隣の部屋から扉を激しく閉める音が聞こえ、承也はようやくゆっくりと視線を戻した。莉奈が逃げる間際、とっさにベッドの上に落ちていた写真を拾い上げる。承也は握りつぶされてくしゃくしゃになった写真を指で伸ばし、そこに写る小さな足を一瞥した。それから無造作に、枕の下へ差し込んだ。……莉奈が自分の部屋へ戻って間もなく、スマホが鳴った。和夫からの電話だった。電話を切ったあと、莉奈は深く息を吸い込んだ。和夫は、E国行きの候補者名簿に莉奈の名前を入れてくれたという。考えるまでもなく、美月の裏工作があったのだろう。そうでなければ、和夫のほうからこんなに早く確かな返事が来るはずがない。恋敵同士でも、利害が一致することがあるらしい。生きていれば思いがけないこともあるものだ。しかも、その当事者が自分だとは。けれど、ひとまずこの件には目途がついた。莉奈の学部時代と大学院時代の専攻、それにこれまでの経歴を考えれば、審査で落とされる心配はほとんどない。つまり、あと一か月半もしないうちに、莉奈は取材チームとともにE国の海外支局へ向かうことになる。三年。あるいは、それ以上。……莉奈はベッドに横になり、寝返りを打った。片手で頭を支え、もう片方の手でスマホを握ったまま、床に伏せて前足で承也の杖を転がして遊んでいる将軍を眺める。胸の奥が、ふっと空っぽになった。莉奈は掛け布団の上に寝転がったまま、いつの間にかうとうとし始めた。空気の中に、かすかな香りが漂っている。ほどなくして、莉奈は深い眠りに落ちた。部屋の扉が、外から静かに開いたことにも気づかない。床でうつらうつらしていた将軍が、はっと身を起こした。耳を立て、警戒するように入口を見つめる。喉の奥で低く一声鳴いたものの、将軍はすぐにまた床へ伏せ、目を閉じた。翌朝、莉奈は自分に掛けられた布団をめくろうとして、ふと動きを止めた。昨夜、いつ眠ったのだろう。どうしてあんなに深く眠ってしまったのか。それに、フットスツールの上に綺麗に置かれた上着を見て、莉奈は眉をひそめた。自分で脱いだ覚えがない。莉奈は額を押さえた。昨日はよほど疲れていたのだろう。自分がいつ眠ったのかも、何をしたのかも、記憶がはっきりしないのかもしれない。もし本当に誰かが部屋に入ってきた
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