話は、自然と綾の結婚のことに移っていった。綾は困ったように微笑む。世界中が自分と健吾の離婚を知っているみたいだったからだ。「颯太から聞いたんだけど、お二人は中学時代からの付き合いで、大学生でカップルになって、一度別れたけどまた復縁したんだって?本当に運命だよね。それなのに、なんで急に離婚なんかしたの?」真帆は、淡々と語りかける。探りを入れるわけでもなければ、問い詰めるような圧力もない。友人同士の何気ない会話のような雰囲気だった。彼女は言い終えると、「答えたくなければ、気にしないで」と付け足した。綾は箸を動かし、空になったお茶碗の底をなぞる。少し迷ってから、小さな声で口を開いた。「結婚は、恋愛とは比較にならないほど複雑なんです。離婚したからといって憎み合っているわけではなくて。私たちは、それぞれどうにもできない事情があったので」真帆は納得したように頷く。「エステ家と言えば、I国の有名財閥だけじゃなく、あちらの裏社会にも顔がきく一族よね。綾さんみたいな優秀な科学者が、そんな所に嫁ぐなんて、本当に宝の持ち腐れだったと思うわ」綾はただ笑うだけで、反論はしなかった。自分の選択は、いつも自分の心に従ったものだ。利害を天秤にかけていては、何一つ選べない。食事が終わり、颯太が綾を自宅まで送ることになった。途中で彼は言う。「姉が変なこと言っただろ、気にするなよ。彼女はお節介だから、俺の他の二人の姉たちもいつも逃げ回ってるんだ」「いいえ、そんな。真帆さんは私に身内のように接してくれたんだと思うわ」綾は愛想よくそう返した。本当は、初対面の人間に離婚の理由を聞くのは少し礼儀に欠ける気がしたけれど。今回和やかに会話できたものの、綾はどうしても自分が真帆に気に入られた美術品のように思えてならなかった。颯太は車を回し、研究棟の社員寮へ向かった。寮に着くと、真帆の車が先に停まっていることに気づく。颯太は降りて車を叩いた。「姉さん、何でここにいるの?」真帆は窓を降ろし、乗るように手招きする。颯太が座ったのを確認すると、本題を切り出した。「颯太、私、綾さんのことが気に入ったの。杉本家の家族になってくれたら最高なのに」颯太は笑って答えた。「そんなに気に入ったなら、いっそ杉本家の養子にでもなってもらう?」真帆は横を向い
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