紫音の心は、当事者である二人に負けないほど苦しさでぐちゃぐちゃだった。もし自分が過去を詮索しなければ、将来いつか発覚したとしても、それはあくまで「二人の問題」として済んだはずだ。自分が引き金となって二人を別離に追い込んでしまったという罪悪感に、胸が押し潰されそうだった。「紫音、それは違う。お前が気にするようなことじゃない」州は静かに、だがきっぱりと妹の言葉を遮った。「遅かれ早かれ、俺はあの事を知っていた。お前が調べなくたって、いつか別の形で必ず行き着いていたんだ。だから、お前が責任を感じる必要なんてまったくない」州は無理に頼もしい兄の顔を作り、優しい声で続けた。「この数日、俺のことでずっと気を揉ませて、辛い思いをさせちゃったな。情けない兄貴でごめん。巻き込んで悪かった」自分の心が一番ひどく傷ついている最中だというのに、州はどこまでも妹思いだった。これ以上、自分の恋の結末で紫音を苦しませたくなかったのだ。「何言ってるの。私たち、実の兄妹じゃない。巻き込んで悪かっただなんて、そんな水臭いこと言わないでよ……お兄ちゃんがずっと落ち込んでるのを見る方が、私だって辛いんだから」紫音は唇を噛みしめた。「有加里さんのことを調べたのは、私が昔……恋愛で痛い目を見たからなの。お兄ちゃんには私と同じような思いをしてほしくなくて、それで調べただけなのに」清也との過去があったからこそ、紫音は身内の交際相手に対して誰よりも慎重になっていた。「まさか、本当にあんな重い過去を隠していて、こんな事態になるなんて思わなかった……」結局、自分が引っかき回しただけではないか。紫音はどうしようもない歯がゆさに言葉を濁した。「もういいんだ、紫音。お前が俺のために動いてくれたことだって分かってるし、むしろ感謝してるくらいだ」州は妹を責める気など微塵もなかった。やり方はどうあれ、妹が心から自分を心配してくれていることを痛いほど理解していたからだ。「あ……ごめん、お兄ちゃん。律から電話みたい」ふいにテーブルの上のスマホが震えた。紫音は画面を見て目を見張ると、兄に断りを入れてから通話ボタンを押した。「いま、時間は大丈夫かな。少し実家に付き合ってほしいんだ」律の声は、いつも通り穏やかではあったが、どこか隠しきれない緊張が滲んでいた。「……父が帰ってきたんだ。拝島宏が」
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