Todos os capítulos de 初恋と付き合ったら、車椅子の元夫が立ち上がった: Capítulo 191 - Capítulo 200

212 Capítulos

第191話

当時、凪が湊との婚約を解消したのは、湊が足に障がいを持っていることを嫌ったからだ。もし湊がそれを隠していただけだと知れば、凪は今以上に怒り狂うだろう。凪は鼻で笑いを浮かべた。「愛って?もうすぐ30にもなる大人が、何を一番に置いているか分かっているの?」「凪、君と違って、誰だって打算だけで生きているわけじゃない。まあいい。余計なやつの話はやめろ。今は俺だけを見ていてくれ」誠は凪を抱き上げると、ソファへと向かい、彼女を力任せに押し倒した。「今はその気分じゃないわ」凪は誠の口づけを避けて身を起こした。誠はつまらなさそうに吐き捨てた。「湊と綾さんは夫婦だ。君こそ、入り込む余地なんてない外野だろ?」「もし綾さえいなければ、湊の隣にいるのは私だったのよ」「君が湊を捨てて婚約解消したんだろうが。戻ってこないからって綾さんを逆恨みするなんて、筋違いもいいところだ!」誠と綾の間にしこりはない。綾が湊に嫁ぐ前まで、誠は彼女を可愛い妹として好ましく思っていた。和子に疎まれていた頃、感受性豊かな綾は、よくさりげない気遣いでその孤独を癒やしてくれていたのだ。凪はクッションを誠に投げつけ、怒鳴った。「私が婚約解消したのは、湊の瞳の中に綾しかいなかったからよ!」当時、凪は血気盛んでプライドが高く、誠も盾になってくれると高を括っていた。湊の障がいを理由に、親を言い包めて強引に婚約を破棄させたのだ。湊がすがりついてくれば、戻ってあげようと思っていた。しかし、湊はあっさりと破棄を受け入れ、その年のうちに綾と入籍してしまった。綾、あの女がなぜ?凪は誠が不機嫌だと悟り、抱き着きながら声のトーンを落とした。「足が悪かったからって何の問題があるの?いずれにせよ、財産が全部なくなるわけじゃないでしょ?体の欲求も、あなたが満足させてくれるじゃない?」誠は目を細め、凪の髪を指先でいじりながら言った。「君は、一体いつまで俺と湊の間で二股をかけるつもりだ?」凪は上目遣いに誠を見て、その首に手を回し、唇に軽くキスを落とした。「海斗ももう小学生になるし、あの子にとって相応しい父親を選ぶつもりよ。実の息子と関わりたいなら、早く離婚してよ」誠は答えず、聞き返した。「湊への未練を捨てられるのか?」「誠、私は何が大切かくらい
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第192話

「湊、どうしてもまとまったお金が必要なの。貸してくれないかしら?」湊は綾の引越しの手配で頭がいっぱいだったが、迷うことなく快諾した。「分かった。すぐ口座に振り込むよ」「ありがとう」凪は柔らかい声で答えたが、表情は暗かった。綾が持つ31%の株式に比べれば、今更自分が求めている金など、大海の一滴に過ぎない。それに、誠の財産は間違いなく海斗のものになるだろうが、湊のものがどうなるかは不透明だ。凪はリビングに戻り、誠に向けて微笑んだ。「海斗のお迎えの時間だわ。そろそろ戻らなくちゃ」加奈子からの電話に水を差され、凪の高ぶっていた感情もすっかり冷めていた。誠は玄関まで追いかけてきて、しゃがみこんで凪の靴を揃えてくれた。「向こうに何かあったのか?」「ううん、特になんでもないわ。顔を見せにきなさいって言われただけ」実家から無心されるという現状は、凪の自尊心をひどく傷つけていた。二宮家の令嬢と自称しているにも関わらず、守られるどころか、親の財布の面倒まで見なければならないのだから。誠に対してだけは、惨めな自分をさらけ出したくなかった。夏が近づき、日がずいぶんと長くなってきた。普段は剛が送り迎えを担当しているが、凪は自分で車を運転して幼稚園へと向かった。先ほどの電話の件もあり、一度二宮家に帰って事情を確かめることに決めたのだ。幼稚園の前に車を停めて30分ほど待つと、迎えの時間になり、保護者たちが次々と園の中へ入っていった。凪も車を降りて、海斗を探しに行こうとした。ドアの前で、海斗のクラスの先生が対応してくれるまで、少しの間待機する。凪はサングラスをかけ、他の保護者たちと一緒に待っていた。すると向こうの方から見覚えのある姿が現れ、一人の男の子を抱き上げたのが見えた。「お母さん?」凪はサングラスをずらし、目を見開いた。自分は一人っ子だし、息子も海斗だけのはずなのに、どうして母が園児を迎えに来ているの?その子への慣れた手つきを見る限り、以前から一緒にいたことは明白だ。凪は咄嗟に加奈子の番号を呼び出す。しばらくしてようやくつながった。「お母さん、今どこ?」「家にいるわよ。どうしたの?」加奈子の返答はごく自然だったが、電話越しに子供の声が聞こえていたことを凪は聞き逃さなかっ
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第193話

