All Chapters of 私の代役を愛したことを一生後悔すればいい: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

家の中には警備員が入っていて怒鳴り声が、そしてその後、女の驚いた叫び声が聞こえてきた。大勢の人間が開かれたドアからバタバタ駆け込み、リビングはすでに多くの人が押し合いへし合いして混乱していた。この時、莉亜は車の中で瞳を暗くさせ、その心はだんだん冷徹になっていった。本当に不幸中の幸いとでも言うべきだろうか。結局、莉亜は美琴には感謝すべきだと思った。美琴がここに住んでいなければ、どうやって潤にこの家を諦めさせればいいか悩むところだった。潤は莉亜の機嫌を取るために、絶対にこの家を譲るだろう。そう思うと、彼女の美しい目はニヤリと弧を描いた。気分はなかなか良い。そしてすぐに潤がまず中から出てきた。管理会社のスタッフは彼が家主であると分かり、彼と揉み合いになることはなかった。潤は黒のスーツを優雅に着こなし、襟元は緩めで肌が見えていた。ネクタイは一体どこへいったのやら。潤は顔を真っ赤にさせて、自分の腕を掴む警備員に迫った。「管理会社の責任者に訴えてやる!こんな夜更けに俺の家に押しかけてきて、一体どういうつもりだ?」彼は全身から周りを威圧するオーラを放ち、怒鳴った。「放せ!彼女から離れるんだ!」莉亜は少し目を細め、リビングから逃げ出してきた美琴を見た。美琴は大きな紳士用の白いシャツを着ていた。ぶかぶかのシャツはなんとか太ももを覆っていて、ボタンを一つ掛け違えているので、首元が大きく開いていた。彼女は驚きと恥ずかしさ、そして怒りを滲ませていた。懸命に手で服を下へと引っ張り、周囲の視線から逃れようとしていた。この時間帯、別荘地付近で犬の散歩をする住人、遅くに帰ってきた住人の注目を集めた。周りには人だかりができて、彼らはコソコソと話しながら指差してきた。「え、あれって相馬社長じゃないの?」「あの女って誰だよ?相馬夫人じゃないみたいだけど……」「不倫現場ってこと?すごい場面に遭遇しちゃった」「見てよ、あの人。服もちゃんと着てないわよ……」探るような声がうるさい蚊のように耳にざわつき始めて、潤は一気に不機嫌になった。美琴は泣きそうに唇を噛みしめて、穴があったら入りたいくらい羞恥心に襲われていた。莉亜はこの時、やっとアクセルを踏み、落ち着いた様子で大勢の前に現れた。彼女の車に気づくと、潤は明らかに動揺し
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第12話

美琴は悲劇のヒロインぶって、自分は無実だと言わんばかりだった。彼女はそっと服の裾を下方向に押さえ込んでいた。セクシーで魅力的だ。傍にいた潤はその様子を見て眉間にしわを寄せた。莉亜の目には、それが気持ち悪く映っていた。莉亜は動じず嘲笑し、鋭い眼差しで美琴を睨みつけた。「行くところがないから、着る服もないってこと?今着ているその白いシャツはどこからやって来たのでしょうね?」周りの彼女を見る目つきが変わった。この状況で下手なことを言えず、潤は唇をしっかりと閉じていた。しかし、この状況でも潤は忙しそうだ。美琴をじろじろと見つめる野次馬たちに警告するような視線を投げていた。潤に睨まれた者はみんなスッと視線を外した。莉亜は心にぽっかり穴が空いてしまい、怒りも込み上がってきた。この期に及んでもまだ潤は美琴を守っている。美琴は着ているシャツを整えた。「出てきた時に服も濡れちゃって、それで社長が服を貸してくださったんです」そしてすぐ、相手を責めるような厳しい口調で莉亜に向かって言った。「でも、莉亜さん、どうして管理会社の人を呼んできたんですか?こんな騒ぎになって、私がどうなろうと構いませんが、社長にこんな恥をかかせるような真似をしたんですよ。ご近所さんから疑いの目で見られて、彼に悪い影響が及ぶでしょう?」潤はその言葉を聞くと、やはり眉をひそめた。彼は自分は何も間違ったことをしていないという顔で、不満そうに莉亜を責めるような目になった。