研究室を後にした。ペット病院の前を通ると、まだ明かりがついていて、犬や猫の鳴き声が聞こえてきた。綾は警備員に軽く挨拶をしてから自分の車のそばまで歩き、そこで一度大きく背伸びをしてから空を見上げた。夜空にはポツンと月が浮かんでいる。ぼんやりとしているけれど、どこか澄み切った光だった。「綾さん」不意に声をかけられて振り返ると、街灯の下にグレーのパーカーを着た青斗が立っていた。「青斗くん?どうしてこんな所にいるんですか?」綾は少しだけ眉をひそめた。前回食事をしてから、特に会う約束もしていなかったからだ。時折青斗からメッセージが来るけれど、時間が空いた時に気が向いたら返事をする程度だった。それ以外の付き合いは一切ない。綾はもう純粋な少女じゃない。青斗が頻繁に送ってくる連絡や、さりげない誘いの意味に気づかないはずがない。だからこそ距離を置いて、若者が変な夢を見ないようにしてきたのだ。青斗はポケットに手を突っ込んだまま近づいてきた。「綾さん、この後一緒に夜食を食べに行きたいんですが、お時間ありますか?」綾は丁重に断った。「ごめんなさい。一日仕事して疲れているし、今日は早く帰って休みたいんです」「なら、いつなら空いてますか?」と青斗は引き下がらない。「仕事が忙しくて、しばらくは無理でしょうね。それじゃ、また」そう言って、綾はすぐに車に乗り込んだ。シートベルトを締めようとすると、車の窓を軽く叩かれた。窓を半分だけ開けて、綾は困った顔で青斗を見る。「綾さん、学校まで乗せて行ってくれませんか?」綾は少し考えてから、財布から現金を数枚抜き取って差し出した。「ごめんなさい、方向が違うので、これ使ってタクシーで帰ってください」青斗の顔が瞬時に険しくなった。彼は受け取ろうともせず、その瞳に一瞬だけ寂しさが宿った。「そうですか。ごめんなさい、邪魔でしたよね」綾は何も答えず、精一杯の笑みを浮かべて窓を閉め、その場を離れた。ルームミラー越しに、あのグレーの背中が小さくなっていく。綾は静かに溜息をついた。今の子はなんて厚かましいんだろう。自分の好き嫌いだけで、年上の、しかも離婚歴のある子持ちの女を追いかけるなんて。わざわざ自分に執着しなくても、他にいい相手はたくさんいるでしょうに。学内には同年代の女
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