梨乃は呆然と立ち尽くす。隣にいたイケメンが彼女に声をかけ、遊びに誘ってきたのだ。そこへ章が梨乃の前に姿を現す。「行くのか?」梨乃は彼を見て一瞬驚いたものの、すぐに嫌悪感を露わにし、彼を突き飛ばす。「もちろん。行こっか」梨乃はイケメンに向かって微笑み、ウインクを一つ投げかけると、彼のベルトに指を引っ掛け、そのままエントランスの方へと歩き出す。その仕草は、この上なく妖艶だった。見ているだけで、男たちの血を沸き立たせる。周囲の男たちは羨望の眼差しを向けている。今夜のあいつは、とびきり運がいい。絵里が裕也に連れ去られたのを見ても、梨乃は少しも心配していなかった。むしろ、二人が腹を割って話し合えることを願っているくらいだ。バーを出て少し歩いたところで、梨乃はパッと手を離す。男の方を見向きもせず、タクシーを拾って帰ろうとする。「お嬢さん、すげぇ色っぽいし、なんか見覚えあるんだけど。で、この後どこ行く?」木付泰樹(きつき たいき)が下心丸出しで身体をすり寄せてくるが、梨乃はその胸に手を当てて押し返し、二歩下がって安全な距離を保つ。梨乃は目の前に立つ長身の男を値踏みするように見つめる。赤いレザージャケットに黒のインナー、首元にはゴツいシルバーアクセサリーをじゃらつかせている。いかにも不良っぽいが、顔立ちは悪くない。梨乃は赤い唇の端を吊り上げる。「あなた、顔立ちは悪くないのに……精気が足りないんじゃない?そのクマ、メイクかと思ったわ」「はあ?」泰樹は鼻で笑い、彼女の顎を指でつまんで睨みつける。「口先だけなら何とでも言えるよな。本番で試してみる度胸はあるのか?」梨乃をまじまじと見つめる。見れば見るほど、どこかで会った気がする。確かに、見覚えがある。先ほどバーで彼女に声をかけたのは、そもそも友人との罰ゲームに負けたからだった。でなければ、こんな場所で女を引っかけようなどとは思わない。いつもの遊び仲間の中から探した方がよっぽど手っ取り早い。だが、認めざるを得ない。この女は息を呑むほど美しい。派手なメイクが、その洗練された艶やかさを一層引き立てている。「試してみるか?」泰樹は喉仏を上下させ、彼女の耳元に顔を寄せて生温かい息を吹きかける。梨乃は心の中で盛大に舌打ちする。男
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