All Chapters of 私の代役を愛したことを一生後悔すればいい: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話

あの時、潤が包丁で手を怪我した時は、莉亜は暫くの間辛かった。しかし、潤はただ「莉亜、君のためなら、俺はなんだってしてあげるからね」と言うだけだった。今はもう彼の本性を知っているというのに、莉亜はなぜだか胸がズキズキと痛んだ。携帯画面をスワイプし、二枚目の写真を見ると、それはオーダーした高級ブランドの箱だった。その中にあるドレスのブランドは、Fancy fairyに劣らず高級なものだ。莉亜はその瞬間、苦笑いを浮かべた。あの時、美琴のご機嫌取りのために、潤は彼女を別の高級ブランド店に連れていき、自分のデザインとそう変わらないドレスを買ってやったわけだ。さらに次へスワイプしていくと、SNSの中は全て潤が美琴のためにしてあげた内容ばかりだった。料理から始まり、美琴のために下着を洗ってあげたりする内容から、最後の各種イベント事のサプライズまで。その一つ一つは全て昔、潤が莉亜にしてくれたことだった。莉亜は胃液が逆流してくるのを感じ、しゃがんでゴミ箱に向かってえずいた。潤にとって、莉亜はこの世でたった一人の大切な存在ではなかったのだ。莉亜が持っている物は美琴も持っている。そして、莉亜が持っていない物を潤はどうにかして美琴のために手に入れていた。このような関係はもう二年も前から続いていたのだ。莉亜は体の震えを抑えることができなかった。まるで氷が張っている冷たい湖の中に突き落とされてしまったかのように、全身が凍ってしまいそうだ。彼女は心が麻痺してしまい、美琴のSNSを自分がいつの間に見終わっていたのか覚えていない。ただ、この数年間、莉亜は自分の真心を間違った相手に与えてしまったと気づいた。SNSの内容を一枚ずつスクリーンショットし、すぐに弁護士に送った。今莉亜がすべきことは、潤が美琴や自分とどのような関係であるのか、証拠を集めることだ。証拠が多ければ多いほど、自分が得るべき財産を取り戻せる確率も高くなるだろう。窓の外では雨がぽつぽつと降り、窓を叩きつけ、その音に気が塞いでしまう。その時、ピカッと稲妻が空を走り、雷の音が突然鳴り響いた。莉亜は立ち上がって窓に近寄り、漆黒になった幅広い道を見つめ、悲しみと冷たさに心が満ちていくのを感じていた。子供の頃、莉亜は雷が怖かった。雨の降る日は体を母親の
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第32話

少しの間躊躇して、莉亜は深く息を吸い込み、やはり朔也からの電話に出ることにした。「朔也さん、こんばんは」いくら彼女が今の気持ちを隠そうとしても、朔也は彼女の口調から様子がおかしいことに気づき、思わず眉をひそめた。「泣いていたの?」まさか彼にすぐに気づかれるとは思っておらず、莉亜が必死に抑え込んでいた感情が一気にあふれ出した。彼の質問から逃れることはできないと分かっており、彼女はその場しのぎに適当な嘘をついておいた。「ええ、私は小さい頃から雷が苦手だったので」朔也がまた何か話す前に、彼女のほうから話題を変えた。「そうだ、朔也さん、この間私のあの家を調べてほしいってお願いしていましたが、今どんな状況ですか?」あの家は、莉亜にとってこの上なく重要なものなのだ。なにがなんでも、莉亜は母親が自分のために用意してくれたあの家を取り戻さなければならない。それが困難な道だったとしてもだ。莉亜があまり多くを語りたくないのが分かり、朔也もそれ以上尋ねる気にはならなかった。「今調べさせているところなんだ。きっともうすぐ結果が出るはずだよ」それを聞き、不安だった心がやっと落ち着いた。彼女は朔也がどのような人間なのか分かっている。彼がやろうと思ったことで、できないことなどない。彼に礼を伝えようと思った時、彼のほうが突然口を開いた。「莉亜さん、ずっと気になっていることがあるんだが。君はあの家を売ることにしたのに、どうしてまた取り戻したいと考えているんだ?」