まるで家主じゃなくて、客扱いね。「お母さんはどこ?」「奥様は、凪様が来られるとは存じ上げませんでしたので、ちょうど山本さんが知らせに行こうとしていたところでして……」凪は歩みを止め、その使用人を横目で見た。「来られるって?私はこの家の人間なんだけど。どうして客みたいに扱われなきゃいけないの?」冷たい口調に、使用人は顔を青ざめて謝り始めた。「申し訳ございません。言葉を間違えました」「ここは私の家よ。自分の家に帰るのに、いちいち誰の許可もいらないわ」凪は海斗の手を引き、そのままリビングへ向かった。玄関に入った時、ちょうど加奈子が階段を下りてきたところだった。「凪、この子が海斗くんね?」加奈子は笑顔で近づくと、海斗を抱き上げて頬にキスをした。「本当に可愛いわね。あの時、婚約破棄さえしていなければ、この子は……」「子供の前でその話はやめて」と凪は遮った。凪は荷物を預け、リビングを見渡した。そこで知らない男の子の写真が目に留まった。凪がそれを手に取ると、加奈子の表情が一瞬こわばった。「凪、海斗くんと手でも洗ってきなさいな。焼きたてのお菓子を出させるから」「この子は誰?」凪は写真立てを掲げ、そこに写る子供の顔を指差した。加奈子自らが学校へ迎えに行かせているその子だ。写真立てがリビングにある以上、ただの子供ではないはずだ。加奈子はひきつった笑みで言い繕った。「あれは山本さんの孫よ。可愛いから写真をもらっただけ」パシッ、と凪は写真を櫃の上に裏返しにした。「山本さんのお孫さんの幼稚園までお母さんが迎えに行くの?それにうちの海斗と同じ幼稚園に通わせてるわけ?」凪の冷ややかな追い詰め方に、リビングが凍りついた。「学費を出しているのはうちだし、山本さんはこの家に30年近く尽くしてきた家族同然の人だから」加奈子が言い終えるか否か、香織が慌てて降りてきた。香織は頭を下げて笑った。「申し訳ありません。気に障ったのでしたら、この子は実家に帰らせますので。凪様がお出かけになって、奥様が寂しがっていらっしゃったから孫を連れてきて気晴らし相手にさせていたんです。もう凪様と海斗様がお戻りなら、この子の付き添いは必要ありませんね」凪は写真立てを元の位置に戻し、ホッと息を漏らした。二宮康弘(にの
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第194話

