All Chapters of 私の代役を愛したことを一生後悔すればいい: Chapter 41 - Chapter 50

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第41話

その言葉を聞いて、潤は心の中に疑問が湧き、眉間に皺を寄せた。「莉亜、ここ最近君は一体どうしたんだ?どうしてそんなに焦って俺と口座を別々にしようとしているんだ?正直に答えてくれ、もしかして何かあったんじゃないのか?言ってくれれば、俺がどうにかするよ」以前の彼女は会社のことに手を出すこともなく、むしろ、自分名義のすべての財産を彼に任せたいとさえ思っていた。しかし、最近、莉亜は会社の売り上げを気にするだけでなく、自分と口座を別にしたいと騒ぎ始めた。まさか、彼女は何かに気づいたのだろうか。彼の疑いの眼差しに、莉亜は指先をピクリと動かして無理やり自分を落ち着かせようとした。「実の兄弟であってもお金が関わることなら、やはりはっきりと計算すべきでしょう、なに?そんなに不安そうにして、もしかして株の配当に何か問題があったんじゃないでしょうね?」十分な証拠が揃う前に、彼女は決して潤に何か勘づかれてはならない。もし気づかれてしまえば、今までにやってきたことが無駄になってしまう。このような状況にあっては、さらに自分を落ち着かせる必要がある。潤の目には一瞬焦った様子が見えた。彼は口元を歪め気まずそうに笑った。「莉亜、ほら見てみろよ、また適当な話をし出した。会社の財務報告書なら、君も確認済みだろう?本当に配当金を別々の口座に入れたいなら、財務部に言えばいいだけの話だ。君がわざわざ会社まで行く必要なんてどこにもないよ」彼はポケットから携帯を取り出してゆっくりと立ち上がった。「今から財務部の人に電話して、すぐに手続きしてもらうから」そう言いながら、潤は笑顔を真顔に戻し、大股で二階に向かった。遠ざかる男の背中を見つめ、莉亜はどうも怪しいと思い、目を細めた。もし、自分が配当金が少ないという問題に気づいたら、彼と美琴の関係がばれてしまったことを意味しないだろうか。それなのに、彼があんなにすんなりと自分の言うことを聞いた?手に持っていたコップを置くと、莉亜は急いで彼の後に続いた。しかし、潤が急ぎ足で書斎に戻り、中から鍵をかけるのしか見えなかった。そろりそろりと書斎の前まで行くと、彼女は耳をぴたりとドアに張り付けて呼吸を止めた。この時、財務管理をする社員の電話番号にかけて、潤はソワソワと部屋の中を歩き回っていた。十数秒かかって
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第42話

翌日。莉亜はやはり潤の制止を押し切り、一人相馬グループへやって来た。彼女は直接財務部に赴いた。社員たちはまるで潤と示し合わせたかのように、恭しい態度で彼女に挨拶してきた。「奥様」ある女性社員が書類を両手で丁寧に莉亜の前に差し出し、非常に礼儀正しい態度を見せた。「奥様、社長からこちらの資料が必要だとうかがっております。全てここにご用意いたしました。ここ数年の我が社の株式配当金、及び、他社との提携により得られた利潤が詳細にこちらに記載されております。どうぞご覧ください」彼女から渡されたその書類に目を通し、莉亜は皮肉な笑みを浮かべた。なるほど、昨夜潤は全て完璧に準備を整えたらしい。今手元にあるこの資料は全てデータが改ざんされている。その書類をバンッとデスクの上に叩きつけると、莉亜はその表情を冷たくさせた。「社長は、あなた達が株の配当金のデータを改ざんしたことを知っているのかしら?今日私がここに来なかったら、あなた達はいつまでこのことを隠しておくつもりだったの?」そう言い終わると、女性社員はギクリとし、明らかに慌てた様子だった。「奥様、一体何のことだか分かりかねます。こちらのデータはパソコンにあったものをそのまま印刷してお渡ししたものです。この会社で長年働いてきた私どもが、どうして大事なデータを勝手に書き換えることができるでしょうか。もし、信じられないというのであれば、お調べになってもらって構いませんよ」いくら莉亜が調べたところで、彼女の手元にある資料は動かぬ事実なのだ。元のデータはすでに彼らの手によって消し去られた後だ。莉亜がそんな彼女の考えを読めないはずもなく、莉亜は彼女の下あごを軽くつかみ、意味深な笑みを浮かべた。「だから、問題はパソコンであって、あなた達には非がないと言いたいわけね?」その言葉を聞き、女性社員は口を開いて、まだ何か言いたげにしていた。しかし、そのような機会を莉亜が与えるはずもなく、冷ややかな声で遮った。「財務部長を呼んできてちょうだい。この件は、彼女に直接うかがうわ」それを言われて無視するわけにもいかず、社員はただ頷いておとなしく出ていった。およそ十分ほどで、美琴が落ち着いた様子で中に入ってきた。「莉亜さん、何か私にご用ででょうか?会社の財務報告に何か問題でもありましたか
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第43話