彼の質問に、莉亜はその時どう返答すればいいのか分からなかった。朔也は潤の実の兄なのだ。もし、自分の考えを彼に伝えてしまったら、潤との関係を断つことができなくなってしまいかねない。それがたとえ、あまり他人の事に口を挟まない朔也であってもだ。ただ、警戒心を持っておくのは何に対しても有効だろう。莉亜は漠然とした言葉で説明した。「あの家は母が買ってくれたものです。だからそれを私にとってどうでもいい他人に売りたくないし、赤の他人に母が残してくれたものを汚されたくないんです」彼女は含みのあるような言い方をしたが、朔也はその意味を捉え、うっすらと目を細めた。彼は以前、莉亜が今まさにやっているような方法を聞いたことがある。莉亜はあの家を完全に自分名義の財産にしたいわけだ。
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第33話

二枚目な朔也の顔を前にすると、なぜだか急に莉亜は緊張してきた。どこにいようと、この男は近寄りがたい雰囲気を醸し出している。まさに天から授かったような王者といった風格で、生まれつき人と距離感を持っているような男なのだ。瞼をピクリと動かし、淡々とした口調で彼は話し始めた。「この近くでちょっと用事があってね、ついでに様子でも見に行こうと思って来たんだ。その途中で急に雨に降られてしまって。ここで雨が止むまで、待たせてもらえないだろうか?」表情を変えない彼を見つめ、莉亜は無意識に頷いた。「構いません」雨に濡れた服が体に張り付いているのを見て、彼女はすぐに立ち上がった。「朔也さん、服が濡れてしまっていますね。二階に服を着替えに行きますか?」朔也と潤の体格はそう変わらない。潤の服が着られるはずだ。朔也は落ち着いた様子でお茶を一口飲んで、低い声でそれを断わった。「必要ない」するとテーブルの上にあった経済雑誌を手に取り、彼はソファに寄りかかって、その雑誌に目を落としていた。その場の空気は一瞬でピリッとし、しんと静かになった広いリビングにいると、規則正しい彼の呼吸の音すらはっきりと聞こえてくる。さっき彼が言っていた言葉通りに、彼は他の目的はなく、ただここに雨宿りに来ただけのようだ。部屋の明りが、彼の長いまつ毛の影をうっすらと作りだしていた。底の見えない深海のようなその瞳からは、少しばかり冷たい感情が伝わってくる。はっきりとした目鼻立ちがまるで鋭い刃のようにキリっとした美しさを演出している。そんな彼の全身からは高貴なオーラが漂ってきた。スラリと長い指の手の骨格がはっきりと男らしさを表し、彼が手に持っている雑誌すらも、まるで一つの一体化した芸術作品のようだ。柔らかい雰囲気を持つ潤とは違い、決して誰にもなびかない高潔さを持つ彼からはプライドの高さを感じ取れる。他人の顔をじっと見つめる失礼な行動を取ったことに気づき、莉亜は焦って視線を彼から外した。気まずくなった彼女はテーブルの上にあった新聞を読むふりを始めた。なぜだか分からないが、彼女の心はずっと落ち着かなかった。常に朔也のほうへ視線を向けてしまう。一体どのくらい経ったのか時間の感覚はなかったが、いつの間にか窓の外の雨音は小さくなり、そのまま止んでいた。雨雲が去り、外
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第34話

足を止めた朔也の瞳は少し暗くなった。影ができた顔からは今の彼の気持ちを読み取ることはできない。彼が口を開く前に、外から音がした。きちんと整えられていない乱れたシャツのままの潤が焦った様子で大股でリビングに入ってきた。三十分ほど前、彼はふいに秘書から兄の車が家の前に停まっているという連絡を受けた。その時の彼はちょうど美琴と良い雰囲気になっているところで、そのメッセージを受けるとすぐに家に戻ってきたのだ。潤は無意識に開いたシャツの胸元を押さえ、気まずそうに笑った。「兄さん、どうして来るって一言声をかけてくれなかったの?何ももてなす準備をしてなかったじゃないか、兄さんは……」潤の言葉を朔也の低い声が遮った。