絵里は、体が宙を舞うような感覚に襲われた。直後、温かな胸に抱きとめられた。続いて、甲高いタイヤの音が響き渡る。まるで、檻の中で暴れる獣の叫びのようだった。恐怖で体が小刻みに震え、背筋を冷たいものが何度も走り抜ける。その時、大きな両手が彼女の耳を包み込んだ。頭上から、低く力強い声が響いた。「怖がらないで。もう大丈夫だ……」絵里は身を震わせながら、その聞き覚えのある声に顔を上げた。目の前には、裕也の見慣れた顔があった。その瞬間、何もかもが吹き飛んで、彼にしがみついた。「さっき……本当に……死ぬかと……」絵里の声は震え、今にも涙がこぼれそうだった。裕也の瞳に痛みが浮かんだ。彼女をきつく抱きしめ、何度も優しく囁いた。そうしてようやく、絵里は落ち着きを取り戻した。その時、救急車への手配を終えた健が、険しい表情で歩み寄ってくる。「社長、和也様が……」裕也は声のする方へと視線を向けた。そこには、血の海に倒れ伏す和也の姿があった。絵里もそれに気づき、「あっ」と短い悲鳴を上げる。恐怖のあまり、その目は大きく見開かれていた。……二時間後。病院。和也は迅速な救命処置のおかげで一命を取り留め、すでに個室の特別病室へと運ばれていた。しかし、コントロールを失ってガードレールを突き破り、対向車線の大木に激突したトラックの運転手は、事故直後に車を捨てて逃走していたのだ。絵里は裕也から、和也が自分を助けようとして撥ねられたのだと聞かされた。彼女を突き飛ばして救おうと飛び出した結果、トラックの犠牲になってしまったのだと。もっとも、実際には裕也が間一髪で現れて彼女を引き寄せたため、トラックの直撃を免れたのだった。事の顛末を聞き、絵里の心境は複雑だった。いずれにせよ、和也が自分を助けようとして事故に遭ったことに変わりはない。結果的に、裕也に一足早く救われたのだとしても。「また、あなたに命を救われちゃったね」絵里は疲労と無力感の滲む顔で、自嘲気味に苦笑した。「彼にも借りを作ってしまった。私の肩には、いくつもの命が乗っかってるみたい」「無事だったんだから、それでいい。余計なことは考えるな」裕也は手を伸ばして彼女の頭を撫で、底知れぬ暗い瞳で彼女を見つめる。「今日はひどく怯えていただろう
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