Home / 恋愛 / 浮気夫は復讐する / Chapter 31 - Chapter 40

All Chapters of 浮気夫は復讐する: Chapter 31 - Chapter 40

59 Chapters

31話 疑惑再び

蚊に刺されたようにも見えるそれを最初は気に止めていなかったが、それを囲むように点線状の凹みも見つけた瞬間、優希の目は釘付けになった。 だいぶ薄いが、カーブを描いたその凹みは歯型のように見える。 「下ろしますね。」 もっとよく見ようとしたが、暁春の言葉に思わず自分の足元を見てしまい、気づいてすぐに顔を戻すも、襟で隠れていた。 優希は大人しく浴槽に浸かる。しかし頭の中では先ほどの光景が揺れていた。 歯型………? なぜ? 暁春に促されるまま頭を湯船の縁に倒した優希は暁春をまっすぐ見た。 湯気で曇った眼鏡は既に外され、視界はぼやけているが、逆さまになった暁春の顔は認識できる。 「…あなたは脱がないの?」 シャワーを手にした暁春に、優希は静かに声をかけた。 動揺を悟られないよう全神経を集中していたが、その表情は硬かった。 「一緒に入りたいんですか?」 「うん。」 楽しげに目を細めて冗談めかして言う暁春に優希は即答した。 早く確かめたかった。 いつもなら恥ずかしがる優希が、なんの躊躇いもなく肯定したことに暁春の手が一瞬止まり、優希の顔に目を向けた。 隠せていない動揺をどう思ったのか、一段と優しい笑みを浮かべ、傷口を避けながら優希の頭をシャワーで濡らしていく。 「怪我をしているんですから、今日は我慢してください。」 温かいお湯は本来ならリラックス出来るはずなのに、優希の体は力が入ったままだった。 見間違いだったのかと思うほどいつも通りの暁春に、優希は顔を直視できなくなり目を閉じた。 そうよ…見間違い。一瞬だったし…。胸の不快感を飲み込み自分に言い聞かせる
last updateLast Updated : 2026-02-15
Read more

32話 懐かしい手

病室に戻ると暁春はいなかった。 代わりにテーブルの上にメモ書きがあり、少し用事で出て行くが、直ぐに戻るという内容が書かれていた。 そのメモを読むとそのままテーブルに戻した。 その時ドアをノックする音がして、優希が声をあげると将生が入ってきた。 「後ろめたいことがなくても特別病棟の警備には緊張しちゃうね。」 パソコンや聴診器などが乗ったカートを押して、苦笑いを浮かべた将生の姿に優希は安心した笑みを浮かべた。 「ああ、良かった。おでこの傷口を見てほしいの。お風呂に入ったら間違って濡らしてしまって…。」 そういいながらタオルを取って見せる。 将生はそれを見て、困った表情を見せながらカートから処置セットを取り出した。 「まったく…、濡らさないように言ってたのに…。」 消毒液を塗られると、またピリッとした痛みを感じて首をすくめた。 「塗り薬も窓口に依頼があったから持ってきたよ。」 「あなたが持ってきたの?」 「夕方の事故でみんな大忙しなんだ。ご飯は食べた?」 「看護師さんが持ってきてくれたわ。」 新しいガーゼを貼ると、将生は軟膏の容器を取り出した。 後で塗ろうと思い。優希はパジャマのポケットに入れる。 「明日の朝9時に産科に来て。菊池先生が診てくれるよ。」 「わかったわ。」 処置道具を片付けた後、将生はメモ用紙を優希に渡した。 「これ、僕の連絡先。妊娠中何か不安なことがあれば連絡して。」 優希はそれを受け取るのを躊躇した。 彼らは元恋人同士で、特に自分は既婚者だから別れたあとにも連絡を取り合うのは不適切なのではないかと思ったのだ。
last updateLast Updated : 2026-02-16
Read more

