Semua Bab 私を散々泣かせたクズ男たちが、今さら本気で愛してくる: Bab 1 - Bab 10

19 Bab

【第一章】地雷系ホスト・みおん 1

最初は、本当に夢みたいだった。 深夜まで続くLINEのやりとり。 既読がついただけで胸が跳ね上がり、そんな小さなことで一日が光るほどだった。 「お前のこと、本気で好きになりそう」 それが営業トークだと頭ではわかっていた。 けれど、その言葉の温度は確かに私の肌を温め、理性の隙間からじわじわと入り込んできた。 誰かを一目で心ごと奪われる感覚を持ったのは、生まれて初めてだった。 だから、彼の言葉が偽りだとわかっていても、私は信じる“ふり”をした。だって、騙されても一緒にいたかったから。 目の前に差し出された幻想を受け取るほうが、冷めた現実を抱えるより、まだ救われると思った。 馬鹿だと笑われてもいい。 私は、狂うほどあなたを愛している。 *** 薄暗い店のソファ席。柔らかな照明は輪郭をぼやかし、誰の顔も少しだけ美しく見せる。 香水とタバコの匂いが混ざり合い、空気は静かに湿っていた。 グラスの中で氷がひとつ、チリ、と音を立てる。その小さな音にすら、胸の鼓動はひとつ跳ねた。 みおんはスマホを弄りながら、何気ないふうに言った。 「ねえねえ、今週ほんとに厳しくてさ。助けてくれない?」 その瞬間、あざとく演出された無垢の表情が顔をのぞかせる。 大きなくりくりの瞳、ふっくら光る涙袋、すっと通った鼻筋に白い肌――私の好みにぴたりと重なる顔が、上目遣いでこちらを見つめていた。 私は知っている。こういう「助けて」には、いつも金額が伴うことを。 反射的に出た声は震えていた。 「え……シャンパン?」 「うん。」 みおんの返事は簡潔で、どこか無邪気だった。 膝にそっと手を置き、上目遣いで寄せる仕草。 世界が一瞬だけ、光を増したように感じられる。 私の内側には、ふたつの自分がいた。 ――生活を切り詰めて、やっとここに来た自分。 ――彼の隣にいられるなら、何でも差し出したい自分。 「……ごめん、今日ちょっと厳しくて」 言葉と同時に視線を逸らす。 胸の中では、錐が回るように痛んだ。 財布の紐を締め、冷蔵庫の残り物を数えた夜を思い出す。 ここで頑張ったところで、明日の食事がどうにかなるわけではない。 それでも、彼の笑顔のために、私はいつも自分を削っていた。 みおんは顔をゆっくりとこちらに向け、柔らかく声をかける。 「俺には紗月ちゃん
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【第一章】地雷系ホスト・みおん 2

暗闇は音を消し、二人だけの小さな世界を残していた。壁に映る影が揺れるたび、胸の奥で小さな鼓動が跳ねる。彼の掌が首筋をゆっくり撫で、温かい息が耳朶をかすめる。そのたびに、体は甘く震えた。「……好きだよ」低く落ちた声は、夜の真ん中でそっと光を放つ。返事をしたいのに、唇は震えて声にならない。胸だけが早鐘のように打ち、体の奥はじわりと熱を帯びていく。彼の指先が背中を辿ると、心の奥の殻が、ひとつひとつ溶けていった。暗がりに浮かぶ彼の横顔は、昼間とはまるで別人だった。乱れた襟元、顎に落ちる影。普段は見せない荒々しさが、その瞳に宿っている。腕に抱かれると、世界がぎゅっと縮まった。嬉しさと切なさが同時に押し寄せ、その狭ささえ愛おしかった。「……ほんとに、かわいいな」囁きは甘い。けれど、どこか遠い。褒め言葉の奥に潜む“支配”の響きを、肌が敏感に感じ取る。彼の手の力が強まると、私は無意識に身を委ねていた。逃げるという考えは、温もりに溶けて消えていく。やがて激しさは静まり、荒い息を整えながら、重なったまま沈黙した。胸が張り裂けそうで、涙がひとすじ頬を伝う。嬉しさと痛みが入り混じったその涙を、彼は曖昧に拭い、そして距離を取った。「おやすみ」それだけの言葉。布団の中で体を丸め直す音。背中越しに広がる寝息。手を伸ばせば、まだ触れられるはずの温もりは、次第に冷えていく。抱かれていた余韻だけが、胸の中でしばらく燃え続けた。暗闇の中で、私は彼の温度を探す。肌はまだ彼の匂いを覚えていて、指先には頼りない震えが残っている。確かに触れ合ったはずなのに――その後に訪れる、あっけない冷たさに、心は切り裂かれるように痛んだ。夜はさらに深くなり、静寂だけが真実を告げる。隣の寝息に合わせて目を閉じても、眠りはなかなか訪れない。胸の中では「好き」が反芻される。同じ言葉が繰り返し鳴るたび、現実が少しずつ体から剥がれていくのを感じていた。
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【第一章】地雷系ホスト・みおん 3

