「そうです、秀夫様。私も……やはり今のうちに白黒つけておいた方がいいと思います。私のような小さな会社では、加賀見の攻勢になど到底耐えられません」その一言を皮切りに、リビングはまるで鍋をひっくり返したような大騒ぎに包まれた。暁はゆっくりと、翔の手を踏みつけていた足を退けた。スラックスの裾に付着した見えない塵を払うと、ポケットから新しいハンカチを取り出し、指先を丹念に拭っていく。「全員黙れ!反逆か!貴様ら、揃いも揃って反逆する気か!」秀夫は、目の前に並ぶ強欲と恐怖に歪んだ顔を見つめていた。宇佐美家を切り売りし、貪り尽くそうとする言葉の数々を耳にするたび、激しい血の気が脳天へと駆け上がっていく。彼が一生をかけて築き上げてきた家族。誇りとしてきた鉄壁の牙城。そのすべてが、たった一晩で――暁のこの一蹴りによって、無残にも粉々に打ち砕かれたのだ。「お前たち……お前たちという奴らは……」秀夫は慶次を指差した。だが、唇は青紫色に変わり、宙を指した杖はガタガタと震えている。「恩知らず、ども……」最後まで言い切ることもできぬまま、秀夫は突如白目を剥き、そのまま後方へ崩れ落ちた。「親父!」慶太が血相を変え、慌てて老人の身体を支える。秀夫の身体は椅子の上で二、三度痙攣し、口角からは不自然によだれが垂れ落ちた。生涯抜け目なく光を宿していたその瞳には、今や白目だけが残り、天井のシャンデリアを虚ろに見上げたまま動かない。「秀夫様!秀夫様が倒れたぞ!」「救急車を呼べ、早く!」「動かすな!脳卒中かもしれない!」リビングは完全な混乱状態に陥った。電話をかける者。気付け薬を探して右往左往する者。混乱に紛れて机上の骨董品を懐へ忍ばせる者。そしてなおも声を張り上げ、分家を叫び続ける者。暁は、そのすべてを冷え切った眼差しで見つめていた。やがて、手を拭き終えたハンカチを、床に転がる青磁の香炉の脇へ無造作に放り捨てる。白い布地が、香炉から零れ落ちた最後の白檀の灰を静かに覆い隠した。「昂一、行くぞ」暁は身を翻し、この部屋の惨状へ、寂寥とした、それでいて揺るぎない背中を残して去っていく。敷居を跨ぎ、雨幕の中へ歩み出す。背後の喧騒は、数歩進んだだけで雨音に呑み込まれ、遠ざかっていった。
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