食事中、凪は部屋を見回したが、例の子供の姿がない。なぜか心がざわついた。「山本さん、お孫さんも一緒に食べさせたらどう?」「あの……」香織は困ったように顔を曇らせた。「凪様、あの子は風邪で熱を出しておりまして。海斗様まにうつしてはいけないと思いまして」「そうよ、大事な海斗くんにうつったら大変だわ」加奈子が香織に同調し、海斗を抱きかかえて直接食事を世話した。その目には深い愛情が溢れている。海斗を慈しむ姿を見て、凪はそれ以上気にせず話題を変えた。「お父さんは今夜は帰って来ないの?」「戻りたいのは山々だけど、会社の仕事が忙しくて。てんてこ舞いよ」加奈子はそう言いつつ、内心では舌打ちした。もともと帰宅途中だった康弘は、凪と海斗が来たと聞くと、わざわざ引き返して会社へ向かったのだ。凪は眉を寄せた。「仕入先ってどこ?一体何があったの?」「千葉家よ。突然、今の買取り価格が安すぎると言い出して、提携を解除すると言ってきたの。長年の付き合いがあるのに……」加奈子はため息をついた。「うちが相場より少し安く買い取っているのは事実だけど、ビジネスは義理を通すものよ。千葉社長も随分冷たいわ」加奈子はそう言うと、食欲が失せたのか香織に海斗を預けた。凪は気にも留めず口にした。「向こうが価格を不満に思っているなら、引き上げればいいだけじゃない?」湊が背後に控えている以上、資金に困ることなどない。「向こうの材料は質がいいけど、今の市場価格に合わせたら原価が高すぎるわ。だったら、もっと安い仕入先を探した方がいいのよ」その言葉が終わるや否や、凪の表情が一変した。彼女は勢いよく箸をテーブルに叩きつけた。「安い、安いって、そればっかり!」凪の声が鋭く響いた。「服もカバンもプチプラ、宝飾品も安物。ビジネスでも安価な提携先ばかり選ぶから、うちの事業はいつまでも成長しないのよ!」やはり戻るべきではなかった。この家は以前と何も変わらず、相変わらず虫唾が走る。堪忍袋の緒が切れた加奈子は冷たく言い放った。「凪、それは言いがかりよ。あなただって私のカードを何枚も使って、贅沢品ばかり買っているでしょ?」凪は鼻で笑った。「私が自分を飾らなきゃ、緊急の資金をどうやって調達するっていうの?カードで使った分なんて、最終的に倍になって返っているでし
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第195話

明里が一口食べ、話を続けようとすると、雅也が話を遮った。「二宮家の商売はあまりにも器が小さく、度胸に欠けています。好景気の時は誤魔化せていたが、今は不景気で、これ以上相手と付き合っても、こちらに利はありません。綾さんは気にする必要はありませんよ」綾は二人が一緒にいるとは思っておらず、微笑んだ。「千葉さん、ありがとうございます。何はともあれ、大助かりですよ」「今回は湊が二宮家を助けてしまったけど、次はどうするつもり?」明里が尋ねた。綾はデスクを指で軽く叩き、口元をゆがめて笑った。「同じ手でやり返してやるわ」二宮家を調査して初めて分かったことだが、凪は一人っ子ではなかった。凪が留学して2年目、母親の加奈子はもう一人息子を出産していた。二宮家は、凪が騒ぎ出すのを恐れてその子を必死に隠していたが、一家の固定資産はすべてその子の名義に移されていた。凪が持っている二宮グループの株は10パーセントにも満たないが、その弟は51パーセントもの株を握っている。凪が自慢していた生い立ちなど、本当にお笑いぐさだった。明里との電話を終えると、綾は湊の番号に電話をかけた。「湊、来週誕生日なの。派手にやりたいわ」湊は本を閉じ、快く応じた。「いいね、準備は任せて」今まで、綾は面倒だと言って、誕生日のお祝いなどは特にしてこなかった。今回自ら大掛かりなパーティを提案したことに、湊は驚きつつも心密かに喜んだ。「ええ、お客さんもたくさん呼んで、盛大にやってね」「いいよ。全部、綾の望み通りにする」湊は、綾と決裂することになるかと思っていたが、思いのほか早く機嫌を直してくれたのだ。やはり綾は以前の綾のままだ。変わっていないんだ。湊は本のページを優しくなでた。凪が家に戻ると、湊が電話をしているのが見えた。その顔には愛おしそうな笑みが浮かんでいる。その笑顔を見て凪は激しい苛立ちを感じた。電話の相手が綾なのは聞かずとも分かった。電話を切ると、凪は尋ねた。「綾からの電話?」「来週が綾の26歳の誕生日だから、パーティーを開くことにした」湊の口元からは笑みが消えず、凪はその態度にひどく腹を立てた。「ずるいじゃない?海斗の誕生日の時はお客さんを招待なんてしなかったくせに。海斗だってあなたの大切な息子よ」湊はすぐに答えず、幸子
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第196話