「莉亜さん、あなたと社長はそもそも夫婦なんですから、社長の苦労と気遣いを理解していらっしゃると思います」その言葉を口にした時、美琴の背中は冷や汗をびっしょりとかいていて、堂々と頭も上げられなかった。美琴のその拙い言い訳に莉亜は可笑しく思えてきて、立ち上がり、上から美琴を見下すように見つめた。「そういう事情なら、生田部長からプロジェクトチームに連絡して、その投資に関する資料を持ってきてもらえませんか?そうしないと、無実の財務部に罪を着せることになってしまいますので」その瞬間、美琴は足の力が抜けて危うく床に座り込みそうになってしまい、傍にあったデスクの端に手をかけてなんとか姿勢を保っていた。彼女の顔からは血の気が引き、莉亜から注がれる眼差しにどんどん不安が増していった。さっきはただ適当な言い訳をしただけなのに、どうやってその資料を持ってこられるというのか。「あ、あの、私は……」狼狽えた様子の美琴のほうへ一歩ずつ近寄り、莉亜は彼女に警告するような冷たい声を放った。「生田部長、あなたは会社にもう長年勤めているけれど、会社の規定についてはよくご存じよね?わざと会社の重要なデータを改ざんしたともなれば、どうなるのかしら?」美琴がどう弁明すればいいのか困っていた時、ちょうどオフィスの外から急いでこちらに向かってくる足音が聞こえた。そしてすぐに潤の声が響いた。「莉亜が財務部にいるっていうのか?」傍にいた秘書が恭しく頷いた。「はい、相馬社長、奥様は三十分ほど前に会社に来られました」その瞬間、何かを思いついたのか美琴は目を光らせ、その場に前かがみになり倒れ込んでしまった。潤がオフィスに入ってきた時にちょうどその光景が目の前に広がり、彼は慌てて美琴を床から起き上がらせた。「どうしたんだ?大丈夫か?」美琴はわざと悲しそうに顔を横に振り、前に立っている莉亜のほうへ涙目になり視線を向けた。「莉亜さん、そのデータはどういうことなのか、本当に私は分からないんです。どうして私がその資料に手を加えたと犯人扱いするんですか?私は神様に誓って、そんなことをしていません。もし信じられないというなら、直接調査させたらいいです。でも、私をクビにはしないでもらえませんか?」突然形勢逆転してきた美琴に対して、莉亜は瞬時に反応できずにいた。莉亜が何か
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第44話

