All Chapters of 私の代役を愛したことを一生後悔すればいい: Chapter 21 - Chapter 30

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第21話

会議が終わりにさしかかった時、莉亜は適当な言い訳をして先に会議室を出ていった。彼女が地下駐車場に来てみると、やはり朔也の車が入り口付近に止まっていた。朔也は到着した時に盛大な出迎えは断わっていたし、帰る時も同じく潤の見送りは拒否するだろう。莉亜は静かにそこで待っていた。さっきの会議室で起きたことを思い出し、頭の中に突然玲衣の話が蘇った。「朔也さんと結婚していればよかったのに」その話を思い出したことに驚き、すぐにそんな下手な考えは消してしまった。この時、外から誰かの足音が聞こえてきた。朔也と夏樹がやって来たのだ。莉亜は車の後方にいたので、夏樹は彼女に気づかず油断して話し始めた。「弟さんは一体どういうつもりなのでしょうね?まさか財務部の部長を自分の隣に座らせて、社長夫人である莉亜様を適当な場所に座らせるなんて。まさかあの女性、彼と何かあるのでは」莉亜はその話を聞いてしまい、出て行けなくなってその場に立ち尽くしてしまった。挨拶すらするのも気まずくなってしまった。その時ちょうど朔也が車の傍にやって来ていた。夏樹は莉亜に気づくとかなり驚き、思わずしどろもどろになってしまった。「しゃ、社長夫人、どうしてこのような場所に?」莉亜は気づかれてしまったので二人の前に出てきた。一方朔也は彼女が現れることを予期していたかのように、全然驚いた様子を見せなかった。莉亜は軽く咳払いをした。「朔也さん、あの、私……」彼女が言い終わるのを待たずに、朔也はマイバッハの後部座席のドアを開けて横目で彼女を見ると、あっさりとこう言った。「どうぞ」莉亜は言おうと思って準備していた言葉が全て喉元に引っかかって出てこなかった。彼女は一瞬戸惑い、唇をぎゅっと結び、後部座席に乗り込んだ。車内には微かにお香の良い香りがして、莉亜はそれでかなり心が落ち着いた。朔也と莉亜にはたった拳ほどの距離しかなかった。急な展開に彼女はかなり緊張してしまっている。莉亜が少し顔を傾けると、視界に朔也が袖のボタンを外している様子が映った。何ものにも囚われない自由さと優雅さを兼ね備えている男だ。次の瞬間、彼の目線と交わった。「俺に何か用だった?」莉亜は我に返り、カバンを持つ手に力を込めた。彼女は朔也とは数年に三回しか会ってないし、直接お願
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第22話

莉亜は言い終わると、頬を少し赤くさせた。潤が朔也に劣っているとはいえ、それでも彼は涼ヶ崎では有名な御曹司だ。そんな彼が調べられないことなどあるわけないだろう?朔也を持ち上げるような言い方は、どう考えても嘘っぽく聞こえてしまったはずだ。莉亜はまた緊張してきた。一体朔也からどのような返答があるのか予想がつかない。莉亜が下を向いている時に朔也が口角をニヤリと上げて、すぐに笑みを消したことに彼女は全く気づいていなかった。「その資料を俺に送ってくれ」朔也は携帯を直接差し出してきた。莉亜は彼の行動の意味するところが分からずに、少し呆然としてしまった。そこへ彼のほうから促してきた。「連絡先、教えてくれたほうが連絡しやすいから」莉亜は夢から覚めたばかりのように、ハッとして彼の個人携帯を受け取った「携帯番号がいいですか?それともLINE?」彼女が尋ねると、朔也はちらりと見て、たった一言だったが穏やかな声色で返事をした。「どちらも」莉亜は驚き、視線を下に向けて携帯画面に映るQRコードをスキャンした。友だち申請をしてから、下を向いたまま家の場所や今回の件に関する詳細を朔也に送った。莉亜が携帯で字を打つことに集中していると、車が突然大きく揺れた。彼女は意識が他所に向いていたし、急なことだったので、その衝撃で運転席のほうへ前に倒れた。目の前の座席にぶつかる瞬間、大きな手が突然伸びて、彼女の腕を掴み、体を引き戻してくれた。そして彼の温かな懐の中に倒れ込んでしまった。するとその瞬間、あのキリっとした爽やかな香水の香りが鼻に飛び込んできて、体全体を包み込んだ。彼女は頬を彼の熱い胸元にペタリとつけ、朔也の力強い鼓動をしっかりと感じ取った。朔也は腕で彼女を抱きしめ、その手はちょうど莉亜の細い腰の上に添えられていた。莉亜はドキドキと心臓を加速させた。彼女はこれまで潤以外の男とは一切スキンシップなどしたことがない。それにこの人は潤の兄なのだ。潤は少しの間彼女を離さなかった。彼は顔を下に向けて、意味深な目つきで真っ赤になった彼女の耳を見つめた。その瞳は深海のように深く底が見えない。「しっかり座ってて」この時の朔也の声はいつもより幾分かかすれていた。ゆっくりと彼女を抱きしめる手を離していった。顔を真っ赤にさ
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第23話

