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All Chapters of 浮気夫は復讐する: Chapter 21 - Chapter 30

59 Chapters

22話 気まずい空気

「驚いたよ、一応受診歴がないか調べてみたけど、優希ちゃん妊娠してるんだね。」 「ええ、まだ心拍は確認できていないけど、双子だって言われたわ。」 「大きな怪我じゃなくて本当に良かったね。」 真剣な顔で言われ、優希も心からそう思った。 将生は椅子に座るとカルテを念入りに読み始める。 真剣な表情でカルテを読んでいる将生が高校の時の姿と重なり、優希は不思議な感覚を覚えた。 高校に入学したばかりの頃、中庭のベンチで本を読んでいた将生に優希は目を奪われた。 まっすぐ通った鼻筋に眼鏡をかけ、その間から見える伏せた目元には長いまつ毛が影を落としていた。時折風に遊ぶ髪を鬱陶しそうに払い除ける指は白くて長く、全体的に体の線が細く儚い印象だった。そこだけ別世界のように見え、目が離せなかったのを覚えている。 カルテを見終わると、消毒液とガーゼを持ち、椅子ごと優希の方に近づいた。 少し染みるよという言葉と同時に、額に鋭い痛みを感じ、体を強ばらせる。しかしその手つきは彼の性格のように優しかった。 「今日は患部を濡らさないように気をつけて。 2週間くらいしたら傷も目立たなくなると思うよ。もし傷跡が気になるようなら、腕のいい皮膚科の先生を紹介するね。」 ガーゼを貼り終え、カルテに何かを書き込むと優希を見て柔らかく笑った。 将生の声や雰囲気で、患者を安心させられる良い医者だと思った。
last updateLast Updated : 2026-02-06
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23話 乱れた部屋

"ゆうちゃん、大丈夫?" 優希はそのメッセージを見て、そういえば本邸で暁春からのメッセージを見た後に返信をしていないことに気づいた。 普段、暁春からのメッセージは確認したらすぐに返信していたが、今日は画像の件と事故の件が続いて、返信するのを忘れていたのだ。 "返事遅くなってごめんね。お昼はおばあさん達とご飯を食べていたの。" そう送った後、有美の件を聞こうか数分迷ったが、打ち込んでいた文章を全て消した。 気にしないと決めたじゃない…。今が何も無ければいいの。 そう自分に言い聞かせている時、手は胸を掻きむしっていることに優希は気づかなかった。 "帰りに追突事故にあってしまって、今日だけ入院することになったの。誰かに着替えを持ってきて貰えないかしら?眼鏡も壊れたからそれも欲しいわ。" そう送った数秒後、着信音がなった。 静かな病室に響いた音に優希は驚くも、暁春からの電話だと知りすぐにボタンを押す。 「怪我は?!」 耳に携帯をあてる間もなく響いた声に、優希は携帯を持った手を限界まで伸ばした。 普段の優希向けの丁寧な口調とは違い、彼の素が出たような口調に、優希は少し嬉しく思った。それだけ心配してくれてると思ったのだ。暁春は優希が鬱鬱としていた原因そのものだったが、そう思っただけで心が軽くなった気がした。 「大丈夫よ、おでこをハンドルにぶつけて少し血が出ただけ。私も、余所見していて信号が青になった事に気づかなかったから過失はあるわ。」 その後の相手の男から乱暴を受けた事は言わなかった。相手はもう警察署へ連れていかれているのだから、必要がないと思ったのだ。 「すぐに行きます、安静にしていてくださいね!」 幾分落ち着きを取り戻したのか、いつもの丁寧な話し方に少し残念に思うも、暁春が来てくれることに優希の頬が緩む。
last updateLast Updated : 2026-02-07
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24話 ゆうちゃん