33話 執着してるみたい

「ぐっ!」 苦しそうな声をあげた将生の胸ぐらを、素早く近寄ってきた暁春が鷲掴む。 「やめて!!」 優希は今にも殴りそうな暁春の腕にしがみついた。 「俺の妻に何をしている。」 いまだかつて聞いた事のない低い声に暁春の怒りを感じ、優希の体が震える。 「怪我の状態の確認と、依頼のあった塗り薬を持ってきました。」 「何故産科医の貴様が来る必要がある?」 「夕方に起きた大事故で外科医も内科医も忙しいんですよ。」将生は首がしまって苦しそうにしているが、目の前の男から発せられている重圧感を感じていないかのように静かに答えた。 暁春の声は落ち着いているように聞こえるも、優希がしがみついた腕は震えており、怒りを抑えているようだ。 「暁春っ!彼はガーゼを貼り直してくれただけ!」 「黙れ。」 暁春が何かを勘違いしていると思い、慌ててしがみついた腕を引っ張るも、鋭く睨む目と冷たい声に優希の表情が固まる。 そんな彼女を慰めることもなく将生に目線戻した暁春からは歯ぎしりの音が聞こえた。 「昔の情を忘れられずに妻に手を出そうとしてるんじゃないか?」 暁春の言葉に将生は眉をひそめた。 慌てたのは優希だった。 「何を言ってるの?医者として心配してくれてるだけじゃない!」 「お前はクビだ。この国ではお前を雇う病院はない。今すぐ親の所へ帰れ。」「うっ!」「将生!!」 暁春は将生を床に投げ捨てると、そちらへ駆け寄ろうとする優希をきつく抱きしめた。 「何故付き合っていたことを言わなかった。後ろめたいことがあるのか?」 優希は頬を強く掴まれ暁春の
last updateLast Updated : 2026-02-16
Read more

34話 一目惚れだった

「勝手に調べさせたのはすみません。結婚してから、ゆうちゃんの周りに竹田とおじいさん以外に男はいなかったので不安になったんです。」 いつもの暁春になったことに優希の体の力が抜ける。やはり彼女は冷淡に感じる人より温度を感じる人の方が好きだった。 「いいのよ、不安にさせたのが悪いから。でも本当に彼とは何もないの。」 「私のせいで誰かに迷惑かけたくないから、彼に罰を与えないで。お願い。」 暁春は不服そうな顔をしながらも頷いた。 キスマーク疑惑で悶々としていたのに、自分が浮気者のようになってしまったことに、優希は内心ため息をついた。 「…………佐久間医師はゆうちゃんが好きそうなタイプですね。」 優希が顔をあげると、珍しく沈んだ顔の暁春が目に入る。 「…なんだか今日はそういうのばっかね」 昼から何度か他の男性を気にしたような質問をされ、優希は苦笑いを浮かべる。 「何ででしょうね…。俺もなんで急に気になりだしたのか分かりません……。」 「きっとゆうちゃんが他の男に関心を持つのが嫌なのかもしれません。」 優希は珍しく彼女から目を逸らして静かに話す様子に、彼の戸惑いを感じた。 「うーん…過去の相手の話なんてお互いいい気分じゃないんじゃない?」 特にその相手を自分が知っている場合は… 心の中で付け足す。思い浮かぶのは有美の顔だった。 「……それでもいいです。彼のどこが好きだったんですか?きっかけは?」 暁春の必死さに今度は優希が目を逸らした。目を見て話すのは気まずかった。
last updateLast Updated : 2026-02-18
Read more

35話 もうひとりのゆうちゃん

その登録名を見た瞬間、優希の頭は真っ白になった。 (ゆうちゃん…?…私………?) 真っ先に確認したのは自分の携帯が間違って発信してしまったのかだった。しかし彼女の携帯はどこにも発信などしていない。 暁春のもう一人の「ゆうちゃん」を確認したく、震える指で通話ボタンをタップしようとするも一歩遅く、電話は切れてしまった。 もう一度かかってくるかもと思い少し待ったが、手の中の携帯が鳴ることはなかった。 そのうち浴室の扉が開く音が聞こえたので、急いで元の場所に戻しベッドに潜る。 心臓は激しく鼓動し呼吸も荒くなる。 (違う、違う…。ゆうちゃんなんてよくある愛称よ。) 「もう寝たんですか?」 暁春の気遣う声が聞こえ、優希は呼吸を整えると布団から顔を出した。 パジャマを着た暁春がタオルで髪の毛を拭いていた。 見える範囲でおかしな痕は何もなく、例の疑惑の箇所は隠れて見えない。 「今日は疲れたから横になってたの。…あ、さっき電話が来てたみたいよ。」 優希は自然を装って言った。 暁春はまずテーブルの携帯を確認すると、今度はコートのポケットに手を入れた。 堂々と優希の知らない携帯を取り出す姿に彼女は困惑の表情を浮かべる。 「…あら、それってこの間の携帯よね。もう1つ携帯買ったの?」 優希は彼女の持てる最大の演技力でその携帯について話をした。 「今まで分けてませんでしたが、仕事とプライベートの携帯を分けようかと思って最近買ったんです。」 長い指を画面上で
last updateLast Updated : 2026-02-19
Read more

36話 本気で言ってる?