目の前にいるこの男にはすでに期待していないのだが、心の中には自分の意思ではどうすることもできない冷たさが広がっていった。「謝らないって言ったら?」その言葉に激怒した潤は、不機嫌そうに顔を歪め、言葉を絞り出すように口から出した。「莉亜、本当にどんどん理不尽な人間になっていっているな。なにがなんでも謝ってもらうぞ!」相手に有無を言わさぬ口調で、彼は全身から凍りつくようなオーラを放った。その状況に、美琴は得意そうに口角をニヤリと上げ、挑発するように眉を上げて莉亜を見つめた。その後、美琴はまた自分は一歩引いて相手を理解するようなふりをし始めた。「相馬社長、さっきは莉亜さんとは無関係なんです。ただ自分でよろけて転んじゃっただけで。だから、そんなふうに彼女に言わないでください」美琴がそのように物分かり良い様子でいればいるほど、潤は目の前にいる莉亜が頑固な人間に思えてきて、もう我慢できないという表情がちらついた。「莉亜、俺にもう一度同じセリフを言わせるなよ。今すぐに、生田さんに謝罪しろ!」潤は莉亜を愛しているからこそ、こんなに長い間甘やかしてきてしまい、彼女が欲しい物は全て、どうにかして彼女のために手に入れてきたはずだと思っている。しかし、彼は今まで、自分の愛がここまで莉亜を横柄な人間にさせてしまうとは思ってもいなかった。この時にはもう一度ならず二度でも三度でも人前で自分の面子を潰すような真似をするようになってしまった。男であれば、誰でも妻が自分の尊厳を踏みにじるような態度に耐えられるわけない!莉亜は静かに頷き、笑った。しかし彼女の目は本当の意味では笑ってはいなかった。「私に謝れって?分かったわ」彼女はゆっくりと美琴の前にやって来ると、手をあげて美琴の顔めがけてその手を力強く振り下ろした。そして何か汚い物にでも触れたかのように嫌悪感を露わにして手を拭いた。「見てた?今やっと私がこの女に手を出したのよ」その瞬間、鋭い音がオフィスに鳴り響いた。美琴は顔を覆い、何が起こったのか理解できないような顔で頭を傾げた。その次の瞬間、彼女の目にあふれ出した涙が音を立てずに流れ落ちた。「莉亜さん、そんなにあなたから嫌われてるなんて思っていませんでした。私がいなくなることで、あなたと社長の仲が良くなるのなら、喜んで仕事を辞めます」
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第45話

「今日莉亜さんは時間があるかな?」それを聞いて、莉亜はすぐに姿勢を正し、さっきまで落ち込んでいた気持ちがスッと消え、ためらうことなく返事した。「あります。朔也さん、その方の連絡先を私に教えてもらえますか?」それに軽く返事をし、朔也はすぐにその人物のLINEを送ってくれた。「直接彼女に連絡したらいいよ」「どうもありがとうございました」電話を切ると、莉亜はすぐにその相手のLINEに友だち申請を送った。その相手はすぐに申請を許可し、すぐにある場所の住所を送ってきた。【はじめまして、あなたの事は相馬さんからうかがっています。この住所にあるカフェでお待ちしていますので、三十分後にお会いしましょう】チャット画面のそのメッセージを見つめ、莉亜は指先に思わず力が入り、鼓動が激しく高鳴った。母親が残してくれた家を失わずに済んでよかった。それから三十分後、莉亜はカフェに到着して、店の前に車を駐車した。彼女は急いで車から降り、大きな歩幅で店に入っていった。窓側の席に、金髪碧眼の女性が座っていて、莉亜のほうに手招きをした。「こっちですよ」莉亜は直接彼女の目の前に座ると、丁寧な笑みを見せた。「あの、私のことをご存じなんですか?」女性はゆっくりと否定するように頭を横に振った。そして、手元のコーヒーを彼女に渡した。「相馬さんからあなたの写真を見せていただいたんです。それにしてもタイミングが良かったです。私がここで長年住んでいて、そろそろ自分の家を購入して引き続きこちらでビジネスを進めようかと思っていた矢先、数日前に海外にいる両親から連絡があって、一度帰らなければならなくなったんです。ですからこの家を手放さなくてはいけなくなってしまって」彼女の話を聞いて、莉亜の心の中で勝算が幾分か高くなり、思わず聞きたいことを口にした。「ちょっとお聞きしたいのですが、いくらでまた売りに出すつもりでいますか?」相手の女性は顎を撫でながら少しの間考えて、微笑んだ。「そうですね、最初にあなたが売りに出した値段と同じでいかがでしょうか?」その取引きが思った以上にスムーズにいったので、莉亜はためらい始めた。この女性とは知り合いではない。莉亜は不動産の売買に関してはあまりよく知らない。しかし、自分が今まで経験してきたことを考えると、普通の
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第46話