女は裸のままベッドから降りて暁春の広い背中に近づいた。 自分がつけた背中の爪痕に優しくキスをすると、甘えるように抱きつく。 「もう行くの?」 「ああ」 暁春の返答は素っ気ないものだったが、その声に冷たさはない。それでもどこか急いでいるような様子に女は面白くなく感じて口を尖らす。 「驚いたよ、携帯みていきなり電話掛けるんだもん。」 「優希が事故にあった。」 そう言って抱きついた腕を優しく外され、女の顔が不機嫌になる。その顔をみた暁春は少し笑い、尖った唇に軽くキスをした。 「ゆうちゃん、休んでて。」 暁春の優しい顔は、優希に向けるものより甘くなかったが、彼の素に近いものに感じる。 服を整え髪を撫でつけると、傍らの裸の女とは対象的な禁欲的な雰囲気を纏い出す。この乱れた部屋を作り出した人物とは思えないほどだ。 最後に携帯を持ち、暁春は大股で部屋を出ていった。 足早に去っていく暁春を見送り、女は再びベッドへダイブした。 この休憩室には暁春の許可なく入ることはできないため、誰かが入ってくる心配がないことを知っている彼女はゆっくりと携帯を眺める。どこかのお人好しが、長期休暇を暁春にお願いしてくれたから時間は沢山あるのだ。 「事故で死んでくれたら良かったのに…。」 携帯を眺めながら残念そうに呟いた。 そうすれば彼女が井竜若奥様になれるのだから。 「おねえさんどっか行ってくれないかな~?」 そう言う有美の顔は無邪気なものだった。
last updateLast Updated : 2026-02-08
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25話 夫と元カレ

驚いた2人が顔を向けると、そこには少し顔色を悪くした暁春が立っていた。手にはフルーツの入った籠と優希のスーツケースが握られている。 「暁春、来てくれたのね。」 暁春の姿を見ると優希は嬉しそうに目を細めた。 「旦那さん?」 「あ…。」 将生の問いかけに、隠れ婚であることを思い出した優希は、どう答えるべきか分からなかった。 「そうだ。」 暁春の静かな肯定の声が聞こえると、優希は驚くと共に胸が熱くなるのを感じた。結婚の事実を、暁春の口から外部へ認められたのが初めてだったからだ。 「俺の妻と親しいようだが、そちらは?」 暁春は険しい表情で優希の横に立ち将生を見る。その目の冷たさに将生の背中に悪寒が走ったが、表情は崩れなかった。 「私の友達よ、外国にいた時の。事故の時に助けてくれたの。今は入院手続きの説明をしに来てくれたのよ。」 慌てて優希が暁春のスーツの袖を引っ張りながら言った。元カレと伝えなかったのは、不要な心配をかけたくなかったからだった。 将生も急いで同意する。妊娠の事はまだ伝えないよう言われていたから優希に合わせた。 「………礼を言う。」 暁春は将生の方に顔を向けているため、優希からその表情は見えないが、温度を感じさせない声色と鋭い空気が、彼が友好的な感情をもっていないことを教えていた。 「そういえば、暁春の署名が欲しいの。」 将生に申し訳なく思い、優希は暁春の気を逸らそうともう一度スーツを引っ張る。 暁春は険しい顔のまま無言で指定された箇所にペンを
last updateLast Updated : 2026-02-09
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26話 優希と将生の過去

入院同意書は先ほど優希の病室で受け取ったもので、支払い保証人の欄に「井竜 暁春」という名前が、綺麗な字で書かれている。 そしてもう1枚。 掻爬手術同意書にも、同じく綺麗な字で同じ名前が書かれていた。 胎児の父親という欄に。 将生は暁春から入院同意書を受け取った時、どこかで見た名前だと思った。すぐに運営のトップだと思い出したが、それだけではない気がして、診察室へ戻る道中ずっと考えていた。 そして診察室に戻ってきた時に思い出した。 先月自分が担当した手術同意書に書いてあった名前だと。 急いでカルテを探し確認してみると、保管されていたのは掻爬手術同意書で、優希の夫と同じ筆跡の同じ名前が記されていた。 その手術を担当したのも将生だったため、手術を受けた患者のことも覚えていた。初めてその患者を見た時、どこかで見たことがあるという印象を持ったが、記憶の中にその患者の名前はなかったので他人の空似だと気にしなかった。まさか似ているのが過去に付き合っていた女性だったとは。 先ほど暁春から妙に敵対的な空気を感じていたが、それは嫉妬ではなく自分の不倫をばらされる可能性を危惧してなのか。 いや、あの男はそんなことを気にするようには見えないな……。 暁春のような支配階級の中でもトップに君臨する人間は他人の評価を気にしない。もしあの場で自分が思い出し、それを指摘したとしても、彼は鼻で笑って「それがどうした」と言うだろう。 将生はそう考えると大きく息を吐く。 先月手術をした患者が優希の夫の愛人だと知り、どうするべきか迷ったのだ。 相手は自分の職場の運営トップだ。それどころか国内最大財閥の社長でもある。下手に関われば仕事を失うだけでなく、せっかく戻ってきたこの国にも居られないかもしれない。 将生は柔和な容貌のお陰で、穏やかで優しい親切な人という印象を持たれやすかった。確かに困っている人は放っておけない気質は持っているが、自分の人生を賭けて
last updateLast Updated : 2026-02-11
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27話 優希と将生の過去