今のこの見るに堪えない状況を作り上げたのは、ほかでもなく莉亜だ。この時、美琴は何を言われても負けじと堂々としていて、潤の瞳は完全に冷えきっており、莉亜の行動に全く理解できず非難する表情をしていた。莉亜はこんな二人を一瞥した。彼女は口角を上げて言った。「生田部長が夫と喧嘩したからって?この家は私のものなのに、私の許可なく勝手に住んで、しかもちょうど都合よく服が汚れてしまったわけ?ねえ、そんな言い訳、通用すると思ってるの?」莉亜は美琴の返事を待たずに、突然口調を変え確信を持って言った。「どんな理由があったとしても、他人の家に不法侵入したことには変わりないわ。何かなくなったものがないか、一つずつ私が確認するから。生田部長、あなたが勝手にここに侵入したのだから、明日清掃会社を呼んで隅から隅まで綺麗に
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第13話

潤は全身を硬直させた。莉亜は話が終わると、彼を一瞥もすることなく、自分の車のほうへ向かった。潤は助手席に座って莉亜と一緒にここを離れたかったが、車に乗り込んだ莉亜はすぐにアクセルを踏み込み、さっさと去っていった。ガソリンの排気ガスの匂いが鼻に刺さり、潤は顔を覆った。そして彼女が去っていった方角を不安そうに凝視していた。莉亜はこの件を疑ってはいないのだろうか。ただ家を売ればそれで気が済むのか?「潤……」美琴が寒そうに全身を震わせながら、子猫のように弱々しく彼の名前を呼んだ。潤はこの時やっと我に返り、彼女のほうへと歩いていった。曲がり角で莉亜はバックミラーで後ろをちらりと確認した。彼女は潤が管理会社に帰るように叱責し、コートを脱いで美琴の肩にかけるのを見た。莉亜は視線を前方に戻し、異常なまでに冷静になっていた。翌日、莉亜は潤がサインした書類を持って、不動産屋に査定に来てもらい、あの家を無事売りに出した。もちろん他人にその家を買われてしまわないように、その家の売却価格は二倍の値をつけた。午後、不動産屋が電話をしてきた。その声は喜びに満ちていた。「売れました!嘘みたいです、お客様。かなり利益が出ましたね!あの価格でもすぐに購入者が現れたんですよ。しかも、その方は値段交渉など一切なしだったんです!」莉亜はニヤリと笑った。「それはよかったです。その方は風間玲衣という人でしょうか?」「違います」不動産屋は答えた。「匿名の謎のお方なんです」莉亜は驚いたように眉を上げた。「匿名の方?」「その通りです。お客様の中には資産情報などを漏らしたくないため、匿名で購入される方もいらっしゃるのです」不動産屋は何が起きているのか分かっていないようだった。「おめでとうございます」その瞬間、莉亜は狼狽えていた。本当にあの家を誰かに売るつもりではなかったのに!ただ、潤にばれないように、裏でこっそりと財産分与を進めたかっただけだ。一体その人物は誰なのだろうか。数億も相場より上の値段なのにあの家を購入したというのか?莉亜は電話を切ると、すぐにパソコンを開き、その人物の情報を探ろうとした。しかし、取引き記録も、個人情報も、彼女がいくら探ってみても、ファイアウォールによって弾かれてしまうのだ。シークレットキーが次
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第14話

「もちろんやってみたわよ。その人物のファイアウォールは本当にすごいの。きっと世界でもトップクラスよ。特殊なパスワードを作ってるみたい。三つ目まではシークレットキーを破ったんだけど、あと二つがどうしても解けないの」莉亜は赤い唇を噛みしめ、厳しい表情に変えた。それを聞くと、玲衣は急いで慰めの言葉をかけた。「大丈夫よ、落ち着いて。あなたにはまだ助けてくれる人がいるじゃないの!」莉亜はすぐに目を輝かせた。「誰?」「相馬潤のお兄さん、相馬朔也さんよ。彼って世界でもトップクラスの金融界の権力者じゃないの。彼のところにはすっごいハッカーがたくさんいるはずよ。