All Chapters of 義妹に溺れる彼を捨て、私は宿敵の妻となる: Chapter 161 - Chapter 164

164 Chapters

第161話

紫音はどうにかして二人を繋げようと、必死にきっかけを作る。蘭は促されるまま慌てて立ち上がり、グラスを手に取った。蘭は意を決し、一気に酒を流し込む。「塚山さん、この度は本当にお世話になりました。特許の知識が乏しい私を、皆さんが嫌な顔一つせず導いてくださって……心から感謝しています」だが、蘭の頭の片隅には、打ち消せない思いがあった。彼が自分を助けてくれたのは、あくまで自分が『紫音の部下』だから。その事実が、胸をチリリと焼く。「そんなに畏まらなくていいよ。君は紫音の片腕なんだから。彼女が見込んだ相手に、優秀じゃない人間なんていないだろうしね」浩一は特に気負う様子もなく、さらりと言った。蘭は震える手で、もう一度グラスを煽った。感情が昂り、心臓の音がうるさい。ひどく狼狽しているのが自分でも分かった。好きな人の前で、平然を装うなんて到底無理だ。彼の何気ない一言が、鋭いトゲのように胸に突き刺さる。「蘭、あまり無理しないで。そんなに強くないでしょ?」紫音が心配そうに声をかけた。蘭が酒の力を借りて、必死に臆病な自分を奮い立たせようとしている。その意図は痛いほど伝わっていた。酒でも飲まなければ、想い人の正面に座り続けることすらできない。だが、こればかりは本人が乗り越えるしかない壁だ。紫音にできるのは、ただ静かに見守ることだけだった。「平気です。心配しないでください。これくらいなんてことありませんから。……ただ、どうしても、この一杯に感謝を込めたかったんです」一気に飲んだ酒が、胃の中でカッと熱を放つ。途端に蘭の顔はみるみるうちに朱に染まった。もともと彼女は酒など一滴も飲めない体質だった。アルコールに興味もなかったが、今日ばかりはどうしても、この胸の苦しさを誤魔化したかったのだ。「……すみません、お二人でお話ししていてください。少しお手洗いへ」アルコールが急に回ったせいか、全身がひどく重い。こみ上げてくる吐き気を必死に堪えながら、蘭はフラフラと立ち上がった。「蘭、私も一緒に行くわ。あんな飲み方、無茶すぎる」紫音が心配して席を立とうとする。「大丈夫です、紫音さん。一人で行けますから」蘭はそれを制した。今は誰の慰めも欲しくなかった。ただ一人になって、乱れた心に蓋をしたかったのだ。彼女の頑なな態度に、紫音は仕方なく腰を下
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第162話

「そうじゃなくて。一人の女性として、どう思ってるか聞いてるの」紫音の真面目なトーンに、浩一はつまらなそうに鼻で笑った。「彼女がどうであれ、俺には何の関係もないことだろ」その冷ややかな言葉は、洗面室でなんとか気持ちを落ち着け、席に戻ろうとしていた蘭の耳に、残酷なほどはっきりと突き刺さった。足が止まり、蘭の唇の端が自嘲気味に歪む。……やっぱり。彼にとって自分は、興味を引く対象はおろか、視界に入る存在ですらない。その現実を、容赦なく叩きつけられた気分だった。「浩一さん、蘭は本当に素敵な子よ。お互いフリーなんだから、すごくお似合いだと思うんだけど」紫音は身を乗り出すようにして、熱心に言葉を紡ぐ。「家柄の差があるのは分かってる。でも、あなたってそういうのを気にするタイプじゃないでしょ?もう少し彼女のこと、一人の女性として見てあげてほしいの。本当にいい子なんだから。二人とも、私にとっては大切な人よ。だからこうして紹介したいって思ったの。どうでもいい人には、こんなに優秀で信頼してるアシスタントを勧めたりなんかしないわ」紫音は、蘭がすぐ近くまで戻ってきていることに気づいていなかった。蘭は足音を殺し、壁の陰で立ち止まった。その先の言葉がどうなるかなんて、聞かなくても予想はついている。それでも、はっきりとした答えを自分の耳で確かめずにはいられなかった。それがどれほど残酷な現実を知ることになるとしても。「紫音、お前今日酔ってんのか?何馬鹿なこと言ってんだよ」浩一は呆れたように息を吐いた。「俺には心に決めた人がいるんだ。他の女に目を向ける余裕なんてない。俺が一度決めたらどれだけ一途か、お前が一番よく知ってるだろ?」心に決めた人――?紫音は思わず噴き出した。「ちょっと、どうしたの?明日は槍でも降るんじゃない? 長い付き合いだけど、あなたにそんな本命がいるなんて初耳よ。あんなに本をめくるより早く彼女を取っ替え引っ替えしてたあなたが、誰かに本気になるなんてね。「でも、言っておくけど。もし今後、蘭とどうにかなるようなことがあっても、絶対に彼女を悲しませるようなことはしないでよね。そんなことしたら、私が許さないから」彼が普段見せている軽薄な振る舞いが、すべては計算されたカモフラージュであることに、紫音は全く気づいていなかった。「……
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第163話