4年経つ頃には優希の不安定さも薄れ、自然に甘えてくれるようになっていた。 自分から抱きつきキスを強請ったり、たまに可愛らしいわがままを言うこともあった。 将生は優希の良い変化に、いつか全ての事情を話してくれるのを期待していたが、ある時を境にまた不安定になることが増えていった。 4年目の冬の日、将生は優希に呼び出された。 待ち合わせ場所にはすでに優希が待っており、毛糸の帽子とマフラーに埋もれた顔は青ざめていた。 「どうしたの?」 まるで出会った頃のような優希に戸惑いながらも、不安にさせないよう優しく声をかける。 「……別れたいの…。」 将生は優希の震える声を聞きながら、あぁ、やっぱりと思った。 「…僕の両親からなにか言われた?」 膝をつき、優希の手を握る。 「僕を頼ればいいよ。苦しいから助けてって言えば良いんだよ。」 前の晩、将生の両親が優希と別れるよう電話をしてきた。数年前に起こった井竜財閥の若奥様の事故に、彼女が関わっているからだと。 将生の両親は医者で、慈善事業に力を入れていた美緒とそれなりに関わりがあった。そのため、当時国外にまで流れてきた美緒の事故のニュースに心を痛めていた。 その加害者の1人が優希だと、どこからか情報を入手したようだった。 井竜財閥は医療業界とも繋がりが深く、彼らの若奥様を傷つけた人間を家に迎え入れたと広まれば、仕事に影響が出るのではないかという心配もしていた。 将生は両親の断定的な物言いに反論したかったが、言葉に詰まってしまった。 「彼女が関わっていないと証明できたら認めて欲しい。
last updateLast Updated : 2026-02-11
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28話 人間味がある

規則では、患者の如何なる情報も第三者に漏らすことは禁じられている。 将生もそれは理解しているが、幸せでいて欲しいと願っていた女性が不幸になる未来しか見えないことに落ち着かない。 優希が妊娠を伝えないよう言っていたのは、サプライズが理由じゃないのかもしれない。 将生はそう思い、背もたれに頭を預ける。 面識のない患者だったら彼も見なかったことにできたが優希はそうではない。学生当時、彼女には言わなかったが、いつか落ち着いたら結婚のことを話そうと思っていた。結局自分たちには縁がなかったとはいえ、放っておくことは出来なかった。 数回深呼吸をすると気持ちも若干落ち着いた。 落ち着いた頭に思い出すのは病室で見た優希の目。 10数年ぶりに見た優希の瞳は変わらず魅力的だと思った。元々綺麗な形は薄いながらも化粧で強調され、白と黒がはっきりした目は光が反射して輝いているようだった。眼鏡越しじゃないその瞳は、彼を高校3年生のあの中庭に引き戻しそうになった。 そこまで考えて、将生は頭を強く振る。 「……………他人の妻だぞ…。」 肺の中の空気を全部吐き出すような大きなため息を吐いたあと、両手で顔を覆う。 考えはあちこちに跳ね回っているが、とりあえずもう少し暁春の様子を見てからどう行動するか決めようと思った。 「佐久間先生、予約の患者さんが来ました。」 看護師の声にすぐさま頭を切り替え、入ってきた妊婦に向き合う。 優希の予想通り、将生は柔和な雰囲気と親身な診察で患者から絶大な人気を得ており、予約は常に埋まっている。 その後は忙しくて閉館時間まで優希のことを考えることはなかった。 一方そのころの優希は、特別病棟の大きな窓から外を見ていた。 荷物を届けたらすぐに帰ると思っていた暁春が、今晩は彼女の病室に止まると言い出した。嬉しかったが、個室とはいえ一般
last updateLast Updated : 2026-02-12
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29話 末路