「ちょうど通りかかったから、様子を見に来ただけだ」そして朔也は視線を潤の首元に落とした。そしてすぐ何かに気づいたらしく、目を細めた。「莉亜さんが言っていたが、今夜は残業だったらしいな」その瞬間、体をビクリとさせ、潤は反射的に莉亜に目を向けた。そして慌てた様子はすぐに消えてしまった。彼は気まずそうに頷いた。「うん、ここ最近会社で新しい事業を計画しているだろ?この事業は会社にとってすごく重要だから、社員たちも手を抜けなくてさ」彼が適当に吐いた言い訳が、思いがけず朔也に隙をつかれてしまった。彼は面白そうに眉を吊り上げてみせた。「へえ、そうなのか?」すると朔也はポケットから携帯を取り出して、指先で軽く画面をタップし、あるファイルを潤に転送した。「社員たちがみんなその事業を重要視しているのに、どうしてこの計画書は何度も訂正を加えても、納得いくような出来にならないんだ?」彼は片手をポケットにつっこみ、目の前にいる潤に一歩ずつ近づいていった。「お前が部下の管理ができていないのか、それとも、その計画書を担当している社員に問題でもあるのか」心の奥底で恐怖を感じ、潤の顔色は一気に青ざめてしまった。この計画書に書かれている資金繰りがなかなかまとまらないのだ。しかも、それを担当している責任者というのが、美琴だ。この件は、何と言っても責任を負う人間がいなければならない。その瞬間、潤は首を垂れ、唇を噛みしめていた。「兄さん、この件に関してはすぐに対処するよ。みんなが納得できる結論を出すから」冷ややかに潤を一瞥して、朔也は軽くそれに
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第35話

莉亜は、潤のその言い訳を全く信じておらず、軽蔑するように眉を動かした。「そうなの?相馬社長って会社ではかなりモテモテなのね。残業する時でさえ誰かが傍に付き添ってくれるんだ」潤は自分を疑ってかかる莉亜の言葉を聞いて、すぐに顔を冷たくさせた。「莉亜、それはどういう意味だよ?俺がこんなに頑張っているのも、俺たちの将来を思ってのことだってはっきり分かっているだろう?今の生活ができているのは誰のおかげだと思ってるんだ?俺が外で必死になって仕事してなかったら、こんなに優雅な生活を送れていると思うか?それなのに、俺が他の女と浮気しているとでも言いたいのか!」彼は首元のネクタイを引っ張って、どんどん不機嫌な口調に変わっていった。「俺と兄さんは同じ相馬家の子供なのに、どうして兄さんのほうは海外で簡単に有名社長になれて、俺のほうが毎日相馬グループの事で悩まなきゃいけないんだよ。あいつはただ俺よりたった二年早く生まれてきただけじゃないか!もし俺のほうがあいつより早く生まれていれば、今頃あいつよりももっと成功していたかもしれない!」小さい頃から、潤はずっと朔也の影に生きていた。生まれてから、相馬家は事あるごとに、自分と兄を比較してくるのだ。少しでもヘマすれば、聞こえてくるのは相馬家が自分を貶す言葉と、兄の朔也への賞賛だった。だから、潤はかなり昔からもううんざりしていたのだ。以前の莉亜であれば、この時彼を慰める言葉をかけていたかもしれない。しかし、彼女は今ようやく潤と朔也の差がどこにあるのか理解できた。「朔也さんが成功できたのは、彼が一歩ずつ着実に成果を残していった積み重ねがあるからよ。それに対してあなたは、そんな彼の裏での支えがあって今の成功があるんじゃないの。あなたが彼より二年早く生まれていたとしても、彼の今の地位までのし上がることができたかは、未知数だわ」莉亜の口からそんなセリフが出てくるとは思ってもいなかったのだろう、潤は心の奥底に溜めていた劣等感がこの時あふれ出してきた。そして立ち上がり、彼女の顎をつかんだ。「莉亜、お前までも俺はあの男に敵わないとでも言うのか?以前のお前はこんなふうじゃなかった。兄さんが帰ってきてから急に変わってしまったな。なんだ?あいつが目の前に現れてから、奴のことしか眼中になくなったってか?」莉亜の白い肌