朔也は秘書の質問に直接答えることなく、視線をカフェの窓側の席に落とし、何かを考えている様子だった。それを見て、秘書は空気を読んで口を閉じ、それ以上尋ねることはなかった。そして暫く経ってから、莉亜と会っていた女性が落ち着いた様子で中から出てきて、そのまま路肩に停まっているベントレーのほうへやって来た。彼女は後部座席のドアを開けて入ってきた。「朔也、今日はあなたの手助けをしてあげたでしょ、どうやってお礼をしてくれるの?」朔也は秘書に目配せした。秘書はすぐにビジネスバッグから契約書を取り出して彼女のほうへ差し出し、丁寧な笑みを見せた。「貴社の事業について、こちらはすでに考えをまとめてあります。この契約書をまずはご覧になってください」渡された書類をざっと確認し、女性はとても興奮しているようだった。「朔也、本当に父との契約を決めたの?」朔也が軽くそれに返事し、淡々とした口調で言った。「今日俺の手伝いをしてくれた礼だと思ってくれ。具体的な内容に関しては俺の秘書からお前に連絡がいく。これ以上用がないなら、もう降りてくれないか」その言葉に女性はわざと怒ったふりをして彼を一瞥した。「朔也、やっぱり冷たいのね。もうやるべきことは終わらせたし、あなた達の邪魔はしないわ。またお会いしましょ」朔也に向けて親しげに手を振ると、彼女はドアを開けて車を降りた。秘書は何か言おうと思っていたが、バックミラーに映る社長がすでに目を閉じて座席にもたれかかっているのを見ると、言おうと思っていた言葉を呑み込んだ。「社長、これからどこに行きますか?」「会社に戻る」その言葉を最後に、朔也は秘書と話すことはなかった。……美琴を連れて病院で検査を終えて帰ってくると、潤は慎重に彼女の服をめくって薬を塗ってあげた。「今度君に対処できないことがあったら、誰かに俺を連れてくるように頼むんだ。一人でどうにかしようと考えなくていいから」潤の手を押さえ、美琴は微笑むとゆっくりと顔を横に振った。「潤、私は大丈夫よ。これくらいの傷大したことないわ。それに、あれは私の仕事だもの」彼女は一瞬言葉を詰まらせ、少し不安そうにしていた。「ただ、配当金に関して、莉亜さんが何かおかしいことに気づいたんじゃないかしら」もし莉亜に潤との関係を知られてしまったら、潤がその
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第47話

毎回美琴が、か弱いふりをしてみせれば、潤は必ず言うことを聞いてくれる。やはり、暫くの間考えてから、潤は彼女の傍に腰掛けて優しく彼女の瞳に溜まった涙を拭ってやった。「分かったよ、今日はここにいるから」そう言うと、彼は携帯を取り出して莉亜とのチャット画面を開き、素早く文字を打った。【今日会社でちょっと用があるから、帰れないんだ。先に寝てていいから】そのセリフはあまりに突然すぎたと思ったのだろう、彼はその後また付け加えた。【今夜は昼間の自分の行動についてしっかり反省してくれよ!】そのメッセージを受けとった時、莉亜はちょうど家の譲渡手続きを終えたばかりだった。彼女は皮肉な笑みを浮かべた。考えるまでもなく、彼は今夜は美琴のところにいるのだろう。あの二人の関係について、もう考えるのはやめた。ただ、自分の配当金に関しては、はっきりさせる必要がある。そのことを考え、莉亜はすぐに電話をかけた。何度も呼び出し音が鳴ってから、相手はようやく電話に出た。電話の相手は潤で、彼は鬱陶しそうな声で話し始めた。「なんの用だ?」「潤、会社の配当金の件だけど、ちゃんと話し合いたいのよ」相手に拒否するのは許さない強い口調で莉亜は言った。この時、潤は美琴に覆いかぶさる体勢で、艶やかに頬を赤く染めた美琴の顔を見つめていた。彼は眉間に皺を寄せて、莉亜の話など適当にあしらった。「何かあるなら、帰ってから話してくれよ。今はとても忙しいんだ。君と話している暇なんてない」言い終わると、彼はそのまま電話を切った。喉元まで来ていた言葉を強制的に呑み込むしかなくなり、莉亜はだんだん冷たい目つきになっていった。この件を処理する暇がないと言うのであれば、自分が直接相馬家に直談判に行くしかない。夜遅く、莉亜はある電話の音で目を覚ました。そして、ベッドサイドテーブルに置いていた携帯を手に取って見た。この時すでに夜中の一時だった。潤がどうしてこんな時間に電話してきたのだろうか。そんな疑問を抱きながら、彼女は少しの間ためらってから、最終的に電話に出ることにした。その電話をとった瞬間、騒がしい音楽が電話越しに聞こえてきた。莉亜は眉をひそめ、無意識に耳元から携帯を離した。「潤、どこにいるの?」しかし、電話の向こうの騒々しい音がすぐに彼女の言葉をかき
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第48話

