「ヒナタくん、こっちだよ」 彼は、きょろきょろと辺りを見回していた。 まるで初めて来た場所で迷子になった子どもみたいに、行き先を探している。 案の定、反対方向に歩き出しそうになったので、思わず声をかける。 こちらに気づいたヒナタくんは、少し照れたように笑って小走りで近づいてきた。 (やっぱり方向音痴なんだ……) そんな姿が、どこか可愛く見えてしまう。 今日のカフェは、つい最近ルカさんと行ったあの店にした。 古い木の扉と、落ち着いた照明。 店内に流れるゆったりした音楽と、どこか懐かしいレトロな空気。 男性とカフェに行くことなんて、ほとんどない。 だから、ヒナタくんでも居心地がいい場所って考えたとき、真っ先に思い浮かんだのがあそこだった。 ……ルカさんを思い出して、少しだけ胸が引っかかる。 でも、デートで落ち着いて話せる場所といえば、あのカフェしか思いつかなかった。 店の扉を開けると、コーヒーの香りがふわりと漂ってくる。 木のテーブル、赤茶色の椅子、柔らかなオレンジ色の照明。 そんな空間の中で、ヒナタくんはどこか落ち着かない様子で周囲を見回していた。 「カフェとか……初めてでドキドキする」 ぽつりと、そんな言葉がこぼれる。 (え……?) 思わず心の中で声が出た。 女の子とデートでカフェに来たこと、ないんだ。 初対面のときも、LINEでも、あんなにグイグイ来ていたのに。 てっきり女の子の扱いも慣れていて、自然にエスコートするタイプだと思っていた。 でも実際は、まるで真逆。 席に座っても、どこかそわそわしている。 メニューを手に取っても、ページをめくる手が少しぎこちない。 私はゆっくりアウターを脱いだ。 今日の服は、ヒナタくんが選んでくれたもの。 デコルテが少し開いたトップスに、チェックのミニスカート。 少しだけ勇気のいるコーデだけど、 「似合いそう」と言われた言葉が、ずっと頭に残っていたから。 アウターを椅子にかけた瞬間、彼の視線が一瞬止まった。 「……あ」 小さく声を漏らす。 そしてすぐに俯いて、慌てたようにメニューを開いた。 でも、ページを見るふりをしながら、 ちら、ちら、とこちらを見ているのが分かる。 耳が少し赤い。
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