潤と美琴は同時に莉亜のほうへ顔を向け、驚いた様子だった。美琴はさらに笑顔になり、すぐに立ち上がるとわざと驚いたふりをして莉亜を迎えた。「莉亜さん……どうしてここに?さっきの電話の相手って、まさかあなただったの?急いでそのアクセサリーを売ろうとしているんですか?」潤の顔色が一変し、立ち上がってすぐにやって来ると、莉亜が手に持っているジュエリーの箱を見つめ、不快そうに、また信じられない様子で見つめた。彼が莉亜に贈った物なら、なんでも彼女は大切に使っていた。それなのに今は彼が昨日贈ったばかりの物をすでに売ってしまったというのか。「これは一体どういうことなんだ?」潤は莉亜の手にある箱を奪い取り、開けて中身を確認してから、不機嫌そうにしていた。「昨日の夜君にあげたばかりなのに、次の日にはもう売っぱらったってことか?」彼は明らかに傷ついた様子だった。彼のそんな反応に莉亜は一瞬驚き、また可笑しく思えた。ただの定番商品で彼女を手懐けようとし、最も欲しいと思っていた限定版を美琴に渡したくせに、どうして売ったのかと詰問してきたのだ。莉亜は傍にいる美琴を一瞥し、この時やっとどうして昨夜あんなに早く商品が売れたのか理解した。莉亜は潤の質問には答えず、ただ冷ややかに彼が座っている場所をちらりと見た。「好みじゃないから売っただけよ、だからなに?だけど、さっき私は会社を離れたばかりなのに、あなた達は二人っきりでお茶しに来たのね?」潤はその言葉を聞くと急にドギマギして、無意識に莉亜から視線を外し、さっきまでの勢いが弱まった。「俺たちは……」彼は美琴を一瞥した。「今日彼女と一緒に来たのはビジネスの話をするためで」美琴が立ち上がり、女性らしい優しい声を出した。「莉亜さん、誤解しないでもらいたいんです。確かにここへは重要な顧客に会いに来たんですよ。それにちょうどあなたが今持っているそれも受け取ろうと思って、社長に貴重な時間を割いてもらえないかお願いして、商談に付き添ったわけです」莉亜は冷ややかに美琴を見つめた。「どんな商談?会社で顧客に会わずに、こんなところまでやって来て、商談するっていうの?」潤は眉をひそめ、低い声を出した。「莉亜、もう十分だろう。俺がやる事を一つ一つ君に説明する必要なんてないはずだぞ。そんなにピリピリする
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第24話