優希の問いかけに暁春はクスリと笑った。 「やっぱりさっき見てたんですね。あれから様子がおかしかったから、もしかしてと思ってたんですよ。」 「…どういうこと?」 キスマークを認めるような発言にとうとう優希の声が震える。 優希は足元が崩れる感覚に無意識に暁春のパジャマを掴んだ。 「ああ、ゆうちゃん泣かないでください。そういうのではないんです。」 ショックを受けた優希の頬をうっとりと撫でながら暁春が言う。 「俺の結婚は公表していないので、自分の娘や親類の女性を俺に宛てがおうとする輩はたまにいるんです。」 「先日会食した相手も姪っ子を連れてきてまして、酒に酔った相手が噛み付いてきたんですよ。」 ほら、と言って絆創膏を剥がす。 剥がした絆創膏の下には優希が見たわキスマークがあった。 「……本気で言ってるの?」 眉間に深い皺を刻みながら優希が言う。その声は普段より低く、彼女の訝しむ気持ちと不機嫌さを物語っていた。 会食に参加したことのない優希は詳しくないが、そんな淫らな会食はそうそうないだろうことは想像つく。 言い訳だとしたらレベルが低いと思いながら、暁春の話の続きを聞く。 「信じられないかもしれないですが真実はそれなんです。心配でしたら三滝秘書と竹田にでも確認するといいですよ。彼らもいたので。」 眉を寄せ無言なままの優希に、暁春は形の良い眉毛を下げ困った顔で言った。 真っ直ぐ優希の目を見て話す姿に彼女の目が泳ぐ。 「…信じられないですか?悲しいですね、こんなにあなたを愛しているのに…。傷つきます。」 優希は暁春の言葉に体を強ばらせると顔を俯かせる。 目を逸らしていた優希は気づかなかったが、乞うような口調に反して、暁春のその目には冷
last updateLast Updated : 2026-02-19
Read more

37話 佐藤さん

翌朝、廊下で人の行き来する気配に優希は目覚めた。 一瞬どこにいるのかぼんやりする頭で考え、事故にあい検査入院をしていたことを思い出す。 横を見ると昨晩彼女を抱きしめて寝てした夫はいない。シーツも冷たいので随分前に起きたようだ。 時刻は朝7時。 ハンガーにかかっていたコートも無くなっているので、どうやらもう出たようである。 つい数日前に暁春を見送った時の幸福感が懐かしく感じるほど、今の優希の気分は優れない。 テーブルにはまた暁春のメモが置かれていた。 昨日は不安にさせてすみません。 でも真実なんです。 どうか俺を嫌わないで、避けないでください。 朝食は和洋中から選べますので、ベッド脇にある内線で伝えてください。 会社に行ってきます。 優希は迷った後、そのメモを携帯カバーに入れた。 テーブルの上にはもう1枚、朝食のそれぞれの献立表が乗っており、優希はその中から中華料理の朝食を選んで内線で伝えた。 その後トイレで用を足し、手を洗いながら洗面所の鏡を見ると、胸元の掻き痕はたしかに目立つようなところが赤くなっていた。 優希は眉をひそめてポケットから昨日貰った軟膏を取り出し、丁寧に塗っていく。 「失礼します。」 部屋の方から声がし、見てみると、1人の女性が朝食を運んできていた。 前髪を乱れなく斜めに流し、後ろ髪を低い位置で団子状にまとめたその女性は、将生の診察室で仕事をしていた看護師だった。 マスクから見える涼しげな目元と、その横にある泣きぼくろを優希は覚えていた。 (たしか佐藤さんだったかしら…) 「申し訳ございません、ノックはしたんですが…。」
last updateLast Updated : 2026-02-20
Read more