こうなってしまったのは、いつからだったのだろう。 彼と出会う前の私は、ホストクラブとは無縁で、夜遊びも知らず、ただ真面目に生きていたのに。 「ねえ、ホスト行かん?」 そんな唐突な誘いが、久しぶりに連絡をくれた中学時代の友人から届いた。長らく疎遠だった彼女からのメッセージに、最初は戸惑いしかなかった。 ホスト――。 興味がなかったと言えば嘘になる。TikTokで流れてくるホストの動画を、どこか異国の文化でも見るような気持ちで眺めていた。 でも、どこか怖い世界だった。 色恋や金銭、駆け引き、欲望、嫉妬、依存……人の“弱さ”が露呈する場所という印象があったからだ。 そんな場所、一生縁がないと思っていた。いや、むしろ自分とは相容れない世界だとさえ思っていた。 私は真面目で誠実な人が好きだ。チャラチャラしたノリや、言葉巧みに距離を詰めてくるようなタイプは苦手だ。ホストなんて、絶対にハマるわけがないし、楽しいはずがない。 だから最初の返事は、 「え、絶対にいや」 だった。 けれど、彼女から返ってきた一言に、心が揺れた。 「でもさ、人生経験として、一度だけ行ってみない?」 ――人生経験。 その言葉に、どこか惹かれてしまった。 たしかに、一度くらいなら。自分の知らない世界を、少しだけ覗いてみるのも悪くないかもしれない。そう思って、私は「うん」と返信してしまった。 まさかそれが、私の平和な日常を静かに崩し始める一歩になるとは、そのときの私はまだ、知る由もなかった。 *** 午後六時。 いつもより少し濃いめにチークを入れ、普段は選ばない華やかな色のリップを唇にのせた。鏡に映る自分に、どこか落ち着かない視線を向ける。バッグも、持っている中で一番“高そう”なものを選んだ。 ──こんなんで大丈夫かな。 心細さを隠すように深呼吸をひとつして、私は、いつもなら家でゆっくり過ごしている時間に外に出た。 冷たい空気が肌に触れると、急に不安が波のように押し寄せてくる。 私は夜に遊びに出かける習慣がない。在宅での仕事を選んだのも、なるべく人間関係のストレスから距離を置きたかったからだ。 朝は十一時ごろにゆっくり起き、コーヒーを飲みながら仕事を始める。小さな休憩を挟みながら夜七時にはパソコンを閉じ、夕飯を食べて、お風呂に入って眠る。
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【第一章】地雷系ホスト・みおん 4