莉亜は彼と言い合うのも面倒だった。「だったら、お金を振り込んでちょうだい。お二人は引き続きお仕事をどうぞ、もう邪魔しないから」莉亜は「お仕事」という言葉を強調し、言い終わると踵を返して、一度も二人のほうを振り返ることなく、その場を去っていった。「莉亜!」潤は追いかけようとしたが、美琴に袖を引っ張られてしまった。「潤、私といてくれるって約束でしょ……」莉亜の足は早く、すでに二人の会話は聞こえていなかった。莉亜はすぐにタクシーを呼び、気持ちを落ち着かせて言った。「相馬グループまでお願いします」彼女はあのクズ男とクソ女のせいで気分を害している暇などない。会社に到着すると、すぐに財務部に向かった。彼女は美琴のオフィスのドアを押し開け、すぐにやって来た副部長に指示を出した。「配当記録をすぐに出してちょうだい」「はい、今すぐ社長に確認して……」「社長に確認?私は会社の株主よ、自分の配当金を調べる権利さえもないと言うの?」莉亜は冷ややかに詰問した。副部長は額に冷や汗をかいた。「ええ、ええ、それでは今すぐにお調べ……」「棚に財務記録のファイルがあるから、それを持ってきてくれるだけでいいわ。紙のやつよ」莉亜は彼には社長に通達する隙を与えなかった。それでどうしようもなく、副部長はファイルを探して、かしこまった様子で彼女に手渡した。莉亜はそのファイルを捲り、全て見終わると、両手をわなわなと小刻みに震わせた。ファイルをパタンと閉じ、デスクの上に放り投げた。それで配当金の詳細を見せようともしないし、二人の配当金を合わせていたわけだ。彼女の四半期ごとの収益の中から、潤は二億をかっさらっていっていた。ただ彼女に気づかれないようにするために、二人一緒に合わせた配当から抜き取っていたのだ。毎回奪っていた二億の行先なら言うまでもなく、あの女だ。莉亜は呼吸が苦しくなり、今までで感じたことのない気持ち悪さが込み上げ、吐き気を催した。彼女は胃のあたりを押さえ、ゆっくりと息を吐き出し、ファイルをまた手に取り引き続き調べた。そして次に、共同で開設している口座の記録の中に、明らかな証拠となる取引き記録が目に映った。彼女が続けて調べていくと、Fancy fairyという高級ブティックブランドを見つめた。このブランドの会社
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第25話

莉亜は急いで家に帰ると、弁護士に電話をかけた。「資産調査にはあとどのくらいかかりますか?具体的な時期を教えてもらえませんか?」「おおよそ半月です。私はすでに財務のプロを雇いました」半月……それを聞いて莉亜は一分一秒でも待っていられなかった。彼女は眉間を揉みほぐした。「潤の資産に、ここ数年間に私が得た株の配当金額についてもしっかりと調べ上げてください」昔、潤が会社を設立する時に裏で支えていたのが莉亜だった。ここ数年間彼は一切損することなく、莉亜の金で別の女を養っていたわけだ。離婚する時にはこの金を一円たりとも余すことなく回収してやる。この日の夜。一階の玄関が開く音が聞こえた。莉亜は潤が帰ってきたのだと思うだけで吐き気がし、パソコンを消してベッドに横になり、寝たふりをした。すぐに潤は使用人に莉亜がどこにいるのか尋ね、二階に上がってきた。部屋のドアが開いた時、莉亜はピクリとも動かず、窓の方を向いて寝たふりをしていた。そして足音が近づいてきた。彼女ははっきりとした酒の匂いが嗅ぎ、眉をひそめた。「寝たふりはよせ、起きてるんだろう」潤は苛立った声を出し、莉亜の体を自分のほうへ向かせて、何を考えているのか読み取れない表情で彼女にキスをしようとした。莉亜はそれをすぐに躱し、冷ややかな瞳で彼を睨みつけた。「酔ってるならお風呂に入ってきなさいよ。酒のせいでおかしくならないでよね」おかしくなるという言葉を聞き、潤は体を硬直した。彼は顔を暗くし、息を荒げた。「ちょっとくらい俺にいい顔ができないのか?あの限定商品が手に入れられなかったから、それに生田さんと一緒に会社の外で商談してたから、ヤキモチ焼いてるのか?」莉亜は皮肉を込めて言った。「そんなことくらいで私があんたなんかにヤキモチ焼くわけないでしょう」「だったら、どうしてずっと生田さんに当たるんだよ?彼女が一体何をしたって言うんだ?最近の君は分別ってものを知らないよな」潤の言葉の中には抑え込まれた不満が満たされていた。莉亜はその言葉に苛立ち、静かに彼を見つめた。「あなたがいつ私にその『分別』ってやつを要求し始めたのよ。潤、自分が言ったこと、覚えてるの?」潤は言葉を詰まらせた。彼は、莉亜にはお姫様のようにいくらでもわがままでいていい、ちょっとくらい
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第26話

