その切実な思いを前にしては、紫音もこれ以上強引に連れ出すことはできなかった。……今はそっとしておくしかないわね。結局、紫音は小さくため息をつき、蘭をそのまま帰宅させることにした。――その後、両親のマンションへ到着すると、ダイニングテーブルには溢れんばかりの豪勢な手料理が並べられていた。すでに兄の州も到着しており、リビングには穏やかな談笑の声が響いている。その温かな光景は、昔から変わらない「完璧な家族」の姿であり、張り詰めていた紫音の心をホッと和ませた。しかし、紫音の目は誤魔化せなかった。ソファでくつろぐ州の横顔には、隠しきれない疲労の影が濃く落ちている。かつて親の猛反対によって最愛の恋人を手放すという凄惨な経験をした州は、浩一たちの悲恋を目の当たりにしたことで、完全に塞がっていたはずの古傷を深く抉られていた。未だにあの暗いトラウマの底から抜け出せていないのは明らかだった。それでも州は、両親や妹に一切の心配をかけまいと、実家のドアを開けた瞬間から「優しくて完璧な息子」の仮面を被り続けている。無理に明るい声で笑い、最高の状態を取り繕おうとする兄の痛々しい姿に、紫音は胸を締め付けられるような思いがした。お兄ちゃん……自分が一番苦しいはずなのに、どうしていつもそうやって一人で抱え込もうとするの……「今日は二人揃って顔を見せてくれて、お父さんも私も本当に嬉しいわ」キッチンから現れた母の琴音が、エプロンを外しながら満面の笑みを浮かべた。「全部、あなたたちが好きなものばかり作ったのよ。二人とも、どんなに仕事が忙しくても食事だけはしっかり摂りなさいね。こうして家族四人で食卓を囲むなんて、本当に久しぶりだわ……」琴音は目を細め、愛おしそうに兄妹を見つめた。「あなたたち二人が健康で、こうしてそばにいてくれるだけで……お母さんは本当に幸せよ」今日の琴音は、いつも以上に上機嫌でよく喋った。……彼女自身も、痛いほど分かっているのだ。かつて家柄を理由に息子の恋人を排除し、愛を諦めさせたあの一件以来、州との間には決して埋まることのない見えない溝が横たわっていることを。州は表面上こそ親孝行な息子として優しく接してくれるが、その奥にある本心は完全に冷え切っている。母親である琴音がそれに気づいていないはずはなか
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