彼に頼んであなたの家を購入した人物を調べてもらえばいいわ」玲衣はあたかも自分のことのように、ホッと胸を撫でおろした。「彼って帰国したんでしょ?だったら、彼にお願いしてみなって。絶対にあなたの頼みなら聞いてくれるから」「朔也さんに……」莉亜は彼が助けてくれる可能性を考えてみた。莉亜は彼にとって義妹である。だから彼はきっと手助けしてくれるだろう。しかも、購入した人物に連絡して、家を取り返してくれるかもしれない。不利な状況でも、打開策はきっとあるはずだ。この時、朔也は莉亜にとって、救世主と同じだった。莉亜は冷静さを取り戻して言った。「よし、どうにかして朔也さんに連絡してみるわ」「うん、焦っちゃダメよ。何かあったらいつでも連絡してね」玲衣はそう付け加えた。彼女が話し終わると、電話越しに看護師の声が聞こえてきた。「風間さん、お薬交換しますよ」それを聞いた瞬間、莉亜はドキッとした。「玲衣、あなた病気になったの?」「違うよ。昨日サウナ室であなたからいろいろ聞いて、頭に血がのぼりすぎて気分が悪くなったの。それで病院で点滴打ってもらってるだけだよ。別に心配するほどじゃないから、さっさと自分のことをしなさい」玲衣は軽い口調でそう返した。莉亜は心の中で少し後悔していた。玲衣は出張で海外に行っていて、戻ってきたばかりで時差ぼけしていたのだ。そんな状況で莉亜のことで気が動転し、病院で点滴を受けているというのに、莉亜のことを心配してくれた。莉亜はそんな彼女に感謝するとともに、自責の念に駆られてしまった。そしてすぐに玲衣のところにお見舞いに行った。彼女はお見舞いの品を持
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第15話

「お邪魔するわよ、お二人さん」莉亜は落ち着いた様子だったが、その声には皮肉が混ざっていた。この時、潤はスプーンで美琴にお粥を食べさせようとしているところで、莉亜の声を聞くと思わず手を震わせてしまい、スプーンのお粥を全て美琴にぶちまけてしまった。美琴はあまりの熱さに叫び声を上げ、彼の胸に飛び込もうとした。潤は無意識に立ち上がり、スーツの皺を伸ばしてまっすぐに莉亜を見つめて説明した。「莉亜、彼女は昨日の夜ショックで体調を崩してしまったんだ。どう考えても俺たちのせいだから、会社を代表してお見舞いに来たんだよ。えっと……今彼女は点滴をしてるから、だから食べさせてあげてたのさ」美琴はすぐ傍でティッシュを掴みゆっくりと服にかかったお粥を拭きながら笑った。「本当に、相馬社長には迷惑をかけてばかりで」莉亜は美琴を一瞥した。「本当に不思議ね。生田さんの旦那さんって一体誰なの?」莉亜がそう尋ねると、美琴と潤は同時に体を硬直させた。莉亜は鼻で笑った。「昨日の夜、潤に電話をかけ間違えたし、旦那さんと喧嘩して私と潤の家に泊まろうとしたよね。それから今は病院にいるけど、あなたの旦那はお見舞いにも来ないのね。夫じゃなく上司である社長があなたの心配をしている?あなたの旦那って本当にクズ男ね」すると莉亜はわざと心配した様子で近寄り、意味深に言った。「潤は私のためにいろんなことをしてくれるのよ。あなたの夫は本当に最低ね!自分の奥さんが入院してもお見舞いにも来ない。義理人情の欠片もない人間だわ。こんな男には雷でも落ちればいいのよ。それか交通事故で死ぬとか、一気に冷たい水を飲んで心臓発作を起こすとかさ……」それを聞いていた潤は怒りで顔を真っ赤にさせ、口元を引き攣らせ莉亜の腕を掴んで引き寄せた。「分かった、分かったから、そんなに興奮するな」莉亜は不愉快そうにしている二人の顔を見て微笑んだ。「私はただ生田さんのことを心配しているだけよ。こんな時に夫が傍にいてくれないなんて、死んだのと同じじゃない?」潤は無理やり笑ってみせた。「そうだね。君の言う通りだよ。それより、どうして病院に来たんだ?」「玲衣が体調を崩したから、お見舞いに来たのよ」莉亜は口を開いたついでに話題を変えて言った。「生田さん、あなたが私の家で使って駄目にした物のお金はまだもらって