潤は莉亜の手首を放さないようにきつく握りしめ、彼女の頭の上に押さえつけた。それから、自分のほうへ目線を向けようと強引に彼女の顎を押さえた。彼女から憎悪の目で睨まれると、彼は心がチクリと痛み、無理やりにキスを迫った。彼は何が何でも自分の欲求を満たそうと意固地になっている。莉亜がいくらあがこうとも無駄だった。まるで底なしの沼から抜け出すことができないような絶望感に陥り、彼女は目尻からスッと涙を流した。頬に伝うその涙の温度に気づき、潤はとっさに莉亜から離れた。そしてこぼれ落ちる彼女の涙を慌てて拭い、さっきまでとは打って変わって優しい声になった。「莉亜、泣かないで。さっきは興奮しちゃって自制が効かなくなって君の気持ちを考えなかった。君のことが好きすぎて、我慢できなかったんだ」すると彼は彼女の額にキスをした。そう言ってはいるものの、彼は唾をゴクリと飲み込み、その欲望を捨てることができないようだった。彼はただ何度も優しい態度に変えて、穏やかに彼女を落ち着かせようとした。「莉亜、確かにここ最近は君のことを構う時間がなかったよ。俺が間違ってた。これからは君の希望を全て叶えるから、今回だけはさっきみたいに抵抗しないで、受け入れてくれないか?」莉亜はこの二年間「夫」として傍にいた男を冷ややかな目で見つめ、冷たく言い放った。「潤、さっさと放してよ」彼女の本心に気づいていないのか、潤はただ莉亜がこの状況に慣れないだけだと思い、一歩も引こうとしない。「莉亜、激しくはしないからさ」彼は再び彼女の唇にキスをしようと試み、その手はせわしなく彼女のナイトウェアをめくり、下のほうへ這わせていった。心の底から邪な炎が燃え上がり、彼はもうこれ以上待てなくなっていた。しかし、口にチクリとした痛みが走り、濃い血の味が口の中に広がった瞬間、その欲望は断ち切られた。潤はその痛みで顔を上げた。さっきまでの莉亜を愛している様子は消え、冷たい態度に変わった。「莉亜、一体どうすれば君は満足してくれるんだ?今まで、俺との仲なんかどうでもいいって態度だったし、そして今、スキンシップも避けようとしているのは君のほうだぞ。知ってるだろうけど、俺は理不尽な人間が一番嫌いなんだ」すると莉亜は鼻で笑い、凍りついた表情で彼を見つめた。「ごめんね、今生理中なの」その言
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第27話

莉亜はただ考慮するという返事だけ残し、それからは一切連絡をしていなかった。莉亜は微笑んで首を横に振った。そしてある書類を店長の前に差し出した。「この資料に書かれている人を、ご存じですか?」その資料を手に取り、ざっと目を通して、店長は真剣な表情で考えていた。「この方は、生田様ではありませんか?生田様は数カ月前にうちの会員になられた方ですが、何か問題でもありますでしょうか?」莉亜は笑い声をあげると、再びカバンの中から口座の取引き記録を取り出してテーブルに置いた。「生田さんのカードに入っているお金は、夫が私のカードから無断で取り出したお金なんです。なので、今すぐ彼女の会員資格を剥奪していただきたいんです」視線をテーブルの上に置かれた取引き記録に落とすと、店長の顔はどんどん険しくなっていった。「相馬様、ご安心ください。この件は我々がすぐに処理いたしますので」すると彼女はすぐに携帯を取り出して電話をかけ始めた。「今すぐ会員番号の下四桁9002の顧客のカードにはあと残高がどのくらいあるか調べてちょうだい」電話の向こうが何を言ったのかは分からないが、店長は唇をきつく結び、真面目な表情で言った。「彼女のカードの残高をそのまま返金して。今日から、この生田さんという客は我々の店舗の会員から除外するわ。それに全国にあるFancy fairyの店舗で買い物をするのを禁止して」電話を切ると、彼女は恭しく莉亜に向かって頭を下げた。「相馬様、全て処理いたしました。ですので、今後我が社とデザイン契約を……」湯飲みに入っているお茶を一気に飲み干すと、莉亜は立ち上がり、またその誘いを断わった。「すみません、今はまだやらなければならないことがあって忙しいので、そちらのお誘いを受けることは難しいかと」莉亜に断われることは承知でもう一度頼んでみた店長は惜しそうにため息をついた。「相馬様、社長も以前お伝えしたように、相馬様がよろしければ、我らFancy fairyはいつでもあなたを喜んでお迎えしますので。では、店の外までお見送りいたします」「そんな、結構です。店を出る前にちょっと商品を見たいので」店長にいくつか挨拶の言葉を交わすと、莉亜はその場を離れた。店の中を見て回り、莉亜は陳列棚にあったドレスを気に入り、カードを取り出して支払おうとした。する
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第28話

