「祖母が……華枝祖母様が、倒れたそうだ」「え……っ」「本邸の庭を歩いている途中で、急に胸を押さえてうずくまり、そのまま意識を失ったと。今は佐々木院長のいる、うちの系列の総合病院に緊急搬送された」 華枝様が。 あんなに背筋が伸びていて、威厳に満ちて、九龍の大黒柱として揺るぎない存在だった、あのお祖母様が。「急性心不全らしい。……急いで着替えてくれ、朱里。君も一緒に来てほしい」「わかったわ!」 私はエプロンを外し、慌てて寝室へと駆け込んだ。 十五分後。 私たちは、深夜の首都高速を走る黒いハイヤーの後部座席に座っていた。 窓の外では、オレンジ色のナトリウムランプの光が、等間隔でビュンビュンと後ろへ流れていく。 車内は、恐ろしいほどの沈黙に包まれていた。 タイヤがアスファルトを擦る低い摩擦音と、エンジン音だけが、耳の奥でくぐもって聞こえる。 湊は、窓の外の流れる景色をただ無言で見つめていた。 その横顔は、彫刻のように硬く強張っている。 膝の上で組まれた両手は、互いの指をへし折ってしまいそうなほどの強い力で握りしめられていた。 華枝様は、湊にとって単なる身内以上の存在だ。 両親を早くに亡くし、九龍という冷たい家の中で孤独だった彼にとって、絶対的な庇護者であり、彼を次期当主として厳しくも正しく導いてくれた恩人。 彼女がいなければ、湊はとっくに剛造さんたちに潰されていたかもしれない。 その偉大な柱が、今、揺らいでいる。 私は、自分の膝の上に置いていた手をゆっくりと伸ばし、湊の固く組まれた両手の上に、そっと重ねた。 驚くほど、彼の指先は冷え切っていた。 私の手が触れた瞬間、湊の肩がわずかに跳ね、彼は窓の外から視線を戻して私を見た。「……大丈夫よ」 私は、彼の冷たい手を両手で包み込みながら、はっきりと口にした。「お祖母様は、九龍の女帝よ。あんなにエネルギーに満ち溢れた方が、
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