律はすでに次の手配を済ませていた。その迅速さと周到さに、紫音は舌を巻く。「お気遣いは本当にありがたいのですが……」紫音は一度言葉を切り、慎重に続けた。「仕事に関しては、できるだけ自分の力で進めたいのです。誰かのコネクション頼みになってしまうのは、少し抵抗があって」会社を失ったとはいえ、手元にはまだ特許と、これまで培ってきたノウハウがある。これらを武器に、一から自分の実力を証明したいという意地があった。「誤解しないでほしい。私がしたのは、あくまで候補の選定だけだ。そこから先、交渉を成立させられるかどうかは、完全に君の手腕にかかっている。私は口出ししない」律の言葉は、紫音の矜持を正確に理解していた。過保護になりすぎず、かといって放任もしない。その絶妙な距離感に、紫音の肩の力がふっと抜けた。「……分かりました。ありがとうございます」「君は私の婚約者だ。他人行儀な礼は要らないし、その堅苦しい話し方もなしだ」律は不満げに釘を刺した。「……ええ。善処するわ」紫音は少し可笑しそうに、わざと言い直して答え、短い通話を終えた。……それから一週間が過ぎた。律から送られてきたリストは精査されており、どの企業も紫音のビジョンと合致し、将来性も申し分ないものばかりだった。紫音はホテルに缶詰めになり、各社の分析と資料作成に没頭した。そして準備が整い、いよいよ数社のトップと面談を取り付ける運びとなった。今夜は、その最初のアポイントメントだ。今回は迷わずアシスタントの蘭を同行させることにした。前回の教訓を生かすのはもちろん、今後プロジェクトの実務を担う彼女にも、現場の空気を肌で感じてほしかったからだ。支度を整えてロビーへ降りると、すでに蘭が待機していた。「紫音さん、行きましょう!資料はバッチリ揃えてあります。今日の商談、私すごく自信あるんです」蘭はやる気に満ち溢れ、その表情は生き生きとしていた。「ええ、私もよ」そんな彼女の姿を頼もしく思いながら、紫音は微笑んだ。二人が意気揚々とホテルを出た、その時だった。目の前に、異様な風体の男が立ちはだかった。額に痛々しい包帯を巻き、その滲み出た血よりもさらに赤く充血した目で、男はこちらを睨みつけている。――塚山だった。「京極……ッ!よくも俺を潰してくれたな、この売女が!
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