店員のその言葉が疑うまでもなく美琴に恥をかかせることになり、彼女はその瞬間冷たい態度に変わった。「そんなバカな、二日前にここで買い物したばかりなのに、どうして使えないのよ!そっちのシステム異常でしょ!もう一度ちゃんと調べてよ!」美琴はこの機に、莉亜に恥をかかせてやろうと思っていたが、それがまさか恥をかく羽目になったのは自分のほうだった。会社にいる時に美琴は思い通りに行動できないことが多い。そして今会社の外で、恥をかかされるわけにはいかなかった。何度試しても、システムにはさっきと同じようにカードが無効だと表示された。店員は礼儀を持って、美琴に頭を下げた。「申し訳ございません、生田様、何度も試してみましたが、お客様のカードは確かに無効のようです。このドレスを相馬様の代わりにお支払いされますか?」莉亜に怪しまれないように、潤は日頃から美琴への振込は不自然にならないよう高額にはしていなかった。しかし、自分で言ってしまったものだから、美琴はもちろん自分で自分に恥をかかせるような真似はできない。彼女は店員の手から会員カードを受け取り、居心地悪そうにしていた。「もしかして、最近ここでかなり消費してしまったから、限度額にでもなってしまったのかもしれないわ。ちょっと夫に電話して聞いてみるから、待っていてちょうだい」店員は職業上の客に対するきちんとした笑顔を見せ、微かに頷いた。「かしこまりました、生田様」明らかにおかしい状況を見て、美琴の傍にいる女性が肘で美琴を突くと、探るように尋ねた。「ちょっと、美琴、一体どういうことなの?今日はFancy fairyで好きなだけ買っていいって話じゃなかったの?今の状況って……」彼女の話を遮るように、美琴が冷ややかな目つきで睨みつけた。「この会員カードは前、夫が使っていたの。ドレス一着くらい、別にどうってことないわ」そう言い終わると、彼女は携帯を取り出して、後ろを振り返りもせずに店の外へ出て行った。潤の番号に電話をかけて、美琴は鼻を何度かすすると、わざと相手に可哀想に聞こえるように話し始めた。「潤、来週パーティーに参加しないといけないって言ってたよね。だからFancy fairyであなたのためにスーツセットを選びたかったんだけど、店員から会員カードは無効になっているって言われてしまったの。
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第29話