どうしよう……。 小冊子に並ぶホストたちの写真を一枚ずつ見ていくたびに、気持ちがどんどん沈んでいった。 どれもこれも、髪は明るく、目つきも鋭く、笑顔がどこか作りもののように見える。 みんな派手で、チャラそうで――正直、まったくタイプじゃなかった。 そしてなにより、怖い。 話しかけるどころか、視線を合わせることすら躊躇ってしまいそうだ。 私はこんな人たちと、今から何を話せばいいんだろう。 ページをめくる手が止まり、顔をしかめる。 「……いない」 ぼそりと、小さくつぶやいた。 誰ひとりとして、「話してみたい」と思える人がいなかった。 まるで異世界に紛れ込んでしまったような気分。 今すぐ店を出たくなった、その瞬間だった。 *** 「こんにちは!」 明るく、けれどどこか柔らかさを含んだ声が、真正面から聞こえた。 反射的に顔を上げた私は、思わず目を見張った。 え……なに、この人。 視線の先に立っていたのは、黒髪の男性だった。 周囲の派手な空気とはまるで違う、どこか品のある雰囲気。 顔立ちは可愛らしくて中性的。 それでいて、視線の合わせ方には誠実さが宿っていた。 彼はにこやかに微笑みながら、丁寧におしぼりを差し出してくれた。 その仕草すべてが自然で、優しくて――私は完全に、見入ってしまっていた。 目を逸らせない。 まるで時間が一瞬だけ止まったような感覚だった。 彼がそっと立ち去るまで、私はまばたきさえ忘れていた。 そして我に返った瞬間、ふっと笑みがこぼれた。 頬が自然にゆるみ、恥ずかしくなって思わず口元に手を当てる。 *** そんな私の様子を見て、すかさず隣のゆりちゃんが声を上げた。 「あれあれ〜? さーちゃん、今の人に反応したでしょ〜?」 おもしろがるような口ぶりに、顔が少しだけ熱くなる。 ユウトがさりげなく、補足するように言った。 「あれ、みおんだよん」 *** みおん――。 どこかアイドルのような、甘い名前だった。 改めて小冊子をめくり、彼の名前を探す。 そこには、たしかに“みおん”の文字とともに、彼の写真が載っていた。 黒髪で、柔らかい目元。 この店のテーマは“和”らしく、袴を着た姿で写っている。 写真でさえ、周囲のきらびやかなホストたちとはまったく違う雰囲気を放っていた。 落ち着
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【第一章】地雷系ホスト・みおん 5

「失礼します!」その声が聞こえた瞬間、私は条件反射のように顔を上げていた。「あ……」思わず、口元がほころぶ。みおんくん――。にこっと、愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべながら、彼は自然な所作で私の斜め横に腰を下ろした。座り方まで、なぜだか品がある。無駄がないのに、どこか柔らかい。すぐ隣では、ゆりちゃんがユウトとの話を切り上げ、こっちを見てニヤニヤしている。「さーちゃん! お目当てのみおんくんじゃーん!」わざとらしく声を上げるものだから、私は一気に顔が熱を帯びた。目立ちたくないのに……と思いながらも、彼がそこにいるだけで、頬の温度はどうにもならない。***「さっきおしぼり持ってきたみおんです! 改めて、よろしくね」そう言って、彼は一枚の名刺を差し出した。裏を返すと、そこには可愛らしいタッチの似顔絵が描かれていた。ちょっとゆるキャラっぽい。「え、これ似顔絵?」思わず笑って聞くと、「そうだよ〜。似てる?」と、彼は首をかしげながら覗き込んできた。……あざとい。あざとすぎる。そして可愛い。男の子なのに、こんなに可愛いのアリ?ぷっくりした涙袋、大きな瞳、くるくると表情を変える顔。正直、女の子よりも“かわいい”という言葉が似合ってしまっている。***そんなふうに見とれていると、みおんがメモをちらっと見て、にこにこと笑いながら尋ねてきた。「ねえねえ、年上が好きってこのメモに書いてあるけど、僕、25歳なんだよね。……大丈夫? 年下もいける?」いたずらっぽい目をして、私の顔を覗き込んでくる。その時点で、すでに心臓は警報レベル。え……無理無理、近い。顔が近い。かっこいいのに、こんなに甘く迫ってくるの?やばい、心臓が痛い――!!「うん……全然、大丈夫……」かろうじて声を絞り出すと、彼の顔がぱっと明るくなった。「ほんとに〜? 嬉しい!」その声と同時に、彼の手が私の足元に触れる。軽く、けれど確かにそこに置かれたその手。そして、ぐっと上半身を寄せてきた。***え……今、足に……?思考が止まる。脳内が真っ白になる。どういうこと? え? これは夢? いや現実??「ねえねえ、隣いってもいいかな?」そう言いながらも、彼は返事を待たずに、すっと身体を寄せてきた。気づけば、私は彼と肩が触れそうな距離で並んで座っていた。やばい。やばす
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【第一章】地雷系ホスト・みおん 6

