松田さんは、いつものように紫音が起きる頃合いを見計らって食事を用意してくれていた。その細やかな気遣いは、以前と変わらず温かい。「紫音様、お目覚めですか。律様なら今朝早くに会議へと向かわれましたよ。『紫音を必ず起こして、仕事へ行く前に何か食べさせてくれ。忙しいからといって、食事を抜くようなことは決してさせるな』と、きつく仰せ付かっております」律は毎日欠かさず、紫音の体調を気遣うよう松田に言い含めていた。彼女をこの屋敷に呼び寄せ、共に暮らし始めた最大の理由は、ひとえに松田のような信頼できる者に彼女の身の回りの世話を任せるためでもあった。今の彼女は仕事に心血を注いでおり、両親の側を離れて生活している。もし一人暮らしをさせてしまえば、食事も適当に済ませ、無理を重ねるに違いない。律は、そんな事態を断じて許さなかった。「ありがとうございます、松田さん」紫音の胸の奥に、じんわりとした温もりが広がる。食事を終えた彼女は、蘭と合流するため、二人で使っている小さなワークスペースへと向かった。そこは以前、個人的に借りていたマンションの一室だ。会社を離れた今の彼女たちにとって、そこが新たな拠点となっていた。もともとは、蘭が外で作業をする際の予備の仕事場として用意していた場所だったが、図らずも今、その存在が大きな助けとなっていた。そこへ、浩一から連絡が入る。彼女たちの事業に最適な特許案件が見つかったという。二人は今日の午後、詳細を詰めるために直接会う約束を交わした。ワークスペースの扉を開けると、そこにはすでに蘭が到着して彼女を待っていた。「紫音さん!やっとお会いできました。この数日間、どれだけ待ち遠しかったか……一人で仕事をするのは少し心細かったですけど、こうしてまた紫音さんとご一緒できるなら、疲れなんて吹き飛んじゃいました!」蘭は弾んだ声で一気にまくしたてると、手元の資料を整理しながら続けた。「各プロジェクトは、今のところ順調に進んでいます。例のご友人が手助けしてくださったおかげで、状況も安定しています。……それより、ご実家の方は大丈夫でしたか?ご両親と仲直りできたと聞いて、私も本当に安心しました」再会を喜ぶ蘭の表情は、どこか高揚しているようにも見えた。実際のところ、紫音が会社を離れてからの蘭のプレッシャーは尋常ではなかった。絶対
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