自身の放任主義をわずかに省みる素振りを見せた貴子だったが、当然ながらその冷徹な意志が揺らぐことはなかった。「……紫音さんがそう言うなら、今日のところはこれ以上問い詰めないでおきましょう。ですが」貴子は氷のような視線を、再び息子へと突き刺す。「結論が変わるわけではないわ。この件に交渉の余地は一切ない。あなたは黙って、私たちの決定に従いなさい」「だから、どうしてだよ!」浩一は悲痛な声を張り上げた。「俺は母さんの息子であって、便利な操り人形じゃない!誰を愛し、どんな人生を歩むか……それを決める権利くらい、俺自身にあるはずだ。こんな理不尽な強要、絶対に受け入れられない!」浩一の瞳には、一切の迷いがなかった。母親にここまで真っ向から牙を剥くのは、名家の跡取りとして決して褒められた振る舞いではない。だが、彼がここで一歩でも引いてしまえば、待っているのは「蘭との永遠の別れ」という暗黒の未来だけだ。彼女を失う――そう想像しただけで、心臓を素手で握り潰されたかのように呼吸が苦しくなる。何があっても、親の勝手な都合で愛する人との絆を引き裂かせるわけにはいかないのだ。「俺と蘭は、もう十分すぎるほど心を通わせ合ってきたんだ。この先何があろうと、俺の決意が変わることはない。だから、母さんがこれ以上何を言おうと無駄だ!」その反抗的な宣言に、貴子の顔色が怒りで青白く染まった。敷かれたレールの上を歩んできた優秀な息子が、まさかここまで頑なに親に逆らうようになるとは思ってもみなかったのだ。親の決定を無視し、己の感情だけで突っ走るなど、塚山家の人間としてあるまじき大失態である。「あなた、自分のしていることの重大さが分かっているの!?」貴子の声が、余裕を失い鋭く跳ね上がる。「すでに家同士で合意している婚約を反故にすれば、先方にどれほどの顔向けができないか……!それに、あんな後ろ盾も家柄もない小娘を塚山家に迎え入れるなんて、一族にとってどれだけの不利益と厄介事を招くか、少しは頭を使いなさい!」紫音は心の中で深くため息をついた。莫大な富と権力を持つ財閥という檻――そこに生まれた人間は、どうしてこうも同じ悲劇を繰り返すのだろうか。ふと、紫音の脳裏に最愛の兄――州の顔が過る。身分差による親の猛反対。その果てに最愛の恋人と
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