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第36話

莉亜は迷うことなく潤の手を押しのけ、感情の起伏のない声で言った。「疲れてるの。早く寝ましょう」再度拒まれ、潤はすでに発狂しそうなほどに怒りを爆発させていた。そして無理やり彼女の体を自分のほうへ向けさせた。「莉亜、この間は生理だからって拒否したよな。今日はどんな理由で拒否するつもりだ?どうした?今日朔也に会って、心は全部あいつに持ってかれたってわけか?」彼女は明らかに煩わしそうな顔をして、力を込めて彼の束縛から逃れようとした。「潤、言ったでしょ、今日はとても疲れているのよ。私とお義兄さんはあなたが思ってるような関係じゃないってば。自分にやましいところがあるからって、それを私になすりつけようとしないでよ!」すでに嫉妬心に囚われて不信感をつのらせている潤が彼女の言葉を聞き入れるはずなどなかった。彼は片手で莉亜の手を彼女の頭上に押さえつけ、もう片方の手で顎を押さえて口づけしようとした。「俺が思っているような関係じゃないっていうなら、どうして俺を拒否しようとするんだ?莉亜、俺がどれだけ君を愛しているか分かっているか。今後一切俺以外の男に近寄るんじゃないよ、いいね?」優しい口調で彼女を落ち着かせながら、潤は顔を背けた彼女の唇の端のほうから下に移動し首筋に少しずつ貪るようにキスを落としていった。彼は手を莉亜の服の下に滑らせて、節度なく上へと這わせていき、興奮して呼吸もどんどん荒くなっていった。下心に火がつき、彼の指には力が入り、莉亜の腰を浮かせて、これ以上は我慢できないといった様子で腰の部分から服をはぎ取ろうとした。「ちょっと、もう十分でしょ!」ひたすら横を向いて彼のキスから逃れようとしていた莉亜はもう耐えられなくなり、冷ややかな声で彼の動きを止めようと一喝した。一瞬だけ手の動きを止めたが、潤の性的欲求が失せることはなく、かすれ声で彼は言った。「莉亜、もうずいぶんやってないじゃないか。君はしたくないのか?おとなしくして、俺だって、俺たちの仲を深めたいと思ってるんだよ」彼と美琴もこのような行為を重ねていることが頭に浮かび、気分が悪くなって吐き気をもよおした彼女は思わずえずいてしまった。そんな彼女の様子に、優しく接しようとしていた潤は瞬時に興ざめし、その態度は冷ややかなものに変わった。「莉亜、そんなに俺とやりたくないのか?
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第37話

莉亜は冷たい表情になり、わざと不愉快そうにしてみせた。「潤、あなた私のことをバカだと思ってるの?かなり前に、彼女を子会社に異動させるって話だったのに、ずっと本社勤務じゃないの!」それを聞いた潤は半信半疑で驚いたようだった。「だから、今ヤキモチ焼いてるわけ?」「私を詰問する前に、まずはあなたの周りの異性関係を綺麗にしてから言いなさいよね!」莉亜はブランケットを引き寄せて背を向けると、もう彼の相手をするのも煩わしくなった。「眠いから、もう寝るわ」潤はその言葉に苛立ち襟元を緩めた。「説明したろ、俺と生田さんは何もないって。だからわざわざ子会社に異動させてないんだ。それに会社はまだ人事異動の時期じゃないからだ。それを信じる信じないは君の勝手だけどね。もう二度と、他の女と俺が関係があるだのなんだのってうるさくしないでくれよな」あの平手打ちによって萎えてしまった潤は、それ以上続ける気分ではなくなり、さっさと部屋を出ていった。後ろからドアが閉まる音が聞こえて、莉亜はやっと安心できた。彼にまだ疑われなくて良かった。翌日のこと。莉亜は食卓に座り、頻繁に携帯画面をタップしていた。「藤井さん、あの件、一体いつになったら終わりますか?」すると電話越しにため息が聞こえた。「小鳥遊さん、今手元にある証拠だけでは、まだまだ不足しています。得るべき財産を奪い返すためには、なんとかして相馬潤氏と生田美琴との関係を証明できるはっきりした写真が必要なんです。あなたが送ってきた写真では、全く証明することができないのです」それを聞いて、莉亜は落胆した。