彼女は湊に向かって言った。「壮真と瑞希が呼んでいるから行くわね。ちゃんと食事は摂るのよ」湊が尋ねた。「子供たちは家にいないのか?」綾は隠すことなく答えた。「青木家よ。健吾のおじいさんの具合があまり良くなくて、ひ孫たちに会いたいというから、山下さんに連れて行ってもらったの」湊は眉をひそめた。「綾……」「健吾と関わるなって、言いたいんでしょ?」綾は先回りするように遮った。「でも、あの子たちの父親だわ。もし、万が一……私に何かあった時、あの子たちを私と同じように心から守ってくれるのは、健吾しかいないのよ」湊の瞳は冷たく沈み、かすれた声が漏れた。「綾、弱気なことを言うな。俺がついているだろう?」綾は弱々しく口角を上げ、立ち上がって湊の毛布をかけ直した。「湊、私は自分のしていることを分かっているわ。だから、あなたは体を大事にして」それだけ言い残すと、振り返ることなく病室を後にした。冷たい照明に照らされた廊下では、暖房が効いていても肌寒さを感じた。綾は足早に歩きながら、胸の内にどす黒い感情を渦巻かせていた。昔は自分一人の力で、子供たちを幸せに包み込めると思っていた。でも、瑞希の拉致事件の時、底なしの恐怖を味わい、自信は脆くも崩れ去った。運というものは、いつ、どこで途切れるか分からない。元々自分の運には自信なんてなかった。もしもの時があっても、子供たちを絶対に守り抜く確かな後ろ盾が必要だった。そして、健吾こそが適任だった。青木家の敷地に入ると、辺りはもうどっぷりと夜に包まれていた。綾が車から降りるとすぐ、煌々と明かりがつく建物から、二つの小さな影が飛び出してきて抱きついてきた。後からついてきた幸子と二人のベビーシッターが微笑む。「二人は、ずっとビアンカ様と遊んでて、全然帰りたがらなくて」綾は屈み込み、子供たちを抱き寄せたまま幸子を見た。「この子たち、私を探してた?」幸子は苦笑する。「遊ぶのに夢中で、ミルクもそっちのけでしたよ。綾様のことなんてすっかり忘れていたんでしょうね」動きを止めた綾は、視線を移し、ドア脇でこちらを見守る背の高い影を捉えた。ドア枠にもたれかかる健吾は、綾の視線に気づくと肩をすくめ、ご機嫌をとるように口元に薄く笑みを浮かべた。「そんなに怒るなよ。食事はしないといけない
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