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第16話

莉亜は何も言わなかった。潤が朔也の話をするのはあまり聞いたことがない。今思えば、潤は朔也ほど優秀な男ではないことが、彼に大きなトラウマを植え付けているのだろう。莉亜は軽い気持ちで朔也のことを口にしただけなのに、潤は少し聞いただけで不機嫌になってしまった。自分こそこの世代の中ではトップに君臨すると思い込んでいる涼ヶ崎のお坊ちゃんにも苦手な存在があるのだ。莉亜はこの瞬間期待が込み上げてきた。彼女が潤の元から去る時に、ついでに彼の醜い本当の姿を世間に晒してしまえば、一瞬で彼の名声は地に落ちてしまうだろう。そうなると、朔也との差はもう追いつけないほど大きくなると思ってショックを受けるだろうか。彼女はそんなことを考えながら、ふと美琴のあのLINEアカウントは残しておこうと考えた。潤が実際は他の女と結婚していて、莉亜を騙している証拠を集めなければならない。美琴が莉亜を挑発するたびに、世間的にはあの二人が不倫している証拠を残してくれている。莉亜は適当に返事した。「分かったわ、それじゃあね」「待って、俺が送っていく」潤は彼女のためにエレベーターのボタンを押した。美琴に食べさせてあげていたことへの贖罪だろうか。彼は少し考えてから笑って言った。「最近、君が好きなあのブランド、エレグレイスに限定新作のアクセサリーが出たらしいんだ。ネックレスと指輪なんだけど、夜それを君のために買って来させるよ」莉亜は降りていくエレベーターを見つめていた。彼女はこのブランドのファンだ。実はその新作を誰かに頼んで購入してもらうつもりだったのだが、わざわざ自分で手配する手間が省けた。莉亜は軽い口調で言った。「分かったわ」彼女はこの時、どうやって朔也の行方を調べようか悩んでいて、やはり時間を作って相馬邸を訪ねてみることにした。すると、帰る途中で潤に電話がかかってきた。「なんであいつが会社に来るんだよ?分かった、兄さんは俺が劣っているから、会社の収益が悪いと思ってるんだろうな。俺の心配をしてくれるってんなら、それはありがたくきちんとおもてなししないとな」朔也が?莉亜は耳をそばだてて聞いていた。潤が電話を切ると尋ねた。「何があったの?」「兄さんだ」潤は面白くなさそうに言った。「急にうちの会社の経営状況を確認しに来るらしい。もちろん
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第17話

美琴がアップした写真に写っていたのはネックレスと指輪。莉亜はそれを見た瞬間、一瞬呼吸を止めてしまった。潤が申し訳なさそうな顔をしてあの限定新作が買えなかったと言っているシーンが脳裏に浮かんできた。彼女は過去にもこのような事が何度もあったと、ふいに思った。潤の部下が買い間違えたか、あるいは仕事が忙しすぎて忘れていたと言われたこともある。潤が莉亜に買うと約束したくせにくれなかった物は、全て美琴のところにあるのだ。以前莉亜に少し似ているからという理由で代わりとなっていた女が、今では潤の心の中で最も大切な存在に置き換わってしまった。それなら自分は一体なんなのか。つまり自分の代わりだった女と入れ替わってしまったと?莉亜はこの瞬間、非常に馬鹿げていて、アホらしいと感じた。彼女はさっきもらった定番商品のアクセサリーの写真を撮って、それをネットのフリーマーケットに出品した。……翌日。フリーマーケットに出品していたあのアクセサリーが売れたので、その購入者が涼ヶ崎に住んでいるから直接受け取りたいと連絡してきた。莉亜はその相手と約束して、さっき会社へ出勤しに出ていった潤に追いついた。「潤、一緒に会社へ行くわ」潤は一瞬動きを止めた。「会社に何の用事なの?」莉亜は呆れたように眉を上げて、聞き返した。「私が行ったらまずいの?」朔也が会社に来るから、一緒に行って家の件を話さないといけないのだ。潤はそれに返す言葉が見つからず、ただ助手席のドアを開けて彼女を乗せるしかなかった。