彼女が口を開こうとした時、ちょうど別の電話がかかってきた。その着信相手を見て、彼女はそそくさと藤井との電話を終わらせ、薫子の電話に出た。「お義母さん、何か用ですか?」薫子は鼻で冷たく笑い、開口一番不機嫌そうな声を出した。「なによ、用事がなかったら電話してくるなってこと?他所のお嫁さんなんか家で姑のお世話をしているというのに、あなたは良いご身分だこと。潤と結婚してからあの子をそそのかして、さっさと引っ越して暮らしてるものね。相馬家があなたのことをいじめでもしたのかしら?」彼女から嫌味を言われることにはもう慣れていて、弁明しようと思った。しかし、相手は莉亜が口を開く機会を与えず、有無を言わさぬ態度
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第38話

目の前にある飲み物の変な匂いを嗅ぎ、莉亜は顔をしかめて思わず後ずさりし、拒否する態度を見せた。「これは何ですか?」冷ややかな目で莉亜を一瞥し、薫子はテーブルの上にあるお茶を落ち着いた様子で口に含むと、ゆっくり口を開いた。「莉亜さん、あなたが潤と結婚してもう二年が過ぎたわ。それなのにあなたは一向に妊娠する兆しがないでしょ。昨日、知り合いのお医者さんに尋ねて、特別なドリンクの作り方を教えていただいたの。熱いうちに飲んだほうが飲みやすいわ」コップに入った奇妙な色の液体を見て、莉亜は眉をひそめ、拒否する言葉を吐いた。「いりません。子供は自然に任せるべきです。強引なやり方では妊娠したくてもできませんよ」莉亜が拒否するのを見て、薫子は完全に不機嫌な表情になり、テーブルをドンッと力強く叩いた。「相馬家を今の世代で根絶やしにしてしまうつもり?あんたが妊娠しにくい女だって分かっていれば、最初から潤との結婚は許さなかったのに!今すぐ、これを飲みな!」すると薫子は莉亜の後ろにいる数人の使用人に合図を送った。彼らは頷き、すぐに莉亜の体をしっかりと押さえつけた。「莉亜様、申し訳ございません。奥様も潤様のことを思ってこのようなことをされているのです」一番前にいる使用人が莉亜の両頬をしっかりと押さえ、手に持っているコップを彼女の口に運び、液体を流し込もうとした。奇妙な味が口の中に広がり、莉亜は何度かむせて顔を真っ赤にさせた。彼女は顔を横にそむけて、なんとか彼らの束縛から抜け出そうとした。しかし、彼女一人の力では毎日力仕事をしている使用人たちには、力で全く敵わない。ただ、何口かその液体を飲み込むしかなかった。この時、執事が急いで中に入ってきた。彼はそのまま薫子の傍に行き、彼女の耳元で何かを囁いた。薫子がそれに反応する前に、スラリと高い男の影が入り口に現れた。「やめろ」その声のほうへ振り向いてみると、落ち着いた様子の朔也が近づいてきていた。彼は体にフィットした白のシャツを着て、無造作に黒髪をおろし、その底の知れない深い瞳からは淡々とした冷たい雰囲気を漂わせていた。莉亜に強引に飲ませようとしていた数人の使用人は無意識に数歩後ろにさがり、丁寧にお辞儀をした。「朔也様」薫子は明らかに不愉快そうに一瞬眉間に皺を寄せたが、それ
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第39話

「莉亜さんだけに目を光らせている暇があるなら、潤のほうをしっかりと管理するべきだ。あいつの交友関係には気を配っておくことだな」その言葉にドキリとし、莉亜はサッと顔を上げて近くに座る朔也のほうへ目線を向けた。朔也はまるで美しい彫刻のようだ。はっきりとした目鼻立ちをした二枚目の男で、長く微かにカールしたまつ毛と、底が見えない海のように黒々とした瞳をしている。形がしっかりした黒い眉が男らしさをさらに際立たせている。彼の言葉に心が温かくなり、莉亜は思わず口角を上げた。相馬家で自分を庇ってくれる人間がいるとは今まで思っていなかった。潤と結婚してからというもの、莉亜はかなり前から相馬家の人間から冷ややかな視線を浴びせられてきた。昔、潤は彼女にどうにか耐えてくれと言うだけだった。