ホストって、すごい――。私はただ、心の中でそうつぶやいた。これも、演技なのかもしれない。でも、なんだろう……まるでそれが“嘘じゃない”ように感じてしまう。この「可愛い」は、リップサービス? でもトーンが軽くない。どこか本気にも聞こえてしまう。いや、違う違う。私は自分に言い聞かせる。ホストは仕事でやってるんだ。“色恋”ってやつ。甘い言葉で心を溶かして、また来てもらうための営業トーク。私みたいな、地味で取り柄のない女を、こんなイケメンが本気で「可愛い」なんて思うはずがない。こんなリップサービスに、まんまと照れて、ドキドキして……。――私って、ほんとに、ちょろい。***これが、いわゆる“色恋営業”ってやつなんだろう。きっと、私が彼のことを気に入ってるのを見抜いて、全力で応えてくれているだけ。“指名”してもらうための戦略。それだけ。……そう、きっと。そう思い直そうとしていた、その時。***「ねえねえ」不意に視線を感じて顔を向けると、心愛くんが、じっと私の顔を見ていた。「メイク、すごく可愛い」また心臓が跳ねる。反射的に目を逸らしながら、なんとか返す。「え……そうかな……?」「うん。ねえ、もしよかったらなんだけどさ――」彼は少し声を潜めるようにして言った。「もうすぐ、制服イベントがあってね。僕、その日、女装するんだ」「当日……メイク、してくれない?」***「えっ!?」あまりに予想外の言葉に、思わず大きな声が出てしまった。今のって、どういう意味?ホストイベントの一環? お店の中の話? それとも――プライベートの約束……?どこまでが“仕事”で、どこからが“本気”なのか。私にはもう、境界線がまったく見えなかった。胸の中がざわざわしてくる。ときめき、疑い、戸惑い、そして――期待。自分でも信じたくないほど、その“誘い”に心が揺れてしまっている。とりあえず、これは“ノリ”だろう。軽くかわすのが正解な気がして、私は笑顔の裏に戸惑いを隠したまま、こう答えた。「え、機会があれば……」そのとき、内勤さんが時間を知らせにきて、会話は自然と区切られた。みおんは「また後で会おうね♪」と余裕たっぷりの笑みを浮かべて、すっと立ち上がる。彼の背中が遠ざかっていくのを見送りながら、私は深く息をついた。さっきまでの高鳴
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【第一章】地雷系ホスト・みおん 7

「もう時間だけど、延長する?」そう声をかけられたとき、私はようやく時間の流れを思い出した。――もう、90分も経っていたのか。まるで夢を見ていたような気分だった。いや、夢よりも濃く、心が忙しく動き回った時間だった。時計をちらりと見ると、すでに21時半をまわっている。夜道を一人で帰るには、少し不安な時間帯。そろそろ帰ろうか。そう思った、その瞬間だった。ふと、足元に温かい感触。見ると、みおんの手が、私の足にそっと触れていた。「……え?」驚いて顔を上げると、彼がすぐそばで、こちらをじっと見つめている。その顔は、あの“きゅるん”とした可愛らしい目での上目遣い。わざとらしいほど甘えたような表情で、言葉を紡ぐ。「ねえ、まだいてよ」その声は、まるで恋人に甘えるかのようだった。でも、延長料金のことが頭をよぎる。詳しい金額は知らないけれど、ホストの延長料金が安いわけがない。それでも、彼の目は、まるで私だけを求めているかのように潤んでいた。一瞬、心がぐらりと揺れた。でも――私は、ゆりちゃんの方を見た。すると彼女は、まるで察したように、あっけらかんと言った。「いや、もう帰るね!」きっぱりとしたその言葉に、思わず胸をなでおろす。助かった。そう安堵したのも束の間、別の緊張が走った。さっきまでバカっぽくおちゃらけていたナオトが、ふいに真顔になった。まるで感情を閉じるような、冷たい無表情。そして数秒後、何事もなかったかのように、また笑顔を取り戻した。その一連の変化を、私は見逃さなかった。――あれが、彼の“素”なんだろうか。なんとも言えないざわつきが、胸の奥に残った。ホストたちは、笑顔の奥に“別の顔”を持っているのかもしれない。恐る恐る、みおんの方を見る。その顔は相変わらずの笑顔だったが、どこか“営業”のスイッチが入ったように見えた。「残念だな〜」肩をすくめながら、彼は小さく笑う。「でも、次は指名してね! ていうか……僕、店終わるの深夜2時頃なんだけど、電話とかできたりする?」「……え? うん……」あまりにも自然な流れで、私はうなずいていた。これは“営業トーク”なのか、“プライベート”の誘いなのか。その境界線が、もうわからなくなっていた。階段を登って店の前に出ると、夜の風が頬を撫でた。少しだけ、肌寒い。ふと、みおん
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【第一章】地雷系ホスト・みおん 8

