All Chapters of 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~: Chapter 211 - Chapter 212

212 Chapters

第211話

絵里は、体が宙を舞うような感覚に襲われた。直後、温かな胸に抱きとめられた。続いて、甲高いタイヤの音が響き渡る。まるで、檻の中で暴れる獣の叫びのようだった。恐怖で体が小刻みに震え、背筋を冷たいものが何度も走り抜ける。その時、大きな両手が彼女の耳を包み込んだ。頭上から、低く力強い声が響いた。「怖がらないで。もう大丈夫だ……」絵里は身を震わせながら、その聞き覚えのある声に顔を上げた。目の前には、裕也の見慣れた顔があった。その瞬間、何もかもが吹き飛んで、彼にしがみついた。「さっき……本当に……死ぬかと……」絵里の声は震え、今にも涙がこぼれそうだった。裕也の瞳に痛みが浮かんだ。彼女をきつく抱きしめ、何度も優しく囁いた。そうしてようやく、絵里は落ち着きを取り戻した。その時、救急車への手配を終えた健が、険しい表情で歩み寄ってくる。「社長、和也様が……」裕也は声のする方へと視線を向けた。そこには、血の海に倒れ伏す和也の姿があった。絵里もそれに気づき、「あっ」と短い悲鳴を上げる。恐怖のあまり、その目は大きく見開かれていた。……二時間後。病院。和也は迅速な救命処置のおかげで一命を取り留め、すでに個室の特別病室へと運ばれていた。しかし、コントロールを失ってガードレールを突き破り、対向車線の大木に激突したトラックの運転手は、事故直後に車を捨てて逃走していたのだ。絵里は裕也から、和也が自分を助けようとして撥ねられたのだと聞かされた。彼女を突き飛ばして救おうと飛び出した結果、トラックの犠牲になってしまったのだと。もっとも、実際には裕也が間一髪で現れて彼女を引き寄せたため、トラックの直撃を免れたのだった。事の顛末を聞き、絵里の心境は複雑だった。いずれにせよ、和也が自分を助けようとして事故に遭ったことに変わりはない。結果的に、裕也に一足早く救われたのだとしても。「また、あなたに命を救われちゃったね」絵里は疲労と無力感の滲む顔で、自嘲気味に苦笑した。「彼にも借りを作ってしまった。私の肩には、いくつもの命が乗っかってるみたい」「無事だったんだから、それでいい。余計なことは考えるな」裕也は手を伸ばして彼女の頭を撫で、底知れぬ暗い瞳で彼女を見つめる。「今日はひどく怯えていただろう
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第212話

「母さんは忘れたのか?あなたの両親も亡くなったんだ。まさか、あなたが呪い殺したとでも言うのか?」「裕也っ!」雪枝は怒りで声を震わせ、床を踏み鳴らした。「かつての弟の婚約者を庇って、自分の母親に盾突くなんて。身内より他人が大事だとでも言うの!」「その話を持ち出す時は、呪い殺される心配はしないんだな?」裕也は冷ややかに彼女を一瞥し、鼻で笑った。「ただ婚約していただけで、何もなかったくせに。いつまでもその言葉を口にするなんて、よっぽど姑になりたいらしいな」裕也の言葉には、絵里を庇う意図が滲んでいた。そのためなら、母親を皮肉ることすら躊躇わない、そんな冷たさがあった。絵里は呆然と彼を見つめた。確かに守られているという実感が湧き、思わず鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなった。両親の死、それは、絵里にとって決して触れてはならない傷だった。だが雪枝は、その傷を何度も抉り返し、絵里が苦痛に顔を歪める様を見なければ気が済まないらしい。彼女は歯を食いしばり、真っ赤な目を雪枝に向けて、一言一言区切るように言った。「和也が私を助けるために怪我をしたことには、深く感謝しています。でも……両親はもう亡くなっています。事あるごとに彼らの死を持ち出して、私を侮辱し、傷つけるのはやめてください。あなたの目には、私が取るに足らない存在に映るかもしれません。でも、私は両親にとって大切な、かけがえのない娘だったんです。これ以上私をコケにするなら、両親があなたの夢枕に立つことだってあるかもしれませんよ!」言い終える頃には、絵里は両手をきつく握りしめていた。そうでもしなければ、身体の震えを止められなかったのだ。雪枝は驚愕の表情で彼女を見た。実際のところ、彼女は初めから分かっていたのだ。絵里の本来の性格が、決して軟弱なものではないことを。水原家のただ一人の跡取りとして、彼女は誰よりも自由奔放で我儘に生きてきた。だが、その後和也を愛してしまった。和也に嫁ぐため、ここ数年の彼女は雪枝の顔色をうかがい、自分を卑下し、従順で物分かりの良い態度を貫いてきた。だからこそ雪枝は錯覚してしまったのだ。絵里が弱々しく、いくらでも虐げていい存在なのだと。「絵里、母さんは和也のことが心配で、つい口調が強くなっただけよ。そんな縁起でもないこと言う必要ない
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