だが、不思議と腹の底から怒っているわけではない。二人の間には、いつだってこんな気安い空気が流れていた。いつからだろうか。浩一といる時間は肩の力が抜け、心から笑える自分がいる。他では得られないこの居心地の良さ。紫音にとって、彼は何にも代えがたい「一番の親友」になっていた。……そろそろ、いいかな。壁の陰で身を潜めていた蘭は、二人の会話がひと段落したのを見計らい、ゆっくりと足を踏み出した。「お待たせしました」席に戻った蘭の笑顔は、ほんの少し引きつっていた。それでもなんとか平静を装い、ズタズタに引き裂かれた胸の内を必死に笑顔の裏へと隠し通した。「俺、この後もう一件付き合いの席があるんだ。あとは女同士でゆっくり楽しんでくれ。じゃあ、お先」浩一はそう言って立ち上がった。あからさまに蘭へ興味がないどころか、視線一つ向けようとしない。そもそも今日ここに来たのも、紫音と食事をする口実ができたからに過ぎないのだ。まさかアシスタントまで同席するとは思いもしなかった。こんなことなら、大事な接待を後回しにしてまで来る必要はなかったと内心毒づく。彼にとって、世界で最も優先すべき存在は常に紫音だけだ。彼女が助けを求めるなら、すべてを放り出してでも駆けつける覚悟がある。それだけだった。「うん、分かったわ。お疲れ様」紫音も無理に引き留めようとはしなかった。彼の不服そうな態度を見れば、さっさとこの場から逃げ出したいのは明白だった。浩一が去り、テーブルには二人だけが残された。「蘭、さっきのことなんだけど……」「紫音さん、すみません。私、お二人の話……聞いてしまいました」紫音が口をひらくより早く、蘭が静かに遮った。「塚山さんの気持ち、痛いほどよく分かりました。……恋愛って、無理矢理どうにかなるものじゃないですよね。彼が私に関心がないのは、仕方ないことです」彼女は自嘲するように、ふっと息を吐く。「紫音さんがあんなに私のことを推してくださったのに、彼は全く揺らがなかった。塚山さんの目には、私は微塵も映っていないんです。どれだけ努力しても手に入らないものがある。……仕事の特許なんかとは、全然違うんですね」その言葉には、妙な諦念が滲んでいた。痛いほど現実を突きつけられ、すべてを悟ってしまったかのような、静かな悲しみが漂っている。「蘭……本当にそれでい
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第164話

一方の律は、書斎で仕事に没頭しながら紫音の帰りを待っていた。迎えには信頼できる専属の運転手を付けてあるから、安全性に関しては申し分ない。だが、その運転手から「紫音さんがアシスタントの女性とだいぶ飲まれているようです」と報告を受けてからというもの、気が気ではなかった。あの酒に弱い紫音が、こんな夜遅くまで飲んでいるのだ。無事に戻ってくるまでは気が休まらないのも無理はない。ようやく玄関の扉が開く音が聞こえた瞬間、律は飛んでいき、自ら扉を開け放つや否や、ふらつく紫音の体を軽々と抱き上げた。「りーつー……もう、私平気だってば。そんな大げさにするほど飲んでないよ」紫音は律の首元に顔を埋めながら、ふにゃりと笑った。「ほら、おろして。ちゃんと自分の足で歩けるし、頭だってすっごく冴えてるんだから!」まるで重度の酔っ払い扱いされているのが不服なのか、紫音は腕の中でもぞもぞと身をよじり、子どもみたいに抵抗してみせた。「外でこんなに隙だらけになるまで飲んでくるなんて……今日は大目に見てやるが、次は絶対許さないからな」律はわざと厳しい声色を作った。心底心配している彼にとって、彼女の身体を気遣うのは当然のことだ。「いいじゃない、少し飲んだくらい。今日は蘭が落ち込んでたから、付き合ってあげたの。それに、二人とも量はそんなに飲んでないし……まだ婚約もしてないのに、もうこんなに束縛するつもり?」紫音は不服そうに唇を尖らせ、腕の中でぶつぶつと文句をこぼした。アルコールのせいか、透き通るような白い肌がほんのりと桜色に染まっている。熟れた果実のように艶めかしく、思わず口付けたくなるような熱を帯びていた。その無防備な顔を見下ろす律の心臓が、制御不能なほど激しく高鳴り始める。寝室へ着き、紫音をベッドの上にふわりと降ろす。そのまま離れることなく、律は彼女の上に覆い被さるようにして顔を近づけた。絡み合う視線に、甘く重い熱が宿る。同じ屋根の下で暮らすようになってから、これほど至近距離で、これほど濃密な空気を共有したのは初めてだった。今夜こんなことになるなんて、紫音に心の準備などできていなかった。なのにどうしてか、彼を求める自分自身の衝動をどうすることもできなかった。不意に、熱を孕んだ律の唇が落ちてきた。貪るような深い口付けとともに、その体温ごと彼女をシ
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