「だからこそ、傷ついたお客様の気持ちはわかります。家柄や格式で覆い隠しても、人は傷つく時は傷つく。そこからどう立ち上がるかを、私は現場で何度も見てきました」 周囲の夫人たちが、息を呑む気配がした。 「白鳥様のブランドは、傷のない綺麗な夢を見せる場所なのだと思います。……でも、雨の日も、騒動の日も、人生にはあります。傷跡ごと立ち上がれる式を作る。それが、私の、そして九龍の『Imperial Vows』です」 真琴の口元から、完全に笑みが消えた。 彼女はカップを持つ指先に微かに力を込め、鋭い眼光でこちらを射抜いてきた。 その場の空気が、張り詰めた弦のように限界まで引き絞られる。 隣の役員席に座る九龍の役員たちも、息を潜めてこちらの出方を見守っている。 「口先だけは、達者なようですわね」 真琴は、低く沈んだ声で言った。 「ですが、ビジネスは理想論だけでは動きませんのよ。お客様がどちらを選ぶか、それがすべてですわ」 「はい。そこは同じです」 私は、バッグの中から、もう一つの書類を取り出してテーブルの上に置いた。 「だったら、実際のお客様で見ていただけませんか。……次の新規案件を題材に、私たちのチームと白鳥様で、どちらがお客様の心を動かせるか、プランで勝負させてください」 対決。 勝負を申し込んだ途端、ホワイエの空気が爆発したようにざわめき始めた。 「まあ、対決ですって?」 「白鳥さんのブランドに、そんな不躾な勝負を挑むなんて……」 背後で、湊が静かに立ち上がる気配がした。 彼は口を出さなかった。ただ、一歩後ろに立っていた。振り返ると、目が合う。口を挟まずに頷いてくれる、そのことが今は何よりも心強かった。 ウールの上着が擦れる音が、心強い味方の足音のように聞こえる。 真琴は、ゆっくりと立ち上がった。 白いレースの裾が、床を静かに擦る。 彼女は私との距離を縮め、息がかかるほどの至近距離で、覗き込むように目を細めた。 百合の香水が、再び濃く香る。 「面白いですわ。……そこまで仰るなら、受けて立ちましょう」 真琴の薄い唇が、残酷な弧を描いて歪んだ。 「ただし、条件がありますの」 彼女の細い指先が、私の胸元をピタリと指し示した。 触れられてはいない。けれど、冷たい風が皮膚を突き抜けていくよう
Last Updated : 2026-06-26 Read more