会社に到着すると、潤は最上階にある会議室に会議に行った。莉亜は悠々と一周見渡した。この際、財務部に行って会社の会計帳簿をチェックして、朔也が来るのを待っていようと考えた。彼女が財務部のオフィスの前に着いた時、ちょうど数人が美琴を囲んで楽しそうにおしゃべりしていた。この時の美琴は、病院でのあの弱々しい様子が消え、存在感のあるあの限定新作のネックレスをつけ、手には結婚指輪とあの限定の指輪をそれぞれ薬指と中指にはめていた。「すっごーい、生田部長、旦那さんから愛されてますね!このブランドの限定が買えるなんて、旦那さんは絶対にすごい方なんでしょうね。一体どこの御曹司なんです?」「生田部長、ちょっとくらい教えてくれたっていいじゃないですか。
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第18話

潤は少し眉をひそめて、すぐにそんなことを気にしないような笑いを漏らした。「莉亜、なんでそんなことくらいで給料を減らすんだよ。今後はつけて来ないように指導すれば済む話だろう」「会社の規定に書いてあるように、社員たちはあまり派手な格好をしてはいけないのよ。そうしないと、会社全体の雰囲気に影響しちゃうでしょ。彼女は部長という役職なのに、こんな規定も守れないなんてね。私は株主でもあるし、この会社の社長夫人という立場でもあるんだよ。まさか、私には言うことを聞かない社員にあれこれ言う権利はないとでも言いたいわけ?」莉亜は冷ややかな視線を潤に落とし、皮肉交じりに笑った。潤は唇をぎゅっとかたく結び、納得いかないような顔をしていた。彼は一歩前に出ると、莉亜に小声で言った。「莉亜、これはやっぱりやりすぎ……」「減給して、いいの?悪いの?」莉亜は彼の言葉を冷ややかな口調で遮った。潤は数秒間沈黙し、さっきよりも不満そうに眉間にしわを寄せていた。そして、結局はこう注意した。「生田部長、財務部に通達してくれ、今後はアクセサリーはつけてはいけないって。それから、今月の給料は減らす」美琴は唇を噛みしめ、すぐに嫌そうに顔を歪めたが、ただそれを受け入れるしかなかった。莉亜は冷たくそれを見つめ、突然ハッとあることに気づいた。潤と莉亜は口座を共同にしているが、あの美琴に買った物のお金はどこから来たのだろう?莉亜は固く拳を握りしめた。「前四半期の配当金の状況を確認したいわ。生田部長、整理して私に見せてもらえるかしら」そう言い終わると、美琴と潤は同時に硬直した。潤のほうがすぐに反応し、笑いながら莉亜を引っ張った。「どうして突然前四半期の配当のことを話題に出したんだい?俺たちの口座はもう分けてるから安心して。次の四半期からは配当金は一円も分けずに君の口座に振り込まれるようになるから」「私はただ前四半期の配当収益がいくらあるか知りたいだけよ。ダメなの?」莉亜は潤に迫った。潤はちらりと美琴を確認した。「見る必要はないよ。君の株の配当金なら俺が調べた。前四半期は二十五億だ。財務に言って振り込ませるからさ。こんなことはこの場で話すのは相応しくないだろう。行こう、コーヒーでも飲みに連れていってあげるから」彼は半ば強引に莉亜の手を引いて歩いていった。莉亜は勘で
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第19話

潤が結婚の証明書を偽造し、莉亜を騙していることを海斗が知ったうえで隠し続けていることを思い出し、莉亜は気分を害して彼のことを無視し、歩いていった。そんな彼女の態度に海斗は驚き、潤を見つめた。「奥様は一体……」「俺に聞かないでくれ。どうして彼女を不快にさせたのか自分で考えろ」と潤は軽く鼻を鳴らして言った。海斗はすぐに彼女に追いついた。「奥様、何かお飲みになりますか?コーヒーか、ジュースか」莉亜は無表情で返事をした。「何でもいいわ」海斗は莉亜がさっき自分に向けた嫌悪感はただの思い違いだったと感じ、安心した。そして腕時計で時間を確認して言った。「では、奥様のお好きなドリップコーヒーにしましょう。