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嗅覚の法則③

Auteur: 鷹槻れん
last update Date de publication: 2026-01-17 04:29:11

「は? ……すまん。も一回っかい言って?」

 秋連あきつらが告げた言葉が理解できなくて、俺は思わず間の抜けた声を出す。

「だから……代わりに俺の恋愛に付き合えと言ったんだ」

 吐き捨てるように再度発せられた言葉に、俺の思考回路は一瞬停滞する。

「お、お前の……恋愛?」

 秋連のことだからそういうのもそつなくこなせるはずだ、と勝手に思い込んでいた。

 だから、まさか俺にそんな相談をしてくるなんて思いもよらなくて――。

「当たり前だ。他人のなんて持ち出しても仕方ないだろ」

 でも、眼前の悪友は、真っ直ぐに俺の目を見てしっかりとうなずいた。

 そう、これは夢じゃない。

 何度も目をしばたたく俺を見て、秋連が不機嫌そうな顔をする。

「何だ? 嫌なのか?」

「い、いや、そういうわけじゃっ! っちゅーか、むしろむっちゃ関わりてぇ!」

 面白すぎる!

『悩み? んなもんあるわけねぇだろ。お前はいつもあっちこっち悩み事だらけで大変だな』

 そんな雰囲気で、幼い頃から万事において俺なんか足元にも及ばない秀でた才能を発揮していた秋連あきつらから恋愛相談を受けるだなんて!

 自分が同じ事で彼に相談を持ちかけていたことすら吹っ飛んでしまうぐらい、それは愉快過ぎる申し出だった。

「じゃあ、付き合うんだな?」

「もちろん!」

 真剣な顔をして俺の顔を見下ろしてきた秋連に、俺は二つ返事で肯定の意志を伝えた。

「――では、遠慮なく」

 途端、ニコッと極上の笑みを浮かべた秋連を、俺はただただポカンと見上げる。

 と、次の瞬間――。

 いきなり秋連に深く口付けられて、俺は何が何だか分からなくなった。

「ご馳走様」

 ニヤリと笑って遠ざかって行く秋連の顔を見詰めながら、己の身に何が起こったのかを懸命に考える。

 秋連の顔が、俺の上に落としていた影が消えてから、俺はやっと正気に戻った。

「お、おまっ、一体何を……っ」

 いや、何をされたのかは理解出来ているけれど……何でそんなことされなきゃなんねぇんだ!?

 混乱しまくる俺を見て、秋連が「何を今更」とつぶやいてニヤリと笑ってみせた。

忠成ただなり。お前、俺の恋愛に付き合うって言ったじゃねーか」

 言った! ああ、確かに言ったとも!

「でも、それとこれとは関係な……」

「大有りだ」

 まだ分からないのか、と呆れた顔をすると秋連は、

「俺はお前がどんなに汗臭かったとしても……恐らくそうだとは感じ取れん」

 そう言った。

「? ……だからっ! 何でいきなり話が飛ぶんだよ!」

 ここへ来てもチンプンカンプンなことを言う秋連あきつらに、俺の思考回路は空回りを繰り返す。

 余りのことに縫い止められたように身動き出来ない俺は、椅子に腰かけたまま横に立つ秋連を睨み上げる。

「好きになりすぎるとその相手のにおいってあんまり感じなくなるみたいだな。現にお前はニョロ豆のにおい、感じないだろう?」

 勝ち誇ったようにそう言って笑う秋連に、俺は何と反論すればいいのか分からなくて――。

 とにもかくにも恋愛相談に来て、晴れやかな気分で帰れるはずだった友の家を、来たときよりも大きな悩みを抱えて出なければならないことだけは理解出来た。

 あー! もう! 俺はこれからどうすればいいっ!?