電話から聞こえてくる声はここで消えた。莉亜は引き続き会話を聞いていようと思っていたのに、電話は突然そこで切れてしまった。携帯を握る手に無意識に力が入り、全身の血の気が引いて冷たくなっていくのを感じた。胃がムカムカしてきて、莉亜はすぐに立ち上がりトイレに駆け込むと、洗面台に手をついて、今夜食べた物を全て吐き出した。なにが幼なじみだ。なにが運命の相手だ。彼女からしてみれば、それらは全て過去の亡霊だ。二人が小さい時に知り合って、十数年間愛情を育んできたというのに、ある日突然現れた女に結局は敵わないのだから、これ以上の滑稽話などない。莉亜は自分がどうやって部屋に戻ったのか記憶にない。ただ、すでに麻痺してしまった心が、まるで底のない深淵に落ちてしまったかのようで、思っているような痛みは感じなかったが、ものすごく重たく感じられた。彼女はゆっくりと目を閉じた。壁にかかっている時計の針の音が彼女の鼓動と重なっていった。闇に閉ざされたこの日の夜、莉亜は心に誓った。もし過去に戻るチャンスがあって、潤と美琴がオフィスで不倫しているを目撃したら、最初から潤を許さない。人の本性は一生変えることはできない。翌日、莉亜は朝早くに起きた。彼女は全ての資料を整え、着替えを済ませてそのまま相馬家へ直行した。まさか莉亜が連絡もなしに来るとは思っていなかったのだろう、執事は丁寧に彼女に挨拶をすると、彼女が家に入るのを遮った。「莉亜様、奥様は今朔也様とある大切なお話をされている最中でございます。今は都合が悪いかと」そんな彼を冷たく一瞥し、莉亜は落ち着いた様子で手に持っていた書類を執事の懐に押さえつけた。そしてわざとらしい笑みを浮かべた。「彼女に伝えて、こちらも同じく大切な用事だって」執事はまだ何か言いたげにしていたが、その書類の中身が分かると、うっすらと目を細めた。「莉亜様、少々お待ちください。先に奥様にご報告いたします」それからおよそ十分ほど経って、執事が朔也と一緒に出てきた。そして玄関にいる彼女に気づくと、朔也は礼儀正しく彼女のほうへ会釈をし、隣にいる執事に向かって言った。「見送りはいい」「かしこまりました、朔也様、お気をつけて」相馬家の執事は恭しく彼にお辞儀をし、それから莉亜に向かって道を開けた。「莉亜様、どうぞお入りくだ
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第49話

