会計を終え、二人は並んで店を出た。 夜風が、火照った頬をやさしく冷やす。「楓、相変わらずだな」 慎一が苦笑まじりに言う。「ほんと。でも、冬真と幸せそうでよかった」 真琴も笑ったが、その声はどこか落ち着かなかった。 駅までの道を歩きながら、会話は途切れがちになる。 沈黙が気まずいわけではない。 ただ、二人とも、次にどんな言葉を置けばいいのかを測っているようだった。「忙しそうだね」 真琴が先に口を開いた。「まあな。でも、今日は来てよかった」 慎一は、はっきりと言った。 その一言に、真琴の胸が、また小さく跳ねる。 信号待ちで立ち止まったとき、慎一が自然な調子で言う。「家、どっち?」「あっち」 真琴が指さす方向は、慎一の帰り道とは反対だった。「……じゃあ、送る」 一瞬の間もなかった。 確認でも、遠慮でもない。 決めていたような口調だった。「え、いいよ。駅近いし」 真琴は反射的にそう言ったが、慎一は首を横に振る。「送る」 その声は穏やかだったが、揺るぎがなかった。 真琴は、それ以上何も言えなくなった。 二人は並んで歩き出す。 肩が触れそうで触れない距離。 真琴は、足元ばかり見ていた。 前を向くと、慎一を意識しすぎてしまうから。「最近、どう?」 慎一が聞く。「忙しいけど……楽しいよ。仕事」「そっか」 短い返事だったが、慎一の声は、どこか安堵を含んでいた。 しばらく歩いて、真琴のマンションが見えてくる。「あ、ここ」 そう言って立ち止まると、慎一も足を止めた。「……送ってくれて、ありがとう」「うん」 慎一はそれだけ言って、少しだけ間を置く。 街灯の下、二人の影が重なっていた。 慎一は、一度視線を外し、それから真琴を見た。「……また、会える?」 それは、控えめな言い方だった。 けれど、真琴には、それが勇気のある一言だとわかった。「……うん」 真琴は、すぐに答えていた。 慎一は、ほんの少しだけ笑う。「連絡する」 それだけ言って、踵を返す。 去っていく背中は、迷いがなかった。 真琴は、マンションの前に立ち尽くしながら、その背中を見送った。(……送ってくれた理由) それは、もう「安全のため」なんかじゃない。 真琴は、はっきりとそう感じていた。 胸の奥が、静かに、確かに満たさ
最終更新日 : 2026-01-23 続きを読む