「……録音?」 リーダー格の男が、顔をしかめて詩織の手元を覗き込んだ。 詩織は氷のように冷ややかな笑みを唇に浮かべたまま、一歩も引こうとしない。 「ええ。お店に入った時から、ずっと回させていただいていますわ。あなたたちが私の妹を突き飛ばし、店の商品を破壊し、そして『剛造様からの伝言』とやらを口にした瞬間まで、すべてクリアに録れていますよ」 彼女はスマホを掲げ、その画面を男たちの目の前に突きつけた。 画面の中で、赤い録音中のアイコンが、まるで時限爆弾のタイマーのように不気味に点滅している。 「……それがどうした。こんなもん、何の証拠にもなりゃしねぇよ」 「そうかしら? 不動産侵奪罪、器物損壊罪、威力業務妨害罪、そして暴行罪。……これだけの現行犯証拠が揃っていて、警察が動かないとお思いですか?」 詩織の声は、感情的になることなく、淡々と事実だけを積み上げていく。 その抑揚のない口調は、区役所の窓口で理不尽なクレーマーを処理する時と同じ、事務的で、しかし絶対的な拒絶を含んだ「鉄壁の公務員ボイス」だった。 「それに、あなたたちが気にしているのは警察よりも『世間体』でしょう?」 詩織は、男の脂ぎった顔を覗き込んだ。 「九龍剛造。……九龍グループの専務であり、次期社長の座を狙う野心家。そんな方が、ヤクザまがいの男たちを雇って、娘のような年齢の女性を襲わせた。……そんなニュースが流れたら、株価はどうなるかしらね?」 「……テメェ、脅す気か」 「交渉よ」 詩織は涼しい顔で言い返した。 「このデータを今すぐSNSで拡散し、週刊誌に売り込んでもいいのよ? 『九龍家の闇! 御曹司の婚約者を襲う叔父の暴挙』……なかなかキャッチーな見出しだと思わない?」 男の額に、じわりと脂汗が滲んだ。 彼らは暴力には慣れていても、こういう「表沙汰」になるリスクには弱い。雇い主である剛造が一番恐れているのが、自身の評判に傷がつくことだと、本能的に理解しているからだ。 彼らの仕事は「脅して追い出す」ことであり、「雇い主を破滅させる」ことではない。 「……チッ。クソアマが」
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