病室の扉が閉まると、部屋の中が急に広くなったような気がした。それまで室内を覆っていた息苦しいほどの重苦しさも、いくらか薄らいでいる。それでも、心愛の心はまだ落ち着かなかった。ベッドにもたれかかってはいるものの、頭の中はふわふわと頼りなく揺れ、こめかみは脈打つたびに鈍く痛む。目覚めた直後に襲ってきたあの茫然とした恐怖も、まだ完全には消え去っていない。しかも周囲にいたのは見知らぬ人ばかりだった。貴臣が来てくれて、ようやく胸を締めつけていた不安が少しだけ和らいだ――そんな状態だった。貴臣はベッドの傍らに立ち、静かに心愛を見下ろしていた。心愛の手は、今もなお彼の袖口を掴んだまま離れていない。まるで次の瞬間にも彼がどこかへ消えてしまうのを恐れているかのように、指先には強い力がこもっていた。そのあまりにも久しぶりの依存と信頼の温もりに、貴臣の胸の奥も熱を帯びる。彼は込み上げる感情を押し隠し、できるだけ穏やかな声で問いかけた。「少し、白湯を飲むかい?」心愛は潤んだ瞳で彼を見上げた。「ええ……」貴臣はすぐに水を用意しに向かった。病室の電気ケトルはちょうど湯が沸いたところだった。彼は看護師の手を借りることなく、自らグラスに半分ほど湯を注ぎ、そこへ少量の冷水を加える。手の甲で温度を確かめ、熱すぎないことを確認してから彼女のもとへ戻った。「ゆっくり飲むんだよ」ベッドの縁に腰を下ろし、片手で彼女の肩を支えて上体を起こしながら、もう片方の手でグラスを唇へ運ぶ。心愛が少しずつ白湯を飲み込むと、乾ききっていた喉が潤い、張り詰めていた心もほんの少し落ち着いたようだった。彼女はか細い声で尋ねた。「私……一体どうしちゃったの?」貴臣の動きが一瞬だけ止まる。「交通事故に遭ったんだ」「ひどい怪我なの?」「もう大丈夫だよ」貴臣は彼女の目を見つめた。「先生も、しばらく静養すれば治るって言ってた」「じゃあ、どうして私はあの人たちのことを覚えていないの?」「頭を強く打ったからだ」貴臣は表情ひとつ変えずに答えた。「一時的に思い出せないことがあっても不思議じゃない。無理に思い出そうとしなくていいんだよ」心愛は眉をきつく寄せ、懸命に記憶をたぐり寄せようとした。だが、思い出そうとすればするほど頭痛はひどくなるばかり
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