そういえば社長、先ほど連絡を受けて、一時間後にお兄様の朔也様が会社にお見えになるそうです」それを聞くと、莉亜は微かに瞳を輝かせた。社長オフィスにあるソファに座り、適当に本を取った。潤はハッと一言声を吐き出し、少し焦りを見せた。「兄さんは本当に来る気なのか?まあいい、本年度の会社の大きなプロジェクトの資料と、総利益の表を持ってきてくれ」海斗は頷き、莉亜にコーヒーを淹れてから、急いでファイルの準備をしにいった。一時間後、朔也が相馬グループにやって来た。彼はあまり注目されたくないので、ひっそりと訪れた。付き添いで来ていた特別補佐官の篠原夏樹(しのはら なつき)がわざわざ電話して、潤や他の出迎えもしないように伝えた。潤は会議室にいて、お茶と茶菓子を用意してもてなす準備をしていた。莉亜は当たり前のように一緒に行った。会議室に着いたが、一列目にあるはずの株主たちが座る席に彼女の名札がなかった。しかも、潤の隣の席が空いていた。彼女は一瞬立ち止まり、また一歩踏み出そうとした時に、会議室の外から突然焦った様子でやって来る人影が見えた。美琴はこの時あのネックレスを外し、会議室に入るやいなや、潤に向けて微笑んだ。そして、彼のほうへとやって来て、隣に座った。莉亜は足を止め、気まずそうにその場に立ち尽くした。潤はこの時まで莉亜の存在に気づいておらず、ネクタイを整えて、美琴のほうへ顔を傾け何かを話していた。二人は見るからに、社長と社長夫人だ。美琴はふいに莉亜の視線に気づいたように振り返り、視線を上げてニヤリと挑発的な笑みを見せた。
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第20話

朔也と視線が合うと、莉亜はすぐに微笑み、それを挨拶代わりにした。朔也はそれに少し会釈して返した。「兄さん」潤が笑顔で立ち上がり、彼のほうへとやって来た。「ようこそ、早く座って。他のみんなは全員揃ってるんだ。兄さんのことを待っていたんだよ」朔也は会議室にある一番前のテーブルを見て淡々とした口調で言った。「言っただろう。ただ見に来るだけだって。どうしてこんなに人を集めたんだ?」「そりゃあ、兄さんをもてなすんだから、適当にはできないだろう」潤は彼に微笑んでそう答えた。朔也はそれに返事をせず、椅子にもたれかかった。そして視線を突然隣にいる美琴に向けた。「こちらは?」莉亜はそれを見て動きを一瞬止めた。美琴がためらった様子で恥ずかしそうに顔をすぐに赤くさせた。「こちらは我が社の財務部長、生田美琴さんだ」潤が紹介した。「財務部長?」朔也は感情が読み取れない声で言った。「お前の隣に座るのは、彼女ではないだろう?」朔也がそう言うと、会議室が静まり返った。全員の視線が美琴と莉亜に注がれた。そう言われてみると、今日は社長夫人もこの場にいるのだ。莉亜はこの状況に内心驚いていたが、それを顔には出さなかった。まさか朔也が会議室に入るなり、席順に問題があると指摘してくるとは思ってもいなかったのだ。潤は口をパクパクと開けて、しどろもどろに答えた。「兄さんに会社の経営状況を見てもらうと思ってたからさ、生田さんは財務部長だから、説明してもらったほうが良いんじゃないかと思って……」「彼女が自分のいるべき場所に座っていたら、その説明とやらができないと言いたいのか?お前の会社では、基本的な会議の礼儀すら欠けているというのだな?」朔也の口調は急に厳しいものに変わった。それに美琴は驚いて体を震わせた。潤の顔色も瞬時に変わった。莉亜は彼をちらりと見た。兄である朔也はまるで父親代わりだ。父親の辰雄は全く使い物にならない人間で、小さい頃からこの二人の兄弟のことにはノータッチだった。潤が今財務管理ができるようになったのも、朔也が彼のために教育チームを手配したからだった。そして今、朔也はこの会社には一切関わっていないが、潤は彼の前ではその威厳が完全に押さえ込まれ、まるで朔也の部下のようになってしまっている。朔也は潤に弁解の余地など与え
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