[完]

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  • 優等生の秋連くんは幼なじみの忠成くんを落としたい   選択肢/もくろみ/時計

    ---------------------【選択肢】---------------------「俺を選ぶか、失うか。選択肢は一つだけだ。妥協は許さない」 幼いころから俺に依存しまくりの忠成の性格を知り尽くした上で、俺は彼が絶対に逃げられないであろう言葉を告げた。 こう言われれば忠成が俺を選ばないはずがない、と確たる自信があるからこそ言えたセリフ。 でも……心の片隅でほんの少しだけ恐れている。「じゃあ……もう、秋連とは話さない」 そう、言われるんじゃないかと――。      End・・・---------------------【もくろみ】---------------------「チョコってうまいよな」 まるで熱に浮かされ、うわ言を口走るようにことある毎にそんなアピールをしてみる。「え? 秋連ってチョコ好きだったっけ?」 しかし、鈍感な幼なじみは俺の意図に気付くこともなく、あっけらかんとそんなことを言い放つ。(いや、そうじゃなくて……) 少しは俺の目論見に気付けよ。 そんなことを思ってみても、通じるはずもなく……。 あと1ヶ月余りでバレンタインデー。 別に今までそれがそんなに重要な日に思えたことはなかったけれど、今年は少しだけ期待してみよう。 もしかしたら忠成が、種類豊富なチョコレートの山を見て、俺の言葉を思い出してくれるかもしれないから……。        End・・・---------------------【時計】---

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  • 優等生の秋連くんは幼なじみの忠成くんを落としたい   子供の虚勢―枕になんて(2)―

     しっかり抱いているように見えたが、握り締めていたわけではなかったらしい。 思いのほか簡単に抜けた枕を、俺はベッド横の床に置いた。 その途端、眉間にしわを寄せてうなされる忠成。 無意識に両手を伸ばして枕を探す仕草をする。 俺は、黙ってそれを見つめていた。 いつもなら、眠っている忠成から枕を奪うような真似はしない。 したとしても、今みたいになったら迷わず自分の手を差し出していた。 忠成は、とりあえず何かを抱いていれば落ち着くことを知っていたから。 でも、今夜は何も差し伸べてやるつもりはない。 一生懸命何かを掴もうと宙を掻く忠成の両腕を見つめながら、俺は「冷淡になれ」と自分に言い聞かせた。 本当は、こんなに辛そうな忠成の顔を見るのは耐えられない。 今すぐにでもその手を取って、自分の腕の中にきつく抱きしめてしまいたい。 そうすれば、忠成がホッとした顔をして眠り続けることを知っているのだから。「……んっ!」 しばらくそのままにしていたら、忠成が苦しそうに吐息をついてゆっくりとまぶたを上げた。 そうして自分の両腕に枕が握られていないことに気付くと、ハッとして起き上がった。 そこで、すぐ傍にいる俺に気付く。「秋、連……?」 きょとんとして俺を見つめてから、「枕は?」と恐る恐る口を開く。 まさか俺がわざと取り上げただなんて思いもしないんだろう。 純粋に問いかけてくるその視線に、俺は視線を逸らしたいような衝動に駆られる。 でも、ここで逃げては駄目だ。 そう言い聞かせると、一呼吸置いて、「俺が取り上げた」 淡々とそう告げた。 その台詞に、忠成が瞳を見開いたのが分かる。「……な、んで……そんな……こと?」 解せな