今日は青菊グループの定例会議の日だ。綾はいつものように早めにそこへ向かったが、ドアを開けて驚いた。健吾がすでに上座に座っていたからだ。彼は下を向いて書類をめくっており、指先が紙面をさらさらと滑っていた。早すぎたせいで、会議室には二人しかいなかった。ドアの開く音を聞いて、健吾がわずかに視線を上げた。「これからのプロジェクト進行は俺が直接監督する。手抜かりのないようにね」綾はスカートを整えて座り、完璧な仕事用の笑顔を作った。「ご安心を。仕事に手を抜いたことなど一度もないから」「6年という歳月を費やして、中野グループの株を31パーセント手に入れたのか。割に合うな」健吾は眉を上げて皮肉げに笑った。深い瞳の中に、綾の少し青ざめた顔がはっきりと映っていた。綾は健吾をじっと見つめた。伏せられたまつ毛が淡い影を落とし、爪先が資料の紙に細かい傷をつけた。事情を知る人から見れば、自分は確かに笑いものだろう。長年連れ添ったパートナーに裏切られ、最後には浮気相手と隠し子が堂々と家に入り込んできたのだから。それに自分と健吾にはいろいろとあった。健吾が冷やかすのも無理はない。健吾は目の前の落ち着き払った綾をじっと見ていた。彼女が何事もないかのように振る舞うほど、彼の眉間のシワは深く刻まれた。会議室に人が集まり始めたため、健吾はそれ以上何も言わなかった。2時間後、会議が終わった。綾はノートを片付け、念花のメンバーと一緒に去ろうとしたが、健吾に引き止められた。「社長室へ来てくれ。プロジェクトの細部を確認する必要がある」健吾が長い足で歩き出すと、綾はその後ろに着いて行った。ハイヒールの綾は、小走りでついていかなければならなかった。健吾の背中は凛々しく、自然と威圧感を放っていた。「健吾、プロジェクトの課題については先ほどの会議ですべて話したはずじゃない?」「一緒にI国へ行くことになる」健吾は座るように合図し、慣れた手つきで水を差し出した。その動作がとても自然で、かつての思い出をなぞるようだった。「いつ?」今回は湊に隠す必要もない。綾は気を取り直し、気分転換に行くのも悪くないと思った。念花の上層部もI国との提携を非常に重要視している。彼女もすべてが滞りなく進むよう確認する必要があった。「連絡を待て
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第197話

安い車だけど、綾にとっては気兼ねなく乗れる車だった。健吾は一瞬黙って、「悪くない。ロールスロイスと比べても大差ないよ」と言った。綾は皮肉っぽく笑った。「そう言ってくれるなんて、この車も光栄ね」オデュッセウスが何気なく持っている首輪一つにさえ、この車の価値なんて及ばないのだから。青木家の屋敷は電線まで黄金だという。健吾のような別世界の人間の感覚とは、話が通じるはずもなかった。会合でよく使われる料亭の個室で颯太が待っていた。その料亭は庭園の中にあり、古風な窓からは広い池が眺められた。庭の池には錦鯉がゆったりと泳ぎ、水面は静かに揺れていた。窓辺には鯉の餌があり、健吾と颯太が話している間、綾はつまんで池に落とした。すると、鯉たちが我先にと餌に群がってきた。小さな鯉が餌を食べ損ねるのを見て、綾はすかさず餌をもう一度投げた。颯太は、綾の穏やかな横顔を眺めながら、「綾さん、何か追加で頼むかい?」と笑った。この店のコース料理は決まっていたが、追加もできた。綾は颯太の方へ顔を寄せて献立を見た。「颯太さんが頼んだのはどのコース?」颯太が指差した。「これだよ」「いいわね。私の好物ばかりよ。健吾の希望も聞いてあげたら?」二人の掛け合いは、いかにも親しげだった。健吾は一口、お茶をすすり、冷たく言った。「私もそれで結構、腹はそこまで空いていません」「ならこれでお願いします」颯太は店員に注文し、そのまま自然な仕草で綾のお茶を継ぎ足した。「ありがとう」健吾はお茶を一気に飲み干すと、湯飲みを颯太の目の前に突き出した。「颯太さんは裕福な出でありながら腰が低いですね。上司自ら、部下のお茶まで継ぐとは」颯太はその皮肉に気づかず、「綾さんは親友ですよ。普通の社員ではありません」と弁解した。綾は健吾が自分を攻撃していることに気づいた。上司を働かせ、自分は餌やりでくつろいでいるという態度を指しているのだ。綾は木碗を置き、急須を手に取って健吾の飲みかけの湯飲みを満たした。「たしかに。お酌なんて、私がやるべきね。さあ、どうぞ」健吾はふっと笑い、長い指で薄青色の茶盞をつまみ上げ、儀礼的に一口飲んだ。ところが、湯飲みを置くや否や、綾は間髪入れずまた満たした。「いくらでもお飲みなさい。満足するまで継いであげ
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第198話

