結婚式の1週間前、婚約者の野村翔(のむら しょう)は、福田紬(ふくだ つむぎ)のために20億円を費やして島を買った。それを知った私は、翔が私のためにわざわざオーダーしてくれたウェディングドレスを、ゴミ箱に捨てた。結婚式の6日前、翔は紬のために会場を貸し切って、一晩中花火を打ち上げた。私はそれに続けて、彼のために植えた庭いっぱいのバラを、めちゃくちゃにしてやった。そして今日、翔と紬はインスタに、ペアリングをはめて繋ぎ合わせた手の写真をアップした。私は指輪を外し、彼の両親に婚約を取り消したいと告げた。「私では翔には不釣り合いです。おじさん、おばさん、どうかこの婚約の解消を認めください」すると、翔の母親の野村日和(のむら ひより)は綺麗に手入れされた爪をいじりながら、口の端を上げた。「まあ。どうして急に、婚約破棄だなんて言い出したの?翔と、何か誤解でもあったのかしら?」その目は喜びで輝いていたけれど、口調はあくまでも、さりげない様子だった。わかっていた。もしあの時、野村グループが経営危機に陥ってうちの助けが必要じゃなければ、彼らは私と翔の結婚を許すはずがなかった。彼らにとって、翔ほど優秀であれば、彼の妻となる相手もそれ相応な家柄に加え、世間にも認められる社会的地位と名声が求められる。私は明らかにその条件を満たしていなかったようだ。そこへ現れたのが、有名なファッションデザイナーの紬で、ちょうど翔の両親の見栄を完璧に満たしていたのだ。「誤解ではありません。ただ、翔にはもっとふさわしい方がいると思っただけです」それを聞いて、日和は笑みを隠そうともせず、あっさりと婚約破棄の申し出を受け入れた。彼女は、口では「残念だわ」なんて言いながら、その顔は嬉しそうでたまらないようだった。その夜、私は眠れずにいた。すると真夜中になって、ガチャリとドアの鍵が開く音がして、翔が帰ってきた。どうやら彼はいわゆる「出張」を終えたようで、実際にはただ紬と楽しい旅行をしてきただけなのだ。「お土産、買ってきたよ。気に入るかな?」彼はリュックから綺麗な箱を取り出して、期待に満ちた顔で私の前に差し出した。だが、私は包みを開けなくても、中に何が入っているかなんてお見通しだった。どうせ、いつも私にくれる香水だろう。そう言えば、こ
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