最初は、本当に夢みたいだった。 深夜まで続くLINEのやりとり。 既読がついただけで胸が跳ね上がり、そんな小さなことで一日が光るほどだった。 「お前のこと、本気で好きになりそう」 それが営業トークだと頭ではわかっていた。 けれど、その言葉の温度は確かに私の肌を温め、理性の隙間からじわじわと入り込んできた。 誰かを一目で心ごと奪われる感覚を持ったのは、生まれて初めてだった。 だから、彼の言葉が偽りだとわかっていても、私は信じる“ふり”をした。だって、騙されても一緒にいたかったから。 目の前に差し出された幻想を受け取るほうが、冷めた現実を抱えるより、まだ救われると思った。 馬鹿だと笑われてもいい。 私は、狂うほどあなたを愛している。 *** 薄暗い店のソファ席。柔らかな照明は輪郭をぼやかし、誰の顔も少しだけ美しく見せる。 香水とタバコの匂いが混ざり合い、空気は静かに湿っていた。 グラスの中で氷がひとつ、チリ、と音を立てる。その小さな音にすら、胸の鼓動はひとつ跳ねた。 みおんはスマホを弄りながら、何気ないふうに言った。 「ねえねえ、今週ほんとに厳しくてさ。助けてくれない?」 その瞬間、あざとく演出された無垢の表情が顔をのぞかせる。 大きなくりくりの瞳、ふっくら光る涙袋、すっと通った鼻筋に白い肌――私の好みにぴたりと重なる顔が、上目遣いでこちらを見つめていた。 私は知っている。こういう「助けて」には、いつも金額が伴うことを。 反射的に出た声は震えていた。 「え……シャンパン?」 「うん。」 みおんの返事は簡潔で、どこか無邪気だった。 膝にそっと手を置き、上目遣いで寄せる仕草。 世界が一瞬だけ、光を増したように感じられる。 私の内側には、ふたつの自分がいた。 ――生活を切り詰めて、やっとここに来た自分。 ――彼の隣にいられるなら、何でも差し出したい自分。 「……ごめん、今日ちょっと厳しくて」 言葉と同時に視線を逸らす。 胸の中では、錐が回るように痛んだ。 財布の紐を締め、冷蔵庫の残り物を数えた夜を思い出す。 ここで頑張ったところで、明日の食事がどうにかなるわけではない。 それでも、彼の笑顔のために、私はいつも自分を削っていた。 みおんは顔をゆっくりとこちらに向け、柔らかく声をかける。 「俺には紗月ちゃん
Terakhir Diperbarui : 2026-01-12 Baca selengkapnya