ここはビジネスの場だった。綾は聞こえなかったふりをして、何事もなかったかのように席についた。「もうすぐ料理が運ばれてくるよ」颯太は綾が耳にしたかどうか確信が持てず、少し心配そうに様子を窺った。健吾は無表情で、窓際で鯉に餌をやっていた。颯太は話をそらし、業務提携についての話題を続けた。綾は黙って茶を啜り、自分の仕事に関することだけ短く答えた。食後、綾は体調不良を口実に、颯太の運転する車で健吾を送り帰らせることにした。健吾は綾をじっと見て、何か言いたそうにしていた。綾が俯いてスマホをいじり、相手にしたくないという態度を示したため、健吾は無言で車に乗り込んだ。颯太が綾の車の運転席に座り、「行こう。送り届けるから休むといい」と言った。「平気だから、研究所に戻る」綾はただ、健吾と二人きりになりたくなかっただけだ。颯太は綾が健吾の言葉を聞いていたと察し、フォローした。「青木社長もつい言い過ぎただけ。俺から見れば、そんな悪趣味な人間ではないよ」颯太もまた、あからさまな否定や強がりが、隠しきれない本心を覆い隠していることに気づいていた。自分と健吾は同じなのだと。「健吾が私をどう思っていようと、もうどうでもいいこと」かつての綾は、健吾の評価を気にしすぎていた。自分を少しでも良く見せたいという、わけのわからないプライドがあったからだ。ひどい結婚生活を隠し、必死に余裕のあるふりをしていたのだ。隠していたボロがすべて剥がれ落ち、生活の汚点が白日の下にさらされた今、心は不思議と軽くなっていた。これが自分のありのままの人生だ。それが何だというのだ?和子への恩返しのため、5年以上も湊を支え続けてきた。それは自分で選んだことだ。湊に騙されたことも、裏切られたことも、自分のせいではない。堂々と生きればいい。恥じることは何もない。恥じるべきは湊と凪の方であって、こっちではない。健吾に関しては、確かに自分が彼を傷つけてしまった。だから、健吾が自分に冷たく当たったとしても、甘んじて受け入れる。戻る途中、裕也から電話があり、念花の本社ビルでの会議に招集された。会議の主導者は樹。幹部数名を除き、残りは技術部の精鋭ばかりだった。「念花と青菊で、家庭用アシストロボットを共同開発します。コードネームは『001
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第199話

