葵は気だるげに画面をタップした。写真はわずかにぼやけ、物陰から盗撮したような角度で切り取られている。背景には、心愛が一人の男と並んで座っていた。男はすらりとした背中をこちらに向けているだけだが、その後ろ姿にはどこか見覚えがある気がした。葵がさらに詳しく確かめようとした、そのときだった。一本の電話が割り込んでくる。紘からだ。葵は、事がうまく運んだのだと早合点し、得意げな笑みを浮かべながら通話に出た。「片付いたの?」だが、スマートフォンから聞こえてきたのは成功の報告ではなく、紘の狼狽しきった声だった。「葵!大変だ!しくじった、バレたんだよ!」葵の顔から笑みが消え、ソファから勢いよく身を起こす。「何を言ってるの?そんなはずないわ!」「助けが来たんだ!正体不明の野郎だ!さらって間もないってのに、嗅ぎつけてきやがった!」紘の声は恐怖に震えていた。「おまけに俺の正体まで知ってやがる。いきなり名前を呼びやがって……あの気迫、ただ者じゃねえ!」葵の顔色が一気に沈む。心愛のような役立たずに、そんなつながりがあるはずがない。「……今、どこにいるの?」葵の声は、むしろ不気味なほど冷静だった。「俺は……逃げた。今は……隣の県だ」「どこかに身を潜めて、しばらくは姿を見せないで。私にも連絡しないでちょうだい。これからのことは、私からの連絡を待ちなさい」断固とした命令を言い切ると同時に、葵は通話を切った。苛立ちをぶつけるようにスマホをソファへ投げ捨て、フェイスパックを乱暴に剥ぎ取る。――心愛、なんてしぶとい女なの。あんな状況から助け出されるなんて。思考に沈みかけたそのとき、寝室のドアが開き、貴臣が入ってきた。ビデオ会議を終えたばかりらしく、その表情にはわずかな疲労が滲んでいる。険しい顔をしている葵に気づいた彼は、歩み寄って肩を抱き寄せた。「どうした?誰からの電話だ。そんな顔をして」葵の瞳に一瞬、動揺がよぎる。だが彼女は問いに答えず、何かを思い出したようにスマホを手に取り、その写真を差し出した。「貴臣、これを見て」貴臣は訝しげにスマホを受け取る。画面には、心愛と一人の男の後ろ姿が映っていた。背中しか見えないにもかかわらず、仕立ての良い高級スーツと、松のように凛とした佇まいが、その男が並外れた地位にある人
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