  • 優等生の秋連くんは幼なじみの忠成くんを落としたい   子供の虚勢―枕になんて(1)―

     机に向かっていても、勉強なんてはかどるはずがない。 後ろで忠成が眠っている気配がするからだ。 スースーという規則正しい寝息が、エアコンのモーター音より遥かに大きく聞こえてしまう。 これで気にするな、というほうが無理だ。 一応俺だって健全な男。気になる存在が、すぐ傍で無防備にしているのを知っていて平常心で居られるはずがない。 落ち着け落ち着け、と強く心に念じるけれど、そうしていること自体、気にしている証拠だ。 壁の時計を見ると、さっき見てから五分しか経っていない。 数分おきに時計を見上げては、一向に落ち着きを取り戻せない心臓に舌打ちをする。 そんなことを、さっきから何十回続けただろう。「11時過ぎか」 忠成が「おやすみ」を告げてから、優に2時間以上が経過していた。  そろそろいいだろう。 忠成が眠りについてすぐ、部屋の電気自体は落としてある。それで、机に付随している小さな蛍光灯の明かりだけが部屋内を照らす全てだった。 頼りない明るさの中、恐る恐る後ろを振り返ると、俺の影が重なるところに、薄っすらと忠成のシルエットが見えた。 やっぱり今日も枕を抱きしめているみたいだ。 音を立てないよう細心の注意を払いながらベッドサイドに歩み寄ると、俺は苦々しい気分でその寝姿を見下ろす。「俺の前でぐらい素直になれよ」 まるで何かにすがりつくように枕を抱いて眠る忠成に、胸の奥がズキズキと痛んだ。 俺はこの幼馴染みが、一度寝入ってしまえば少々のことでは起きないことを知っている。 ベッドの傍らに腰を下ろすと、無防備に眠る忠成の頭をそっと撫でる。髪の毛に触れるか触れないかという、ソフトなタッチだ。このくらいで起きるはずがない。 そう思っていて、こんなにも胸がドキドキするのは、別の部分で反応しているからに他ならない。 ライトを後ろに背負う格好になっているせいで、俺が覆い被さると忠成の寝顔は影に沈んで見えにくくなる。

  • 優等生の秋連くんは幼なじみの忠成くんを落としたい   温度差―呼び出し(3)―

    「……帰れ」 俺は忠成を振り返らないままに何とか一言、それだけを告げる。 「で、でも……」 俺の言葉が信じられないという風に、忠成が言葉を連ねる。恋愛感情で迫られるのは勘弁して欲しいけれど、俺に背を向けられるのは怖い。そんな雰囲気がまざまざと感じられて、忠成はずるい、と思った。 「……聞こえなかったのか? 帰れ、と言ったんだ」 忠成に背を向けたまま。怒っているのか悲し

  • 優等生の秋連くんは幼なじみの忠成くんを落としたい   温度差―呼び出し(2)―

    「お前が何をしたか分からない俺だと思うか?」 そればかりか、忠成の手を壁に押し付けるように押さえつけて、その身体をその場に縫いとめた。さらに空いたほうの手を彼の顔の真横について壁際に閉じ込めると、至近距離から幼なじみに詰め寄る。 「……だ、だって前に俺と妹、似てるかな?って聞いたら……秋連、うん……って言ったじゃんっ。……だからっ!」 今まで俺から視線を逸らすように俯いていた忠成が、キッと俺の顔を見上げるようにして睨みつけると、そう言った。

  • 優等生の秋連くんは幼なじみの忠成くんを落としたい   温度差―呼び出し(1)―

    「忠成、今日、結衣ちゃんがうちに来た」 夕方、結衣ちゃんから待ち伏せをされた俺は、彼女から申し訳なさそうに「ごめんなさい」と言われた。 何を謝られているのかすぐにはピンと来なかったけれど、彼女の雰囲気から何となく察した俺は、逆に幼い彼女を巻き込んでしまったことを申し訳なく思った。 「……いや、気にしないで」 あえて前髪を掻き上げて表情が見えるようにすると、俺は努めて穏やかに微笑んでみせた。 「俺の方こそごめんね。気を揉ませて」 言いながらポンポン、と彼女の頭を撫でる。 幼い頃からそうしてきたように、二人目の兄として当

  • 優等生の秋連くんは幼なじみの忠成くんを落としたい   温度差―訪問者―

    6月。 そろそろ梅雨入りだろうか。鈍色の空と、湿度の高いジメジメとした空気に、正直気分が滅入りそうだった。 「暑……」 目が悪いわけではないくせに、幼なじみの忠成のことを意識し始めた時に、自分の気持ちを自制するためと、表情を悟られ難くするためのアイテムとしてかけ始めた伊達眼鏡。そのポジションを指先で軽く押し上げて直すと、俺は手にした鞄を持ち直した。 忠成に、必死の覚悟で積もりに積もった想いを伝えたのがこの五月のこと。 何の前触れもなく、半ば不意打ちをするように彼の唇を奪う形で遂げた告白は、思いのほか好感触だったと思っていた。

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