扉の向こうでは、心愛がうつむきながら食事を口へ運んでいた。ふと笑った拍子に、その瞳が三日月のように細くなる。あんなふうに心から安らいだ顔を――桐生家で過ごしたあの三年間、自分は一度たりとも彼女にさせてやれなかった。本当に、ただの一度も。貴臣は、不意に立っていられないほどの眩暈に襲われた。足元は鉛を流し込まれたように重く、胸の奥は息が詰まるほど空虚だった。ここへ来る前、自分でも説明のつかない淡い期待を抱いていた。遠くからでも、ほんの一目だけ心愛の姿を見られればいい。もし許されるなら、少しだけでも言葉を交わせるかもしれない。そんな、都合のいい願いを。だが今になって、ようやく思い知らされる。自分には、もうこの門をくぐる資格すら残されていないのだと。自分が彼女に与えてきたものは、最初から最後まで、痛みしかなかった。心愛にとって、本当の意味で「家」と呼べる場所は、加賀見家だけなのだ。貴臣は数秒その場に立ち尽くしていた。やがて、ゆっくりと一歩後ろへ下がると、そのまま背を向けた。結局、中へ入ることはなかった。何の物音も立てずに。……ダイニング。暁はふいに何かの気配を感じ取ったように、玄関のほうへ視線を向けた。だが、そこにはもう誰の姿もない。彼はわずかに目を細めたものの、何も言わなかった。やがて朝食も終わりに近づき、正国と静香は先に席を立ってリビングへ向かった。食卓に二人きりになると、暁は不意に身を寄せ、心愛の耳元で声を潜めた。「さっき、玄関のところに誰かいた気がした」ちょうど手元を拭いていた心愛は、その言葉に動きを止める。「誰が?」「後ろ姿しか見えなかったが……桐生に似ていた」心愛は顔を上げ、玄関へ視線を向けた。だが、そこには人影ひとつ見当たらない。彼女はわずかに眉をひそめ、すぐに首を振った。「まさか。そんなはずないわ」「そうか?」「この前ここへ来た時、あれだけ無様な醜態を晒したのよ」心愛は手にしていたティッシュを置き、淡々とした声で続けた。「あの人って、何より世間体とかプライドを気にするタイプだもの。お父さんに追い出されたのに、またのこのこ来るほど面の皮は厚くないわ」暁はじっと彼女を見つめた。「ずいぶん詳しいんだな」「あの人の『恥を
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