心愛は動かなかった。頭は激しく揺れ、視界も霞んでいるのに、心だけは不思議なほど澄み切っていた。雨の夜、彼が傘を差して現れたあの姿を思い出す。法廷で、自分のために宇佐美家や葵を敵に回して戦ってくれた、あの背中を思い出す。彼は児童養護施設から加賀見家に引き取られた養子だ。その事実は、家に戻った初日、静香が彼女の手を取り、涙を浮かべながら打ち明けてくれたものだった。二人の間に血の繋がりという鎖はない。あるのは名目だけの薄いベールと、世間の冷ややかな視線だけだ。けれど、これほどの苦難をくぐり抜け、一度は死んだも同然の身となった今、世間の目など何の意味があるというのだろう。心愛は手を伸ばし、少し硬い彼の髪に指を差し入れた。押し返す代わりに、そのまま力強く自分の方へ引き寄せる。暁の理性を繋ぎとめていた糸が、音もなく断ち切れた。視界がぐらりと回る。二人は柔らかなベッドへと倒れ込み、どちらのものともつかぬ吐息が激しく絡み合った。この夜、心愛は初めて知った。誰かに大切にされるとは、こういうことなのだと。壊れ物に触れるように遠慮がちに扱われるのではない。骨の髄まで溶け合うほどに強く抱きしめられ、肌のひとひら、体のわずかな震えに至るまで、余すことなく愛されるという感覚を。……再び目を開けたとき、窓の外はまだ薄暗い灰色に包まれていた。身をよじると、全身の骨を一度ばらばらにして組み直したかのような鈍い痛みが走る。二日酔いの頭痛に、思わず眉が寄った。ふと隣を見る。暁はまだ眠っている。その寝顔は、驚くほど無防備で、どこか子供のようにも見える。険の取れた眉。顎にはうっすらと青い無精髭。長い腕は、彼女がどこかへ逃げてしまうのを恐れるかのように、独り占めするような仕草で腰に回されていた。心愛はその寝顔を、長い時間見つめ続けた。――後悔しているだろうか。胸の内で、静かに問いかける。かつて桐生家にいた頃、貴臣に触れられたことは一度もなかった。最初は自分に何か足りないのだと思っていた。だが後になって知った。彼の心には葵がいて、身代わりに過ぎない自分には手を出せなかったのだと。けれど今、暁を見つめる心には、確かな温もりと安らぎがあった。後悔はしていない。心愛は彼の腕をそっとほ
Read more