しかし、この時莉亜は潤に言い訳をさせる隙を与えなかった。「さあ、仕事の続きをして、これで電話は切るわね。必要な服のデザインを送っておいて、店員さんに頼んで用意してもらっておくから」そう言い終わると、すぐに電話を切ってしまった。心の中で彼を嘲笑い、莉亜は立ち上がって近くにいる店員のほうを向いた。「あのドレスは家に送ってください」「かしこまりました、相馬様」店員は非常に丁寧な態度で頷いた。そして颯爽と美琴の横を通り過ぎる時、莉亜は足を止め、美琴の肩をトントンと叩いた。「生田さん、どうやら、旦那さんはあなたが言うほどあなたのことを愛してくれていないようね」莉亜は美琴の耳元に近寄り、小声で言った。「あなたのご厚意には感謝するわ。だけど、お金がないのにさっきみたいに恥をかくようなことはしないほうがいいわよ」言い終わると、彼女は二度と振り返らずに店を出ていった。店から出てもそのまま帰るのではなく、VIP顧客用の休憩室に行った。ここで潤があの女にどこまでしてやるのか観察してやろう。この時、美琴はもう卒倒してしまいそうなくらいに怒りを爆発させ、両手をきつく握りしめて顔を不機嫌そうに歪めていた。彼女は速足でカウンターまでやって来ると、両手をバンッとテーブルについた。「さっきのあのドレス、私も全く同じものをちょうだい」店員は申し訳なさそうに微笑んだ。「申し訳ございません、生田様、あのドレスは只今在庫が切れておりまして」それに納得できず、美琴は銀行カードを取り出すと、それをカウンターに叩きつけた。「あの女が銀行のカードで支払いできるってんなら、私だってこれで払うわ。彼女が支払った金額の二倍だって払えるんだからね!あのドレスを今すぐ私に譲って包んでちょうだい!」店員はさっきまでと同じ態度を貫き、辛抱強く説明した。「生田様、我が社の規定により、会員資格を取り消された方には、二度と店舗で購入することができなくなっております。それに、相馬様は長年のお得意様でもあります。相馬様の会員ランクになりますと、会員カードでお支払いいただく必要がないのです。ですので、お分かりいただけますか」すでに腸が煮えくり返るほど怒りを爆発させていた美琴は、店員のその言葉を聞いて、我慢の限界に達してしまった。「今日はこの店は一体どういうことなの?あんたら
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第30話

莉亜が再びここに現れるとは全く思っておらず、潤は反射的に美琴に掴まれている手を引っ込めた。来た時には、明らかに莉亜の姿はなかったのに。彼女はもう帰ったかと思っていたら、まさかの不意を突かれてしまった。潤は慌てて莉亜の手を掴み、イライラしながら説明した。「莉亜、君がここで選んでくれるって言ってたろ?だから、俺も一緒に選びたいと思ったんだよ。ちょうど店に入ったら、生田部長が店員と何か言い争っててさ、同じ会社の仲間なんだから、お互いに助け合わないといけないだろ?」無理やり堪えていた吐き気がまた込み上げてきて、莉亜は彼から手を引き戻すと、皮肉の笑みを浮かべて美琴のほうを向いた。「そうなの?本当に偶然だこと。さっき、生田さんが旦那さんに電話しているところも聞こえたわ。彼に会員カードの件をどうにかしてって内容だったけどね。それで、あなたが今処理しようしているから、知らない人から見ると、彼女のその『夫』はまるであなたのようじゃないの」その言葉を聞いて、潤は微かに顔色を変え、少し表情をこわばらせた。「莉亜、また変なふうに勝手に考えているんだろ?涼ヶ崎の誰もが君が俺の妻だってことを知ってるじゃないか。生田さんにはちゃんと旦那さんがいるんだから、そんなふうに嫉妬してるからって、他人がいる目の前で俺たちの沽券にかかわるような話はしちゃだめだろう」彼は顔を暗くし、責めるような目つきで睨み、なんとか狼狽する自分の気持ちを落ち着かせようとしていた。この状況に、美琴は腹の底から嫉妬の炎が燃え上がり、不自然な笑みを作り出してその場を収めようとした。「夫は今日大切な会議があるから、来ることができなかったんです。莉亜さん、そんなふうに私と社長のことを誤解しないで、周りに変な噂をされないように気をつけたほうがいいですよ。社長が莉亜さんのドレス選びに付き合うのでしたら、私はこの辺で失礼いたします」そう言い終わると、美琴は連れてきた女性と一緒に憤慨した様子で去っていった。彼女たちの後ろ姿が遠ざかると、潤は形容しがたい焦燥感に駆られてしまったが、莉亜がまだここにいるので、その気持ちを抑え込むしかなかった。「莉亜、ドレスは決まった?あと何着か選んだら?今日は俺が支払いをするからさ」彼のその嘘っぽい様子が滑稽でたまらなかった。潤は莉亜の目の前で良い夫を演
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