聞き慣れた低い声。ぶっきらぼうだが、そこには確かな肉親の情がある。紫音はホッと胸を撫で下ろしたが、同時に目を丸くした。「えっ、もう着いたの?仕事が山積みだって言ってたじゃない。もしかして私のために無理して片付けてきたの?」「……」「本当にお兄ちゃんったら。こっちは一人でもなんとかなるって言ったでしょ。自分の仕事を優先してくれてよかったのに。忙しいなら、落ち着いてから来てくれれば……」「おいおい、自意識過剰もいい加減にしろよ」州は鼻で笑い、いつもの軽口で返してきた。「お前だけのためになんか来るわけないだろ。たまたまそっちの方で野暮用があったんだよ。そのついでに顔を見てやろうって話だ。暇ならさっさと迎えに来い」「はいはい、分かりましたよ。すぐ行く」まったく、州のツンデレぶりには呆れると通り越して愛しさすら感じる。彼の人柄や性格を知り尽くしていなければ、本気で不貞腐れていたかもしれない。けれど紫音は知っている。あの兄が「ついで」などと口にするのは、照れ隠しでしかないことを。素直に喜べばいいのだ。紫音は手早く身支度を整え、お気に入りの服に着替えると、颯爽と部屋を出て愛車のキーを手に取った。まさか、その空港で予期せぬ再会が待ち受けているとも知らずに。時を同じくして、空港の出発ロビーに清也の姿があった。「お兄ちゃん……わたし、絶対寂しくて死んじゃう」芙花が涙ぐみながら清也を見上げる。今日は彼女の海外出張の日だ。たった二日間の離別だが、その表情は今生の別れのように悲壮だ。もちろん、芙花の不安の本質は寂しさではない。「あの女」が不在を突いて清也に近づき、復縁を迫るのではないかという懸念だ。そんな隙なんて、一ミリたりとも与えるわけにはいかない。「分かってるよ。心配するな、たったの二日だろ?俺も寂しいけど我慢する。向こうに着いたら、いつでも電話してこい」「本当?お兄ちゃんの仕事の邪魔にならないかな……?」「馬鹿だな。お前は俺の人生で一番大切な女性だぞ?邪魔なわけないだろう」清也の甘い言葉に、芙花の大きな瞳が潤む。その可憐さに、清也の心はとろけそうになった。「よかった……!それなら安心してお仕事に行ける。行ってきます、お兄ちゃん!」「ああ、気をつけてな」芙花が何度も振り返りながらゲートへと向かうのを、清也は優しく見送
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