それが今、ただ数回しか顔を合わせたことのない男が自分を擁護してくれている。そんな彼と比べると、潤が言う「愛」というものは、本当に安っぽいものだと感じた。「どういう意味よ?まさかこの件は潤のせいだとでも言いたいわけ?」薫子は激怒しテーブルを強く叩いていた。朔也が口を開く前に、莉亜がすでに薫子の前にやって来ていた。「お義母さん、私が帰国してから、潤はよく夜帰ってきませんでした。彼は忙しすぎて、きっと子供の事なんて考える余裕はないんですよ。私に子供を催促したところで、無駄です。だったら、潤のほうに言ったほうがいいですよ」莉亜の言葉に息をするのを忘れるほど怒りを爆発させた薫子は、莉亜の鼻先を指差してわなわなと体を震わせていた。「あ……あんたね!我々相馬家は本当に疫病神を拾ってしまったわ!どうしてこんな女なんかを嫁入りさせちゃったんだろうね!潤が一日中会社の事で忙しくしているのは、全部あんたのためでしょ?それなのに、そんな言葉を恥も知らずに口にするなんて、妻として夫の辛さを理解できないならまだしも、あの子が世話してくれる時間がないって文句を言うなんてどういうことよ!まるで物分かりの悪い子供じゃないの!」世にも稀な滑稽話を聞かされたかのように、莉亜は喉の奥のほうから冷たい笑い声をもらした。「お義母さん、あなたって息子のことを全く理解していないようですね。こんな薬、私は二度と飲みませんから!何か言いたいことがあるなら、やっぱり潤に直接言ったらいいと思いますけど!」
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第40話

莉亜は無意識に近くにあった壁に隠れるように身を潜め、潤と美琴が去っていくのを確認してから、壁の後ろから出てきた。あの二人はどうして産婦人科に行ったのだろうか。まさか、生田美琴はすでに……あまり多くの事は考えず、莉亜は急いで二人が出てきたばかりの診察室に入っていった。「すみません、私はさっき診察を受けていた生田さんの友人なんですが、彼女から検査結果をもらってきてほしいと頼まれたんです」医者は眼鏡をくいっと上に押し上げて、莉亜をじろじろと見つめて訝しそうに眉をひそめた。「検査結果なら、さっきあなた達に渡したはずですが」莉亜は気まずい笑みを浮かべ、適当に嘘をついておいた。「ええっと、さっき歩いている時に他の患者さんとぶつかってしまって、持っていた水で濡れてしまったんです。それで新しいものをいただけないかと」半信半疑で彼女を暫く見つめた後、医者はようやくキーボードを打って、仕方ないといった様子で言った。「分かりました。今印刷して持って来させるので少々お待ちください」少しして看護師が検査結果をもう一枚持ってくると、莉亜はお礼の言葉を述べた。その検査結果に目を通すと、莉亜は冷水を浴びせられたかのように、頭から足の先まで血の気が引いて冷たくなった。その瞬間、吐き気をもよおして、思わずえずき、口元を押さえて診察室を飛び出した。トイレに駆け込み顔を洗って、ゆっくりと頭が冴えてくると、彼女は皮肉な笑みを浮かべた。潤と結婚して二年経っても、彼が子供を作ろうと焦らなかったのは、自分の体のことを考えてくれているからだと思っていた。そして今ようやく目が覚めた。彼はすでに別の女との間に子供を作るつもりでいたのだ。これはもう笑うしかない!その検査結果を折りたたんでカバンの中に入れ、莉亜はどんどん冷たい表情になっていった。その時突然、自分が得るべき財産をもらうだけでは、大きな損をするような気持ちになった。あのクズ男にはそれ相応の代価を払ってもらわなければ、気が済まない!莉亜が家に戻った時、潤はすでに長い時間ソファで待っていた。彼女が帰宅したのを見ると、潤は急いで迎えに行き、彼女を気遣ってカバンを受け取ろうと手を差し出した。「莉亜、なんでこんなに遅くなったんだ?電話しても出てくれないしさ、すっごく心配したんだよ」莉亜は反射的に
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