うつむいて伏目がちになった菜奈子の長いまつげが、バスの車内から漏れる照明に照らされて目元に影を落とす様はなかなかに艶な感じだ。 そんな菜奈子の雰囲気に気付いているのかいないのか。 のほほんと手を振る帝太郎に、溜め息の玉郎である。 帝太郎のことだから送り狼になるということは決してあるまいが、それと同じくらい好い雰囲気になる可能性も低いのかも知れない。 二十二時を回っていることもあって、バスは空いていた。 大きな荷物を抱えてえっちらおっちら歩く美紀が一緒だったので、玉郎は正直安堵した。「玉郎先生、美紀ね、お味噌汁つくれるよ?」 美紀の希望で一番後ろの席に陣取り、ホッと一息ついたと同時にそう言って顔を覗き込まれ、玉郎はちょっと驚いてしまう。 一瞬の間の後、美紀が言外に味噌汁を作らせて欲しいと言っているのだと理解する。「よっしゃ! じゃあ、夕飯の一品は味噌汁にしよう。具は何にすっか?」「玉ねぎ!」 子供にしては珍しい具材を言う。 確か玉ねぎなら、まだ五、六個ベランダに吊るしてあったはず。 大豆、大豆してしまうかもしれないが、冷蔵庫にはおからも入っていたはずだ。ニンジンや鶏肉なんかもあったはずだから、おからの炒り煮なんて作るのも悪くない。 田舎育ちのためか、帝太郎はそういう昔ながらのお袋の味を好む傾向がある。 それで自然、メニューがおばんざい系になることが多い。 子供である美紀が果たしてこういうおかずを好んで食べてくれるだろうか? ふとそう思い至り「おから、好きか?」と問うと「大好き!」と返った。「パパが好きでね、よくお惣菜屋さんで買って来るの!」 それで食べ慣れているのだと美紀は笑う。「あたしがもう少しおっきくなったらね、つくり方ちゃんとおぼえて……買わなくてもいいようにしてあげるの!」 そこでふと気付いたように玉郎を見つめてから「玉郎先生、おからつくれる?」 そう尋ねて小首を傾げた。
Last Updated : 2026-06-08 Read more