「たったこれだけの資料で、相馬家があんたから株の配当金を横取りしたとでも言いたいわけ?笑えるわ!」薫子はテーブルの上にある書類を床に払い落した。「もし、配当金のデータに問題があると言うのなら、会社の財務部に文句つけに行ったらいいでしょ。私はもう会社のことには関わらないと決めているのに、どうして私があんたに代わって出ていかないといけないわけ?」薫子の返事に、莉亜はかかったと思い、気づかれない程度にニヤリと口角を上げた。「お義母さん、もう一つお話したいことは、その財務部の部長である生田美琴さんの事なんです」その言葉に、薫子は驚き、訝しげに眉をピクリと動かした。「生田美琴?その人なら、会社で何度か会ったことがあるけど。なに?この件と彼女が関わってるとでも言うわけ?」「彼女が財務部長であることをうまく利用して、データ改ざんをしたんです。この件が発覚してから頑なにそれを認めようとせず、その責任の全てを潤になすりつけようとしているんです」莉亜は冷ややかな目つきで薫子を見つめ、その場の空気が凍りつくような冷たいオーラを放った。「お義母さん、このような人を会社に留まらせておくべきでしょうか?」「なんですって?」息子の話になり、薫子はすぐに立ち上がって半信半疑で莉亜をじろじろと見つめた。「つまり、全てその財務部長の仕業だと言いたいのね?」莉亜は迷うことなく頷いた。「そうです。お義母さん、ご存じないかもしれませんが、生田部長が会社に入ってからこの数年間。会社の収支報告書は実際の計算と少し合わない時がよくあったんです。それに気づいた時、潤には報告していたんですが、彼はどうしても彼女を庇おうとします。彼女は会社の古株だし、きっと何か誤解があるって言うんですよ」そこまで話すと、莉亜はどうしようもないといった様子でため息をつき、これは相馬家のためを思って言っているのだという態度を見せた。「私は相馬家に嫁いだのですから、相馬家の一員でもあるでしょう。それなのに、黙って会社がこの女一人のせいで潰れるのを見ているわけにはいきませんよ。床に散らばった資料は、私が集めた証拠の全てです。お義母さん、私の話が信じられないようでしたら、ぜひ調査してみてください」その言葉を聞き終わると、薫子の顔から怒りがスッと消えて、焦りの色に変わった。彼女は近くにいる執事に合図
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第50話

潤は急いでオフィスに入ると、床に倒れ込んだ美琴の体を支えて起き上がらせ、両手を広げて彼女を背中の後ろに庇った。彼は彼女を心配するその様子を一切隠そうとしなかった。「母さん、どうして突然会社に来たんだよ?生田部長は何年も相馬グループのために働いてきたんだ。彼女の会社への貢献は少なくない。それなのに母さんは意味もなく勝手に彼女をクビにするって言うのか?そんなことをしたら、他の社員からどう思われる?」薫子は始終、怒りに燃える目で美琴を睨みつけていて、高圧的に言った。「あんた、この女にまんまと騙されてるのよ!なにがなんでも、この女を相馬グループに置いてはおけないわ!」潤がまた反論しようとしたところに、美琴が出てきて二人を止めに入った。彼女は辛そうに鼻をすすり、涙がこぼれ落ちるのを必死に耐え、嗚咽混じりの声で言った。「奥様、突然私をクビにするなんてわけが分かりません。きっと何か誤解なさっているんです。この数年間、私は必死に会社のためを思って働いてきました。絶対に会社に不利益が出るようなことなんていたしません」潤はその彼女に合わせるように頷いた。「母さん、生田部長が今まで会社のためにやってきたことを俺はこの目で見てきたんだ。一体何があったのかは分からないけど、彼女をクビにするってんなら、その理由を教えてもらわないといけないだろ?」冷たく鼻で笑い、薫子は鞄の中からあの資料を取り出して、デスクの上に叩きつけると、冷ややかな顔をして言った。「会社にこんな大きな問題が出たっていうのに、社長として、今まで何も知らなかったというわけ?今朝、莉亜さんがうちに来て、生田美琴という人物が会社の需要なデータに小細工をしたと教えてくれたのよ。これは彼女がデータを改ざんした証拠よ、よく見てみなさいよ!」デスクの上の書類を手にとり、ざっと内容に目を通した潤は、顔をだんだんこわばらせて、手を握りしめた。「この件は、生田さんとは関係ない」まさか他人を庇うような言葉を息子の口から聞くことになるとは思っていなかったのだろう、薫子は息もできなくなるほどの怒りで顔を真っ赤にさせた。「あんたは黙ってなさい!この女のせいじゃないと言うのなら、まさかこの件は本気であんたがやったとでも?」潤が唇をかたく閉ざして黙っているのを見て、薫子は何かを悟ったらしく眉間に皺を寄せた。「潤
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