懇願とも恫喝ともつかない声を上げて床に蹲るその姿に、琴音の表情が修羅の如く変わった。「出てお行き!よくもぬけぬけと顔を出せたものね!」琴音の怒声が響き渡る。「この子の人生を何年狂わせたと思ってるの?私たちから娘を奪っておいて、挙句ボロボロにして返すなんて……!あんたへの借りをどう返してもらおうかと思ってたところよ。どの面下げてここに来たのッ!」琴音の目には、娘を傷つけられた深い憎悪と、積年の恨みが燃え盛っていた。「誤解なんです、琴音さん!あれは全部違って……あの女とは何の関係もない!俺の心には紫音しかいないんです、信じてください!」「お黙り!」琴音の一喝が、清也の弁解を叩き斬った。「あんたが誰と遊ぼうが、もう知ったこっちゃないのよ。二度と私たちの前に顔を見せるんじゃないわ!」紫音は冷ややかな目で、床に這いつくばる男を見下ろした。まるで払っても払っても纏わりつく血吸蛭のようだ。どこまでも身勝手で、厚かましい。ここが京極の本邸だと知りながら、土足で踏み込んでくる神経には反吐が出る。「紫音、頼むよ……戻ってきてくれ!俺にはお前が必要なんだ、会社だって紫音がいないと回らない!そうだ、会社の権利も全部お前にやる、名義だって書き換えるから!だから俺を捨てないでくれ!」清也は泣きすがるように叫び、紫音の足元へ擦り寄ろうとした。「この数日、地獄だった……お前なしの人生なんて考えられない。お願いだ、戻ってきてくれ!」その言葉を聞いた瞬間、紫音の唇に乾いた笑みが浮かんだ。ああ、やっぱり。そういうことか。彼は自分を愛しているから来たのではない。経営難に陥った会社を処理し、尻拭いをしてくれる「便利な道具」を取り戻しに来ただけだ。今さら会社を譲ると言われても、中身はとっくに空っぽ。紫音が自らの手で主要プロジェクトを解約し、ボロボロにした抜け殻だ。それを押し付けて、自分だけ楽になろうという魂胆が見え透いている。清也がここまで泥酔している理由も明白だ。山積みのトラブルから目を背け、現実逃避したくて酒に逃げたのだろう。都合が悪くなれば酒に溺れ、責任を誰かに押し付ける──この男の本質は、昔から何ひとつ変わっていない。あまりの情けなさに、怒りを通り越して哀れみすら覚えた。パァン!乾いた音が玄関ホールに響いた。琴音の掌が、清也の頬を強く叩いたの
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