彼はゆっくりと身体を後ろへ預け、革張りのチェアの背もたれにもたれかかった。喉仏が大きく上下し、そのまま喉を傾けるようにして、焼けつくほど辛い液体を一気に飲み下していく。「誰が美味しくないと言った?」空になったカップをデスクへ戻し、飾り気のない指先でティッシュを一枚引き抜くと、軽く口元を押さえた。「妹が自ら台所に立って煮出してくれた薬だ。どれだけ辛くても、ありがたく飲み干すさ」心愛は、空っぽになったマグカップを見つめ、ほっとしたように微笑んだ。けれど。彼女は、この男のそういう平然とした顔がたまらなく嫌だった。どれだけ痛くても、どれだけ苦しくても、いつだって何でもないように笑って流してしまう。まるで、自分の痛みなど存在しないみたいに。「よくそんな白々しい嘘がつけるわね」心愛はマグカップをひったくるように奪い取り、そのまま彼を見下ろした。声音には、押し隠しきれない焦りが滲んでいる。「辛いもの苦手なくせに、最初の一口飲んだとき、明らかに眉間に皺寄ってたじゃない。それなのに、どうしてそこまで強がるの?あの夜だってそうよ。近藤さんが、お兄ちゃんは真夜中に急性胃腸炎で点滴まで受けたって言ってたのに、あなた、自分からは何も言わなかった。私がやれって言ったら、お兄ちゃんは何でもするつもりなの!?」暁は答えなかった。ただ静かに、感情をぶつける彼女を見つめている。「そうやって耐えることが立派だとでも思ってるの?」心愛の声は震えていた。「今日、車の中であの薬を見つけたとき、私がどんな気持ちだったか分かる?自分が最低な人間みたいに思えたのよ。私はただ、自分の懐かしさを満たしたかっただけなのに、そのせいであなたを救急室送りにしかけたんだから……!」言葉を吐き出すたびに感情が溢れ、瞳にはみるみる涙が滲んでいく。今にも零れ落ちそうだった。暁は小さく息を吐いた。次の瞬間、彼が足先に軽く力を入れると、キャスター付きの椅子が静かに後ろへ滑る。机一枚分あった距離が、一気に消えた。そして彼は手を伸ばし、カップを持っていない方の心愛の手首を正確に掴む。乾いた温かな掌の感触。そのまま軽く引き寄せられ、心愛は不意を突かれて二、三歩よろめいた。気づけば、彼の両脚の間へ飛び込むような格好になっている。一瞬で
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