とはいえ、廷治に聞くわけにはいかない。そんなことをすれば、莉奈が内緒で壇将から射撃を教わろうとしていると、廷治に知られてしまう。莉奈は立て続けに三度、深いため息をついた。これでますます厄介なことになった。ただでさえ無愛想なトレーナーだったのに、今度は氷の塊みたいになってしまった。莉奈はハンドルを切り、車を幹線道路へ入れた。そのまま環状道路の外側へ抜けていく。年の瀬もかなり押し迫っている。道には、荷物を山積みにした長距離移動のバイクが少なくない。莉奈は彼らを驚かせないよう、少し速度を落とした。窓越しに、バイクのクラクションやエンジン音が、近づいては遠ざかっていく。車内には、心を落ち着かせるような静かな音楽が流れていた。その中に、ひときわ大きく耳障りな重低音がいくつか混じっていた。普通のバイクとはエンジン音がまるで違う。まるで道路上でチェイスでもしているかのような荒々しい音だ。莉奈は反射的に、血気盛んな若者たちが公道で暴走しているのだろうと思った。バックミラーに視線をやると、ダークカラーの大型バイクが数台、他のバイクの列を縫うようにして走ってくるのが見えた。彼女はかすかな違和感を覚えた。けれど、すぐ後ろには廷治の車がぴったりとついている。それだけで、少し気持ちが落ち着いた。廷治もこの異変に気づいていた。彼の車には、ほかに三人のボディーガードが同乗している。廷治はハンドルを握る部下に短く命じた。「向井さんの車にぴったりつけろ」車がぐんと加速する。だがその瞬間、周囲を走っていたバイクのエンジン音が、一斉に耳をつんざくほど膨れ上がった。ただの長距離移動のバイクだと思っていた群れが、磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、廷治の車へ一斉に群がってきたのだ。廷治は一目で見抜いた。ヘルメットの奥で光っているのは、家路を急ぐ一般人の目ではない。明確な殺気を帯びた目だ。「まずい!」奴らはただの通行人などではない。道を走っていたバイクの列が四方から押し寄せ、廷治の車を完全に包囲した。前方の視界がバイクの壁で塞がれる。その間にも、列をすり抜けてきた大型バイクたちは、前を走る莉奈の車を追ってさらに加速していた。濃紺の車体を光らせた三台の大型バイクが、莉奈の車を左右から挟み込むようにして強制的に進路を塞いだ。莉奈
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