検査医は問いかけながらも、ベッド脇に立つ男をひどく意識していた。冷ややかな気配をまとったその男の威圧感に、医師の口調は知らず知らずのうちに丁寧になっていく。莉奈は腰に添えられた手から、何事もないようにそっと身をずらした。「頻度はずいぶん減りました。ただ、たまに耳鳴りがします。嫌いな人を見たときとか、嫌なことをされたときとか……たとえば、今みたいに」検査医は、いっそ耳を塞ぎたかった。莉奈の言葉が明らかに背後の男へ当てつけていることは分かる。だがそれが誰のことなのか、あえて口に出すほどの勇気は彼にはなかった。検査医は気まずそうに小さく咳払いをした。「ええと……やはり、傷の治りには、できるだけ穏やかな気持ちで過ごしていただくのが一番ですから」「ありがとうございます、先生。気をつけます」莉奈が立ち上がった瞬間、あの大きな手が再び腰に添えられた。承也は莉奈の身体を自分の方へ引き寄せると、強引に検査室の外へと連れ出した。検査室の入口まで来ると、承也は必死に抵抗する莉奈を一度だけ手放した。だがすぐにその手は下へ滑り、今度は莉奈の細い手首をきつく掴む。「どこへ行くつもりだ」「耳が楽になる場所よ」「『愛しい省之介さん』のところか?」莉奈はその嫌味な響きを聞き流し、逆に冷たく問い返した。「椎名社長はこの間ずっとお忙しいんじゃなかったんですか?今日はずいぶん優雅ですね。病院を散歩する時間はあるんですか?まさか、わざわざ私を探しに来たなんて言わないでくださいね。もしそうなら、ありがたくお気持ちだけ受け取りますので、とっととお帰りください」この切り返しの鋭さは、さすが報道局の敏腕記者といったところだ。承也は静かに莉奈を見つめていた。その黒い瞳は薄い霧に覆われたようで、奥底にある本当の感情を読み取ることはできない。莉奈はそれ以上、承也を見なかった。踵を返してエレベーターへ向かいかけたが、ふと足を止める。莉奈は振り返り、ようやく少し声を落ち着けた。「椎名さん、私たち個人の関係がどれだけこじれていようと、私の仕事にまで私情を挟まないでくれない?たった三十分、取材を受けてくれるだけでいいの。私を困らせて、あなたに何の得があるっていうの?」「俺がいつ君を困らせた」承也の声はひどく淡々としていた。莉奈の瞳に、かすかな期待の光が宿
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