しみで揺れていた。「会社の人事は私が決める。全権はこの私にあるんだ。誰に何を言われようと、私の目の黒いうちは勝手な真似はさせない!」志津は激しく息をつきながら、朱美と早苗を交互に睨みつけた。「お前たち……私が長生きしすぎて邪魔だとでも思っているのかい?早くくたばれとでも言いたいのか!」「お、お義母様……そんな……」「紫音さんはまだ客分だ。これから嫁いでくる大事な娘さんの前で、こんな醜態を晒して……情けないと思わないのかい!」その剣幕に圧され、早苗も朱美も口をつぐんだ。静寂が重くのしかかる。こんなはずではなかった。ただ、律の祖母様の元気な顔を見に来ただけなのに、またしても修羅場と化してしまった。紫音は自分の存在が火種になったようで、いたたまれなかった。志津は深くため息をつくと、力なく紫音の方を向いた。「……紫音さん、律と一緒に帰りなさい」「すまないねぇ。こんな騒ぎに巻き込んでしまって……本当に申し訳ない。これからは私が会いに行くよ。お前たちは無理に来なくていい」志津は悟ったのだろう。紫音がここに来る限り、早苗は執拗に絡んでくる。この泥沼から紫音を遠ざけるには、距離を置かせるしかないのだと。その寂しげな決断に、紫音の胸が痛んだ。「お気になさらないでください、志津様。私は……」「……母さん」紫音の言葉を遮り、律が口を開いた。その声は氷点下のように冷ややかだった。「雑音に耳を貸す必要はありません。くだらない連中に心を痛めるだけ無駄です」律は早苗を一瞥すらしなかった。「私がすべて処理します」捨て台詞のように言い放つと、律は紫音を促して部屋を出た。口喧嘩など無意味だ。理屈の通じない相手に言葉を尽くす必要はない。律の眼差しには、冷徹な決意が宿っていた。これから婚約しようというのに、二度までもこの有り様だ。律としても、これ以上の狼藉を見過ごすわけにはいかなかった。「うふふ、そうね。律が本気を出せば、どんな問題もいちころだわ」朱美は勝ち誇ったように笑みを浮かべた。さきほどの怒りはどこへやら、頼もしい息子の一言です
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