綾は健吾の胸に顔をうずめ、ほのかに漂う清潔な香りが鼻をくすぐり、張り詰めていた心が、嘘のように落ち着いていく。「もう大丈夫だ。綾」健吾自身は、まだ現実味がなかった。彼は綾を抱きしめる手に、力任せに力を込めた。恐怖はいまだに体にまとわりつき、骨まで凍るような冷たさを感じた。もしあと2分遅かったら。3分というタイムリミットに間に合わなければ、一生綾を失っていたかもしれない。そう思うと、全身の血が凍りつくような恐怖に襲われた。「マルス、このまま病院へ直行する」健吾は声を振り絞り、もう一言付け加えた。「中野に、綾と瑞希は無事だと伝えろ。それと、一旦帰宅するようにともな」湊の身を案じているわけではない。ただ、あの虚弱な男が焦って倒れでもすれば、結局綾が心配するだけだ。綾はもう十分苦しんだ。これ以上、余計な心配事はさせられない。健吾はミネラルウォーターを開け、綾の唇に添えた。「水を飲んで落ち着け」綾はボトルを両手でしっかりと握り、半分近く飲み干した。冷えた水が喉を通り抜ける。強張っていた体が、少しずつ緩んでいくのを感じた。「健吾、本当にありがとう」伝えたいことはたくさんあった。自分と瑞希を助けてくれてありがとう。こんなに早く来てくれてありがとう……でも、言葉は喉の奥で詰まり、たった一言「ありがとう」とだけ口から漏れた。健吾は黙って手を伸ばすと、綾の乱れた髪を整えた。冷や汗で額に張り付いた髪を、指先で優しくかき上げる。綾がふと見上げると、健吾の青い瞳はどこまでも澄み切っていた。ようやく頭が回り、綾は尋ねた。「どうして瑞希がどこにいるのか分かったの?あと、時限爆弾のことも」「母さんが調べ上げてくれた」綾の指先がピクリと動いた。かすかな不安が胸をかすめる。カタリナは慈善で動く人ではない。彼女が手出しするからには、必ず見返りがあるはずだ。それが健吾を傷つけるものだったらどうしようと、綾は身をすくめた。「見返りは?何を求められたの」「何も求められていない。彼女は瑞希が俺の子供で、しかも健康で賢く育っていることを知っている。だから、エステ家の血筋を守るための協力だ」健吾は一呼吸置き、綾を落ち着かせるように言った。「案ずるな。エステ家には俺とビアンカしかいない。母さんにとって、血の継承以上に大
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