38話 後悔するだろう

「………優希には?」 「まだお前たちの過去は伏せているが、いずれ気づくだろう。あの子も馬鹿では無い。」 老人の言葉に暁春の顔に冷笑が浮かぶ。 「馬鹿じゃなければ、20年前に俺と母さんどころか、自分の父親すら裏切る真似はしないだろう。あの女は頭の足りない大馬鹿者だ。」 そう吐き捨てた言葉は、とても自分の妻に向けるものとは思えないもので、老人の顔が険しくなる。 「…暁春、あの時の優希はまだ分別のつかない子供だった。悪いのは周りにいた大人だ。」 「俺はもっと幼い子供だった。母親と過ごす時間を奪われたんだ。」 老人は再びため息を着くと、力なく背もたれに倒れかかった。 「もうやめておけ。優希は今、お前の元で心から安心して過ごしている。お前が愛した女性を、お前自身が不幸にさせないでくれ。」 「俺はあいつを愛していない。俺が愛しているのは昔から有美だけだ。」 「…………お前は必ず後悔する。」 顔色ひとつ変えずに言い切った暁春に、老人は無力感から両手に額を乗せて呟いた。 その呟きを鼻で笑いながら、暁春は老人に背を向けて歩き出す。 「元はおじいさんが巻いた種じゃないですか。」 扉に手をかけた時に一瞬
last updateLast Updated : 2026-02-20
Read more

39話 知られる

「あら!パパじゃないのね!秘書さんかしら、申し訳ないわ…。」 菊池先生はそう言うと、手で産科への通路を指し、2人に移動を促した。 「本当はパパにも一緒に検診に来て欲しいんですよ。ほら、男性はなかなか父親になる実感がわかないじゃない?エコーを一緒に見ると実感も湧きやすいと思うの。」 「石口さんの旦那さんはいつか来れそうかしら?両親学級とか是非誘ってみて。」 菊池先生の話は止まらず、もはや悟に隠すことなど不可能な状態に優希の顔が真っ青になる。 「待合室で待っててくれるかしら、準備が出来たら呼ぶわね。」 そう言って菊池先生が診察室に入っていくと、優希と悟の間に沈黙が流れる。 「……悟さん、このこと暁春には言わないで欲しいの。」 優希は震える声で悟に言った。 「何故ですか。もしやその子供の父親が社長じゃないからですか?」 思い詰めた表情の優希をどう思ったのか、悟の顔が険しくなり、声も冷ややかに感じた。 「そんなわけないじゃないっ!!」と優希は慌てて首を振る。 「今週末に本邸で伝える予定なの。おばあさんとおじいさんも知っているわ。」 「それなら今日でも良いのではないでしょうか。」 「良くないわ…。彼が子供を欲しがっていないの知ってるでしょう?タイミングが大事なのよ…お願い。」 優希は肩を落とし力無い声で呟く。 悟は暁春と有美の関係を知っていた。
last updateLast Updated : 2026-02-21
Read more

40話 無事

「前回はまだ赤ちゃんの袋だけだったのよね。今は豆粒みたいなのが見えてるわよー。」 優希がモニターを見ると、前回は見えなかった白い物体が、2つの胎嚢にそれぞれ入っていた。 「可愛い…。」 思わず呟いた優希を菊池先生は優しく見つめる。 彼女は長年この仕事をしているが、モニター越しに胎児を見る母親たちの目が、純粋な輝きに満ちている様子にいつも胸が温かくなるのだ。 「ありがとうございました。」 事故の影響は無いと診断されたことに胸のつっかえが取れた優希は、晴れやかな表情で診察室を出る。 悟に診察が終わったというメッセージを送っていると、和珠が神妙な顔をして近づいてきた。 「石口さんすみませんでした…。妊娠をまだご家族にも伝えていないと佐久間先生から聞いていたのに…。」 どうやら菊池先生が、悟の前で妊娠について話したことを言っているようだ。 「伝える前に菊池先生が呼ばれてしまって…。本当に申し訳ございません…。」 「まぁ、頭を上げてください!秘書には主人に伝えないようお願いしたので大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」 和珠が頭を下げる姿に、優希は慌てて和珠の肩を叩いた。和珠は顔をあげるが顔色は良くない。 実際、妊娠を伝えるタイミングは妊婦ごとに理想や希望があり、病院側が台無しにしてしまえば賠償問題に発展することもある。 それよりも重たいのは、個人情報漏洩の面で訴訟を起こされることである。 菊池先生が優希を探しに行ったと聞いた時、和珠は慌ててその後を追おうとしたが、彼女が診察室を出た時には既に彼らが産科受付に着いていた。 優
last updateLast Updated : 2026-02-22
Read more
PREV
123456
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status