「松田さん、律くんに会いに来たの。いらっしゃるわよね?」紫音がいるにもかかわらず、文香が突然押しかけてきた事態に、松田はどうしていいか分からずオロオロとするばかりだった。様子を見にやって来た律も、玄関にいる彼女の姿を見て一瞬言葉を失った。まさか彼女が自分からここへ来るとは、思いもよらなかったからだ。「文香、急にどうしたんだ?」「今日はおばあ様のお誕生日でしょう?私も一緒にお祝いに行きたいの。今までおばあ様には、とても優しくしていただいたから。ほら、プレゼントも用意してきたのよ。だから、私も連れて行って!」文香は綺麗に包装された箱を、満面の笑みで真っ直ぐに差し出した。だが、部屋に入ってからの彼女の視線は、ただ冷たく紫音に釘付けになっていた。夫婦のように並んで朝食をとっていたのだろう光景は、どこからどう見ても甘く温かな空気に満ちている。それを見せつけられた文香の心は、鋭い刃で抉られたように激しく痛んだ。――本来なら、彼の手の届くあの場所にいるのは私だったはずなのに。どうして、この女が!どうして?なんであの女ばかりなの?文香は腹の底で真っ黒に渦巻く嫉妬と理不尽な怒りを必死に飲み込み、どうにか穏やかな表情を取り繕った。もし今日、思い切ってここへやって来なければ、二人がすでに同居し、こんなにも幸せに暮らしていることなど、永遠に気づけなかっただろう。「今日は身内だけの集まりだ。君を連れて行くわけにはいかない」律の冷ややかな声が落ちた。「それに文香、前にも言ったはずだ。外出したい時は事前に連絡しろと。迎えを手配すると伝えてあるのに、なぜ今日は勝手に出てきたんだ?」文香が何を企んでわざわざ押しかけてきたのか、律には最初から手に取るように分かっていた。紫音は傍らで二人のやり取りを見つめながら、困惑を隠せずにいた。この女の声——聞き覚えがある。いつも律の電話の向こうから聞こえてくる、あの声だ。まさか本人が直接押しかけてくるとは。会話の内容から察するに、彼女は律の祖母とも親しいらしい。単なる知り合いというには、あまりに距離が近すぎる。自分の知らない、長く深い繋がりがあるのは明白だった。まだ正式な婚約前とはいえ、結婚を前提に同居している身だ。自分に黙ってこれほど近い関係の女性を囲っているのだとしたら、彼には説明
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