All Chapters of 初恋と付き合ったら、車椅子の元夫が立ち上がった: Chapter 211 - Chapter 212

212 Chapters

第211話

「まだ目が覚めていないの。詳しいことはもう少し様子を見ないとわからない」綾は、薄切りの肉を口いっぱいに頬張った。滑らかで口当たりのいい食感だ。念花の食堂は、どの支店も料理が美味しいと有名で、研究棟の食堂も例外ではなかった。あるトレイが静かにテーブルに置かれ、続いて健吾が綾の隣に腰を下ろした。綾は見て見ぬふりをして、目の前の食事に集中することにした。この前健吾が言った言葉が脳裏をかすめ、彼に笑顔を向けるどころか、会釈をするのさえ苦痛だった。「青木社長、ここの料理はお気に召しませんか?」颯太が沈黙を破った。颯太は、健吾のトレイがステーキ一切れ、半分残ったサラダとパスタだけであることを気にかけたのだ。「料理は最高ですが、少し食欲がなくて」健吾は優雅な手つきで、ステーキを均一な大きさに切り分けていた。周りの若い女性社員たちが、健吾を熱い視線で見つめている。「青木社長は、念花側のチームについては、ご満足いただけましたでしょうか?」颯太はスープを手に取ると、大きく啜り込んだ。颯太は綾と同じく、大口で食事をすることが一番のストレス解消だった。「及第点といったところですね」健吾は口の中のものを飲み込み、淡々と返した。綾は伏し目になり、健吾と知り合ったばかりの頃の光景を思い出した。当時の健吾は、食事中に一切口を聞かず、食事の作法を固く守る男だった。けれど、綾は話しながら食べるのが好きで、そうすることで食欲も増した。だから、健吾と一緒に食事をする時は、反応がなかろうと綾はおしゃべりを絶やさなかった。最初は短い相槌を返すだけだった健吾も、いつしか食事の作法など忘れたように、自ら会話を盛り上げるようになっていた。綾の食欲がない時などは、健吾の方から必死に面白い話を探し出し、一口でも多く食べさせようと努めたものだ。時に健吾は面白いところへ差し掛かると話をやめ、「あと半分食べれば、続きを聞かせてやる」なんて駆け引きをすることさえあった。そんな思い出がいまは濃い霧の向こう側に霞んでいて、途方もなく遠く感じられる。「綾さん、顔色が悪いぞ。昼休みは寮に戻って休んだ方がいい」颯太の温かい声で、綾は意識を現実へと引き戻された。「いえ、大丈夫。休み時間にちょっと病院へ行ってくるので」そう告げると、綾は急
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第212話

綾が研究所に戻ると、健吾に必死で何やら弁解している颯太の姿があった。颯太の表情には、やり場のない苛立ちが滲んでいる。綾は颯太の方へ歩み寄ると、誠心誠意、頭を下げた。「青木社長、申し訳ありません。これは私の不手際であり、念花との提携に不誠実なつもりはありません。今日の損失は、私の給与から差し引いてください」綾は淡々とした面持ちだったが、どことなく疲労の色が見て取れた。このプロジェクトは極めて重要だ。自分のせいで遅延が生じたのは、紛れもなく自分の責任である。謝罪を終えると、綾はすぐさま業務モードに切り替え、理央たちの指導に取り掛かった。健吾は怒りの色を鎮め、遠くから綾の様子をじっと眺めていた。綾は外部の喧騒など全く気に留めていないようで、一点の曇りもなく仕事に没頭している。颯太も手助けに入り、30分後には問題があっという間に片付いた。席に戻った綾は、疲れ切った様子でこめかみを押さえた。意識がぼんやりして、今はただ本能だけで動いているような感覚だ。スマホを手に取ると、達也から返信はまだなかった。手術の状況が気にかかる。その代わり康弘から連絡があり、凪の金では到底足りないから、何とかして工面してくれないかと言ってきた。都合のいいATMだとでも思っているのか?綾はため息をついてスマホをポケットに突っ込み、デスクで仕事をする颯太のもとへ向かった。「颯太さん、少しお願いがあるの」颯太を信頼している綾は、二宮家が陥っている苦境と、自らが考えている計画をすべて打ち明けた。颯太は一瞬の迷いもなくうなずいた。「いいよ、協力するよ」その時、部屋の隅から投げやりな声が響いた。「その件なら、俺の方が役に立てるぞ」驚いて見ると、いつの間にかデスクのPCの裏側に健吾が座っていた。大型デスクトップのモニターに遮られ、入ってきたときには気づかなかったのだ。ここは颯太の個室で、健吾には別のオフィスがあるはずだった。「盗み聞きなんて、褒められたものじゃないね」「俺は褒められた人間でもないし、堂々とここで仕事をしてただけだ。そちらの話が勝手に耳に入ってきたんだよ」健吾は肩をすくめ、からかうような笑みを浮かべた。綾は唇をかみしめ、トーンを落とした。「手を煩わせるつもりはないの。ただ秘密にしてくれない?」「颯太さんは
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