深夜二時。いつもならとっくに眠っているはずの時間なのに、今日はなぜか、まぶたが重くならない。ベッドに横たわっても、胸の奥が妙にざわついていた。理由はわかっている。店を出た直後、みおんから届いた熱烈なLINE。スクリーンに現れる彼の言葉は、まるで私の心を覗き込んだかのように甘く、そして巧みだった。「本当にさーちゃん超可愛かった。また会いたい」「さーちゃんに出会えて嬉しかった」「耳まで真っ赤だったね」「彼氏とかいるの?」既読をつけると、数秒で返信が返ってくる。その即時性さえ、心が求めていたものだったのかもしれない。──まるで、私だけを特別に思ってくれているみたい。わかってる。ホストは、恋を売る仕事。この言葉も“営業”で、“魔法”みたいに甘くて、嘘だらけ。そう、頭ではちゃんと理解している。でも、体の奥では違う声が囁く。「嬉しい」「もっと聞きたい」「恋してもいいのかもしれない」と。彼から「電話、しよっか」とメッセージが来たのは、約束の二時ちょうどだった。私はすぐに「うん」と返していた。そのときにはもう、言い訳を探すのをやめていた。数秒後、着信。「……もしもし」眠気を帯びた私の声に、彼はふっと笑った。「ふふ……やっぱり声可愛い。今日はありがとうね」その一言で、心臓が跳ねた。「……あのさ、僕、正直に言ってもいい?」少し声のトーンが変わった。真剣なときの、あの感じ。「さーちゃんの顔がタイプすぎて……一目惚れしちゃったんだよね」「え……」小さく声が漏れた。「こんなこと、いつもはしないんだけど……特別に、僕の本名教えちゃうね」彼の声が、すっと低くなる。「結城 志音っていうんだ」やけに美しい響き。だけど、どこかで引っかかる。──作られた名前のようにも感じる。それでも、そのときの私は、その違和感を喉の奥に押し込んでしまった。「あとさ、プライベートのインスタも教えていいかな? 鍵垢なんだけど、個人的な知り合いしか繋がってないんだよね」そう言って送られてきたアカウントは、確かに鍵がかかっていて、投稿も控えめだった。でも、その数日後。フォロワー欄には、いわゆる“みおんの姫”たちのアカウントがずらりと並んでいたことを、私はまだ知らない。あのときの私は、「もしかしたら、自分だけが本当に特別なのかもしれない」──そう、ほ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-12
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【第一章】地雷系ホスト・みおん 9