暗闇を抜けて光が見えてきたかのような予感に、綾はこれからの仕事への期待と希望で胸をいっぱいに膨らませた。打ち合わせを終え、颯太は意気揚々と綾のデスクに書類を持ってきた。「青木社長が4000億も『001』プロジェクトに投資してくれたんだ。資金は潤沢だから、思う存分やりたいことができるぞ!」目を輝かせてやる気満々の颯太を見て、綾は口元を綻ばせた。颯太にとってこれほど魅力的なプロジェクトに携わるのは久々で、研究者の虫がうずいてたまらない様子だ。「まずはメンバーの技術員を選んで。田中さんと理央さんは連れて行くとして、残りは任せるよ」聡と今井理央(いまい りお)とも今年卒業したばかりで、実直に仕事をこなす。研究のアイデアも豊富で、綾にとっても良き同僚だ。研究所に戻ると、綾はすぐにその話を二人に伝えた。聡は飛び上がって喜んだ。「ありがとうございます!インターンが終わったらここを離れるのかと不安でした」理央は、縁の細い眼鏡をかけた、控えめで心優しい女性だ。報告を聞いて嬉しそうな笑顔を浮かべたが、作業の手は止めなかった。颯太もベテランの社員を4人加え、「001」プロジェクトのチームはひとまず整った。念花の人員以外に、青菊からも8人が参加することになった。直接指揮を執るのは健吾だ。颯太がメンバーの名前を名簿に打ち込みながら尋ねる。「綾さん、名前は本名で登録する?それとも『エレナ』にする?」「本名で」と綾は迷わず答えた。これまで「エレナ」を使っていたのは、湊に隠れて仕事をしていたからだ。今なら胸を張って働ける。本名に戻せばいい。それに、「エレナ」という名前は健吾につけてもらったものだから、もう使いたくなかった。颯太がメンバーリストを送ると、すぐに健吾から返信があった。【俺は今でも『エレナ』って呼びたいけどな】綾は返信欄に入力した。【どうでもいいでしょ】結局、そのメッセージは送れなかった。健吾は今回のプロジェクトの大スポンサーだ。機嫌を損ねていいことはない。文面を消して、打ち直した。【自分としては、親がくれた名前の方が好きだから】母と父が一緒に考えて名付けてくれた。綾――美しく調和のとれた人に育つように。両親が込めた、ささやかな願いだ。健吾はソファにもたれかけ、画面を凝視していた。その
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第200話

気が付けば誕生日パーティーの日になっていた。綾は早起きをして、サロンでメイクとヘアセットを済ませた。深いグリーンのドレスに宝石のネックレスを合わせた、時代に左右されない王道スタイルだ。髪を高くまとめ上げ、すらりと伸びた白い首筋を出すことで、冷たくも高貴な美しさを演出した。綾がホテルのパーティー会場に着くと、すでに湊の姿があった。「綾、今日は本当に美しいね」湊は入口まで出迎え、綾に腕を差し出した。綾は微笑みながらその腕を取り、湊と共にゲストを迎えた。誰の目から見ても、仲睦まじい夫婦に映るだろう。ゲストたちは二人を心から、あるいは社交辞令として称賛した。「中野社長、奥様、本当にお似合いで素敵なご夫婦ですね」「奥様、女優さんより綺麗ですね。中野社長も鼻が高いでしょう」「中野社長は紳士的で、奥様は絶世の美女で、理想の夫婦ですよ」「……」湊はその言葉をまんざらでもない様子で受け入れ、今は心の底からの笑みを浮かべていた。しかし、湊の腕を組む綾の心には、愛情の欠片はなく、頭の中では別の人間や別の物事のことでいっぱいだった。明里と雅也が最初に到着し、続いて颯太がやってきた。それから少しして、健吾が現れた。健吾はプレゼントを綾に渡し、「心ばかりの品で、受け取ってくれると嬉しい」と伝えた。「はい」綾は両手でそれを受け取ると、幸子に預けた。凪と海斗が現れた瞬間、湊の笑みは強張り、冷たい目つきになった。「どうして海斗を連れてきたんだ?」凪は湊の変化を察すると、心に湧き上がる感情を抑え込み、作り笑いを浮かべた。「海斗がバースデーケーキを食べたいってうるさいのよ。いけないかしら?」湊はしゃがみ込み、海斗の顔を軽く撫でた。「海斗、今日は帰ろう。明日、ケーキをたくさん買ってやるから」海斗は凪との約束を思い出し、首を横に振った。「いやだ!ここのバースデーケーキを食べるんだ!」綾は小さく囁いた。「湊、皆が見ているわ。海斗くんを泣かせたら騒ぎになるし、入れてあげよう」湊の瞳にわずかな苛立ちが宿った。「入れ。海斗をちゃんと見ていろよ、ゲストの迷惑にならないようにな」施しを与えるような湊の態度に凪は少し腹が立ったが、計画のために我慢した。凪が中に入った直後、招かれざる二人の客の姿を見て
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