颯太は莉奈を降ろしたものの、彼女の両手を背中側へねじり上げ、縄で縛りつけた。自力で口のタオルを外し、大声を出せないようにするためだ。莉奈は背中を押され、よろめきながらも前へ歩かされた。風牙は視線を前へ戻し、先頭を歩き出した。隣を歩く美月を一瞥し、低い声で釘を刺す。「殴るにせよ痛めつけるにせよ、ヘリに乗ってからにしろ」美月の軽薄な声が、莉奈の耳に届く。「もし私が、この女を殺したいって言ったら?」莉奈は、平然とした足取りで険しい山道を進む美月の背中を見つめた。震海に疎まれていたとはいえ、美月も桜井家のお嬢様だ。山登りどころか、走ることすら得意ではなかったはずだ。海外にいた三年の間に、よほど普通ではない経験を積んだに違いない。それに、美月は風牙と手を組んでいる。二人の口ぶりからして、かなり前から通じていたのは明らかだった。風牙が振り返り、莉奈を一瞥した。枝に引っかかって乱れた髪が頬に張りつき、半乾きの毛先が夜風に揺れている。視線がぶつかる。莉奈の瞳にあるのは、彼らへの軽蔑と憎悪だけだった。恐怖など微塵も感じられない。その目は、かつて彼の手で殺された潜入捜査官たちによく似ていた。同種の気骨が宿っている。風牙は鼻で笑った。「こいつは承也に贈る、とびきりの土産だ。お前に殺させるわけにはいかないな」美月の目の奥に、暗い打算の色がよぎった。風牙と承也が敵対していることは、美月もとうに知っていた。承也は何度も風牙の資金源を断ち、正月早々には彼の命まで奪いかけている。風牙がその恨みを晴らさずにいるはずがなかった。だが、美月には、この男が承也を傷つけるのを黙って見ているつもりはない。だから、風牙が莉奈を人質にして承也を脅す前に、莉奈を殺さなければならない。そうすれば風牙は承也に対抗する切り札を失い、美月自身も無事に救い出されたという筋書きにできる。それに、美月は風牙が欲しがっている資産の在りかと、高純度の違法薬物の製法を握っている。風牙が彼女を殺すはずはないのだ。美月は風牙の横顔を眺め、意味ありげに口角を上げた。「じゃあ約束よ。ヘリに乗ったら、この女は私に渡してね。死ぬよりつらい目に遭わせてから、息だけは残してあなたに返してあげるから」風牙は肯定も否定もせず、そばにいる颯太に命じた。「周囲の警戒を怠るな」美月は不機嫌
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