何より、婚約発表という重要な節目を目前にした悪意ある報道だ。明らかに二人を標的にした、周到な罠としか思えない。真相を突き止める必要がある。二人はその認識を共有した。じっくりと言葉を交わしたことで、胸を焼いていたわだかまりは静かに消えていった。もともと決定的な対立があったわけではない。ただ、説明のない沈黙を埋められずにいただけなのだ。律も今回の件で、深く身に染みたようだった。二度と同じ過ちは繰り返さない。何があろうと、真っ先に紫音へ伝える。彼は心にそう誓っていた。話し終えた二人は、慌ただしく京極家を後にした。それぞれに処理すべき仕事が山積している。数日間、実家に身を置いていた紫音も、自分のスタジオに戻らなければならなかった。アシスタントの蘭は、紫音の不在中も懸命に業務をこなしてくれている。だが、すべてを彼女一人に投げ出すわけにはいかない。高度な専門知識や感性が求められる作業は、紫音自身が手を動かすほかないのだ。一刻も早く、現場に復帰する必要があった。都心へ戻り、一通りの業務を片付けた頃には、夜も更けていた。よほど疲れが溜まっていたのだろう。律の家に着くなり、紫音は吸い込まれるように深い眠りに落ちてしまった。その傍らで、律は休む間もなくデスクに向かっていた。あの報道以来、グループ内は蜂の巣をつついたような騒ぎが続いている。株価の変動も激しく、投資家たちの動揺は隠せない。事態を一日も早く収拾し、信頼を回復させる。そのために律は、連日徹夜同然で指揮を執り続けていた。夜の帳が下りた頃、松田が夕食の支度が整ったと呼びに来た。深夜二時。静寂に包まれた部屋に、無機質な着信音が鳴り響いた。スマートフォンに表示された名を見て、律は小さくため息をつき、こめかみを押さえた。また文香からの電話だ。このところ、きまってこんな非常識な時間にかかってくる。今の文香は昼夜逆転の生活を送っているようだった。日中は意識が混濁しているくせに、夜になると律の関心を惹きつけようと、あの手この手で精神を削りにかかってくる。無下にはできないという負い目を盾に、彼女は少しずつ、だが確実に律の忍耐をすり減らしていた。いくら責任を感じているとはいえ、律の我慢にも限界がある。この線を超えれば、容赦するつもりはなかった。「律くん……こんなに遅いのに、電話に出てくれ
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