「さーちゃん、遊びならいいけど、みおんに本気になるのはやめときな。」LINEに届いた、ゆりちゃんからの短いメッセージ。それはまるで、空に走った一筋の稲光のようだった。──なんで、そんなことを。まだ何も始まってないのに。「え、なんで?」私はすぐに返信を打った。数秒で既読がつき、すぐさまスマホが震える。着信だ。「……もしもし?」「さーちゃん、落ち着いて聞いてね。実は私、キャバクラで働いててさ。そういうつてで……裏情報を、秘密で入手できるんだよね」やけに真剣な声だった。ゆりちゃんのLINEの表示名には、たしかに月の絵文字があった。「……あのみおんって、やばいらしいよ」「え……?」「客を“しずめる”んだって」「しずめる……?」聞き慣れない言葉。けれど、その響きに含まれる“深さ”と“冷たさ”に、背筋がぞくりとした。「生活できないくらいにさせるってこと。みおんのせいで借金抱えて、家もなくなって、仕事も辞めた子……何人もいるんだって」一瞬、呼吸の仕方を忘れた。酸素が喉を通らず、胸の奥に重たく沈んでいく。「え……みおんくんが……? そんなはず……」「携帯代も姫に払わせてる。『店に来なくていい』って言って、プライベートで繋がって、恋人のふりして金を引っ張るんだって」じわじわと、現実が崩れていく。耳の奥で誰かの声が反響しているみたいに、ゆりちゃんの言葉が頭に残って離れなかった。「しかも、“鬼枕”。本営しまくって、『君だけ特別』って言って、ガチ恋させて、貢がせてるんだよ」瞬間、目の前がスッと暗くなった。本当に、視界が狭まった気がした。──私が、今まで受け取ってきた言葉は?──あの甘い声は?──「一目惚れした」って、あれは……全部?「私がやりとりしてた……みおんくんって、一体……」喉がひゅっと細くなり、息が詰まる。指先がじんわりと痺れてくる。心臓が不規則に打ち、鼓膜の内側でドクドクと音を立てていた。「だから、さーちゃん! 今すぐブロックしなって。というかね、さーちゃんとの会話、全部スタッフに言いふらしてるよ」「……え?」「店の内勤と私、裏で繋がってるの。さーちゃんが『ホストの彼女は嫌だな』って言ったって、笑いながら自慢げに話してたって聞いた」──それは、たしかに私が言った言葉だった。みおんくんが「今度会ったと
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【第一章】地雷系ホスト・みおん 10

「みおんくん、今までありがとう」そう打ち込む指先が、かすかに震えていた。涙ではなく、恐怖と怒りと後悔が入り混じった、底知れぬ感情のうねりに呑まれながら、私はスマホの画面を見つめていた。――嘘。あれは全部、嘘だったの?信じてた。あの笑顔も、優しい声も、真っ直ぐに私を見つめるあの瞳も――。誠実で、真面目で、私のことだけを見てくれてると思ってた。でも、違った。彼の中には、私が知らない“もうひとり”がいた。あまりに自然すぎて、完璧すぎて、私の目にはまるで“演技”だなんて映らなかった。まさか、そんな裏の顔をもっているなんて――。頭の中で誰かが叫んでいる。「気づくのが遅すぎる!」と。彼に言われて、送ってしまったお風呂あがりの写真。ふざけた感じで「見せてよ」と言われ、「しょうがないな〜」なんて甘えて、隠すべきところは隠していたけれど、“特別な彼氏”にしか見せないような写真だった。そんなの、信じてるからこそ、送ったのに。もしかしたら、その写真も……私の話したことも、家族のことも、悩みも、全部、他の誰かに話してるのかもしれない。「紗月って女、チョロいよね」「写真もすぐくれるし」笑いながら誰かにそんなふうに話してる、みおんくんのもうひとつの顔が、まぶたの裏に焼きついて離れなかった。ひゅうっと、胸の奥から酸素が抜けていくような感覚。冷たい空気が肺に入るたびに、心がぎゅっと痛んだ。それでも、現実を否定しきれなかった。だって、私は見てしまったから。あのとき、彼の仲間たちが一瞬見せた、“真顔”を。――ぞっとした。背筋に氷の刃が走ったみたいだった。あれが、彼らの“本性”なの?「私が見ていたみおんくんは、誰だったの?」私はただ、部屋の片隅で膝を抱えて、「バカだ……」と何度も繰り返すことしかできなかった。信じた自分が悪いの? あんなにも優しかったのに。あんなにも、好きだったのに――。だけどもう、戻れない。私の心は、完全に壊れてしまったから。***LINEをブロックした、その瞬間だった。まるでこちらの動きを監視していたかのように、インスタのDM通知が届いた。「お願い1回電話させて。思ってること全て話したい。おれはお店通わせようともしてない。LINE電話かけてきて。かけ直す」まるで切羽詰まったような文章だった。句読点もほとんどない、感情
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