一般病棟の病室とは違い、キングサイズのベッドはスプリングが効いて寝心地が良く、シャワールームには浴槽も付いていた。付き添いの人用に病室の中にもう一部屋あり、そちらもトイレ、バスが完備されている。 優希は、病室ではなくまるでホテルのスイートルームのようだと思った。 大人しくベッドに入ると、暁春が切ったりんごを乗せたお皿を手にして来た。 優希は、口元に差し出されたりんごを素直に齧った。水分を十分に含み、甘さと酸味のバランスが良いとても美味しいりんごだった。 お皿ごと暁春から受け取り、次々とりんごを口に運ぶ。 「竹田の事をかっこいいと思いましたか?」 それまで無言だった暁春の声に、優希はリンゴを食べていた手を止める。 「悟さんは近くでゆっくりと見たことがなかったから、好奇心で観察しただけよ。男性として魅力を感じた訳じゃないわ。」 暁春が不安に思っていると感じ、安心させようと彼の頬に右手を添え、微笑みながら言う。 まっすぐ優希を見ていた暁春は、その手を掴み、さらに自身の頬に押し当てた。 「誰に男の魅力を感じるんですか?」 一瞬目を伏せ再度優希を見た時、その目は面白がるように細められ、優希が不安がっていると思ったものはひとつもなかった。 揶揄われたと感じた優希は、顔を赤くして睨みつける。 「言ってくださっ」 楽しそうに口角が上がった口を黙らせたく、フォークに刺さった食べかけのりんごを押し込む。 「………知ってるでしょ…」 真っ赤な顔と、絞り出すような小さな声に満足したのか、りんごを飲み込むとその小さな口にキスをした。 突然のキスに驚いた優希も、口の中に新しいりんごの風味を感じると、目を閉じて受け入れた。 もちろんキス以上のことはせず、啄むようなキスはしばらく続いた。 彼
last updateLast Updated : 2026-02-13
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30話 かぶれた?

『速報です。』 『本日午後5時半頃、3台の車による玉突き事故が発生しました。大型トラックが、赤信号で停車していたタクシーに追突し、さらに前の大型トラックへも衝突したものです。』 『トラックの運転手は軽傷、タクシーの運転手の安否は不明です。』 優希がベッドで寛いでいると、つけていたテレビからニュースが流れた。何気なく目を向けると、規制線が張られた事故現場が映っており、救急隊や警察関係者が出入りしている様子が見えた。 真っ先に目に入るのは2台の大型トラックだが、よく見るとその間に1台の車が挟まれていた。潰された空き缶のような状態に、安否は想像がつくようである。 「酷い事故ね…」 「そうですね。」 昼間の事故で、もし運が悪ければ自分の車がこのタクシーのようになっていたかもしれないと思うと優希は眉を顰め、運転手の無事を願った。 対して暁春は興味が無いのか、書類から目を離さず気のない返事をした。 ニュースの話題が変わると、優希は週末の本邸での食事会のことを思い出した。 「おばあさんが、今週の土曜日に本邸で皆と一緒に夜ご飯を食べましょうと言ってたの。夜6時なんだけど大丈夫?」 「大丈夫です。ただ、片付けないと言えない仕事があるので会社から真っ直ぐ行きます。申し訳ないですが、ゆうちゃんは先に行っててください。」 暁春は今度はきちんと書類から目を離して言った。 少し考えた後書類を置き、ベッドに腰掛ける。 「運転手を雇うので、今度出かける時は運転をお願いしてください。」 「事故を知って俺がどれだけ心配したか…。」 心配そうに優希の頬を撫でた。 「ごめんね、次からはそうするわ。」 暁春は優希の言葉に満足そうに頷いた後、浴槽の準備をすると言って浴室へ入っていった。 しばら
last updateLast Updated : 2026-02-14
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